一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンションからの落下物で怪我を負った場合誰に責任を追及できるのか、法律に基づいて解説します。

マンションの瑕疵による他人への損害賠償責任

◆外壁の落下により通行人が怪我をした場合など

 

マンションの施工時の手抜工事によりマンションに欠陥(瑕疵)が存する場合に、管理組合または各区分所有者が分譲業者(売主)または施工業者にどのような責任を問えるかについては、本連載第7回で述べました(関連記事『購入したマンションに欠陥が…誰に損害賠償を請求する?』参照)。

 

それでは、たとえばマンションからモノが落下し、たまたまその下を通行していたそのマンションの居住者または居住者以外の人にモノが当たり怪我をさせた場合に、管理組合または区分所有者はどのような責任を負うのでしょうか。また、マンションの給排水管からの水漏れ事故により特定の区分所有者が損害を受けた場合には、誰が責任を負うのでしょうか。

 

もちろん事故原因となったものが特定の人のモノであることが明確であったり、特定の人が事故原因をつくりだした場合には、その特定人が責任を負うことになります。

 

しかし、上の例で落下したモノや水漏れを起こした給排水管が誰のものかが明らかではない場合は問題となります。損害を受けた被害者は、誰に請求したらよいかわかりません(なお、本連載第10回で述べた最高裁判決では、給排水管が共用部分であるとして管理組合が責任を負うことを認めました)(関連記事『マンションの一室を購入…物置やトランクルームの「権利」は?』参照)。

 

◆土地工作物責任と瑕疵の所在部分の推定

 

民法717条1項は、土地工作物(区分所有建物もこれに該当します)の設置または保存の瑕疵により他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者または所有者が賠償責任を負うと規定しています(これを土地工作物責任といいます)。

 

区分所有建物以外の建物においては、瑕疵が建物のどの部分に存するかが明らかにされなくても、その建物の瑕疵によって損害が生じたことが立証されれば、被害者はその建物の占有者または所有者にその損害の賠償を請求することができます。

 

しかし、区分所有建物にあっては、その建物が専有部分と共用部分とに分かれており、その帰属主体が異なっています(専有部分は当該部分の区分所有者の所有であり、共用部分は原則として区分所有者全員の共有です)ので、瑕疵がいずれの部分にあったかによって異なる結果となります。

 

すなわち、瑕疵が、専有部分にある場合には専有部分の占有者または所有者が賠償責任を負い(東京地判平4・3・19判時1442号126頁・判解7事件参照)、共用部分にある場合には共用部分の占有者または所有者が賠償責任を負います。

 

ところが、実際に区分所有建物にあっては、その瑕疵が専有部分にあるのか共用部分にあるのか明らかでない場合が少なくありません。このような場合に、被害者がこの点を明らかにして主張・立証することができない限り、専有部分・共用部分のいずれの占有者または所有者に対しても損害賠償の請求をすることができないとすれば、被害者にとってははなはだ不都合なこととなります。

 

そこで、区分所有法は、そのような場合に賠償請求権者の立証責任の軽減を図ることを目的として、瑕疵は共用部分にあるものと推定しました(9条)。

マンションの専有部分の区分所有者に損害が生じた場合

◆マンション内の水漏れ事故の場合など

 

民法717条および区分所有法9条においては、「他人」に損害が生じたことが要件とされています。それでは、たとえば漏水によってマンションの特定の専有部分の区分所有者に損害が生じた場合はどうでしょうか。

 

たしかに、民法717条および9条の「他人」とは、文理上、土地工作物(建物)の占有者、所有者以外の者ですが、しかし、区分所有法9条の規定が設けられた趣旨は、区分所有建物から生じた損害を区分所有者全員(区分所有者の団体)で受け止めるということですから、特定の区分所有者に損害が生じた場合にも、この規定の適用を肯定すべきです。

 

◆他に原因者がいる場合

 

区分所有法9条により区分所有者全員(管理組合)で損害賠償責任を負担した場合において、他に損害の原因について責めに任ずる者があるときは、その者に対して求償権を行使することができます(民法717条3項)。損害についての他の原因者としては、区分所有建物の建築業者、分譲業者、修理業者、管理の受託業者(管理会社)などが考えられます。
 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

マンション法案内 第2版

鎌野 邦樹

勁草書房

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