一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンション購入者の所有権について見ていきます。

 

Aさんは、最近、マンションの305号室を購入しました。廊下、階段室、エレベーターなどはマンション住人全員の所有で、305号室内の床、壁、給排水管などはAさんの所有であると聞いています。それでは、窓や玄関ドアは、どちらの所有なのでしょうか。また、敷地については、どうなのでしょうか。さらに敷地内にAさん専用の駐車スペースがありますが、この部分の権利はどのようなものなのですか。

独立した倉庫や車庫は「専有部分」となったケースも

◆共用設備がある場合に専有部分となるか

 

本連載第8回で述べたように、住戸(専有部分)内にある支柱・耐力壁や区分所有者共用の電気・ガス・給排水等の配管・設備は、上塗りの部分を除いて共用部分と解されます(関連記事『マンションの窓は誰のもの?購入時に確認したい所有権の範囲』参照)。

 

それでは、マンション内のそれ自体独立した倉庫部分や車庫部分について、その内部に共用設備(設備自体は共用部分)がある場合に、そのような建物部分は「専有部分」となるでしょうか。専有部分となるためには、構造上の独立性と機能上の独立性が必要ですが、これらの独立性があっても、その内部に共用施設がある場合には、共用部分であって、専有部分とはならないのでしょうか。

 

判例は、車庫部分に建物の共用設備である排気管およびマンホールが設置されていた事例について、

 

「右の共用設備が当該建物部分の小部分を占めるにとどまり、その余の部分をもつて独立の建物の場合と実質的に異なるところのない態様の排他的使用に供することができ、かつ、他の区分所有者らによる右共用設備の利用、管理によって右の排他的使用に格別の制限ないし障害を生ずることがなく、反面、かかる使用によって共用設備の保存及び他の区分所有者らによる利用に影響を及ぼすこともない場合には、なお建物の区分所有等に関する法律にいう建物の専有部分として区分所有権の目的となりうる」

 

と判示しました(最判昭56・6・18民集35巻4号798頁。その他、マンション内の車庫・駐車場が専有部分に当たるとした判決として最判昭56・7・17民集35巻5号977頁等があります)。

 

この事例のように、その建物部分が居室部分ではなく車庫部分である場合には、共用設備の不存在が利用上の独立性にとって絶対的な要件となるわけではありません。

 

これに続いて、最高裁は、倉庫内に共用設備として電気スイッチ等各種動力系スイッチ、汚水マンホール、雑排水マンホール、各種配管があり、また、各種スイッチの操作のために管理人が同倉庫内に1日3回程度立ち入るような場合について、上記の最高裁の判断基準(①共用設備の当該建物部分に占める割合が僅少であり、②当該建物部分の権利者の排他的使用が可能であり、また、③右排他的使用が共用設備の保存・利用に影響を及ぼさない)によって、倉庫の利用上の独立性を認め、当該倉庫を専有部分と判断しました(最判昭61・4・25判時1199号67頁・判解9事件)。

 

◆専有部分の範囲と規約

 

実際には、専有部分と共用部分の範囲を明確に示しておくために、規約(規約については、後に詳しく述べます)において、それぞれの範囲を明示しているのが一般的です。ここで、注意を要することが3つあります。

 

第1は、専有部分と共用部分の範囲は、本来、建物の構造から決定されるのであって、規約の定めをもって決定するものではないということです。第2は、そうはいっても、実際には、専有部分か共用部分かが必ずしも明確ではない「グレー・ゾーン(中間的部分)」が存在する場合があります。その場合に当該部分をめぐって紛争が生じたときには、規約の定めが、実際には大きな意味を有します。

 

ただ、規約の定めがあったからといって、このことが必ずしも優先するものではなく、最終的には、裁判で決するほかありません。第3に、マンションの建物の構造は多様ですから、特定の設備(たとえば、住戸内の給排水管)が、どのマンションでも、一律に専有部分か共用部分かのいずれかに属するということにはなるものではありません。次に示す「マンション標準管理規約(単棟型)」の定めも、あくまで標準的なマンションにおける場合の例示にすぎません。

玄関扉の錠や内部塗装部分は「専有部分」に定められる

◆標準管理規約に定める専有部分の範囲

 

マンション標準管理規約(単棟型)では、専有部分の範囲として次のように定めています。

 

専用部分の範囲
専用部分の範囲

 

上記7条1項の「住戸番号を付した住戸」とは、Aさんの住戸の「305号室」のようなものをいいます。同条2項の「前項の専有部分(住戸番号を付した住戸)を他から区分する構造物」とは、本連載第8回に述べた「区隔部分」です。

 

ここでも、上塗説(区隔部分の骨格をなす中身の部分(壁心)は共用部分であるが、その上塗りの部分は専有部分に含まれるとする説)を採用しています。Aさんの住戸(305号室)にも、他の住戸と同じように、開口部分として、玄関扉と窓の部分がありますが、この両者とも、基本的には、共用部分です。玄関扉は、外側部分は多くの場合に廊下と接し、廊下という建物部分の一部を形成していますので、これを専有部分として当該区分所有者に自由な撤去や改造等を認めることは妥当ではないからです。

 

ただし、玄関扉の錠と内部塗装部分については、当該区分所有者の自由に任せた方が妥当ですから、専有部分としました。窓枠および窓ガラスについては、多くの場合に当該マンションの外観を形成しますから、玄関扉の場合と同じように、これらについて当該区分所有者の自由な意思に任せることは妥当ではありません。そこで、共用部分としています。ただ、3項で、「第1項又は前項の専有部分の専用に供される設備のうち共用部分内にある部分以外のものは、専有部分とする」として、たとえば窓枠および窓ガラスの住戸の外側部分は共用部分ですが、住戸の内側部分は専有部分としています。

 

共用部分としたことと、現実の管理ないし費用負担(割れた窓ガラスの取替え等)とは、必ずしも連動しません。現実には、各住戸専用の窓ガラスは共用部分であっても、その取替えは、当該住戸がその費用を負担するとしています(マンション標準管理規約(単棟型)21条1項但書)。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

マンション法案内 第2版

鎌野 邦樹

勁草書房

購入、建物維持・管理、定期的な大規模修繕、建替えに至るマンションのライフサイクルに即した具体的事例を、やさしい語り口でわかりやすく解説。民法、被災マンション法、建替え等円滑化法等の法改正、最新の統計資料、重要判…

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