Aさんは、最近、マンションの305号室を購入しました。廊下、階段室、エレベーターなどはマンション住人全員の所有で、305号室内の床、壁、給排水管などはAさんの所有であると聞いています。それでは、物置やトランクルームについては、どのような権利が発生しているのでしょうか。
「排水管の水漏れ」の責任を管理組合に追及した判例
◆建物の附属物と附属の建物
専有部分には、区分所有権の目的である「建物の部分」のほか、「建物の附属物」および「附属の建物」が含まれることがあります。住戸内にある水道管・水道設備や給排水管・給排水設備などは、「建物の附属物」です。
ところで、Aさんの居住するマンションには、地下に各住戸専用の6平方メートル程のトランクルームがあり、Aさんの家族も、普段はあまり使用・着用しない日用品や衣類等を収納したり、なかなか棄てることができない数多くの「思い出の品々」等を置いており、たいへん重宝しています。このようなトランクルームは、「附属の建物」に当たります。
●建物の附属物(給排水管等)
建物の附属物には、電気・ガス・上下水道・冷暖房等の配線・配管設備等があります。これらは、一般的には建物の構成部分となり建物と一体となるものですが(民法242条参照)、必ずしも建物の構成部分とはならないで、専有部分に属する場合と共用部分に属する場合とがあります。
建物の附属物が専有部分に属するのは、一般的に建物の専有部分の内部にあり、かつその専有部分の利用のために設置されている場合です。「住戸共通の水道管」と「その管から枝分したその専有部分のための水道管」については、一般的には、前者は共用部分に属しますが、後者は専有部分に属します(東京地判平5・1・28判タ853号237頁参照)。それでは、排水管についてはどうでしょう。
排水管の帰属に関しては、次の最高裁判決(最判平12・3・21判時1715号20頁・判解11事件)があります。区分所有者の一人(原告)が、階下の天井裏を通っている排水管から発生した漏水事故につき階下の区分所有者のために同排水管の修理を余儀なくされたことから、管理組合(被告)に対して同排水管が区分所有者全員の共用部分であることの確認と同修理費用の求償を求めました。
管理組合が、この部分の排水管は専有部分であるから原告の負担で修理するべきであると主張しましたが、原告は、この部分は共用部分であるから修理費用は本来、管理組合が負担すべきであると主張しました。
この事案では、このような排水管が区分所有法2条4項にいう「専有部分に属しない建物の附属物」として共用部分に当たるかどうかが争点となりました。第一審(東京地判平8・11・26判タ954号151頁)は、同排水管が所在する天井裏の空間を共用部分とし、同排水管は本件建物の附属物というべきであり、同法2条4項の共用部分と解して原告の請求を認めました(被告控訴)。
第二審(東京高判平9・5・15判時1616号70頁)は、同排水管につき点検・修理等のためには階下の居室に立ち入る必要があり、原告だけでそれを行うことは困難である等の事実を認定し、また、天井裏の空間は階下の専有部分に属するとしたうえで、「本件排水管は、特定の区分所有者の専用に供されているのであるが、その所在する場所からみて当該区分所有者の支配管理下にはなく、また、建物全体の排水との関連からみると、排水本管と一体的な管理が必要である」との理由で同排水管を共用部分としました(被告上告)。
最高裁も、これを支持して、「右事実関係の下においては、本件排水管は、その構造及び設置場所に照らし」共用部分であるとして上告を棄却しました。
配線配管について、標準管理規約は、「給水管については、本管から各住戸メイターを含む部分、雑排水管および汚水管については、配管継手および立て管」を共用部分の範囲(「共用部分の附属物」)とし、いわゆる「立て管」(「縦管」)から枝分した住戸内のその住戸専用の「枝管」(「横管」)は、「専有部分の附属物」としています。
まさに「標準」的な場合は、このように解してもよいと思いますが、上記の最高裁の事案のような場合には、このように解することは実際上問題があるので、当該住戸専用の「枝管」についても「共用部分の附属物」と解すべきでしょう。
ただ、筆者は、給排水管等については、それぞれのマンションにおいて、規約によって、専有部分・共用部分の範囲や修理等に関する費用負担について定めることができ、そのような定めがある場合には、基本的にその定めによるべきであると考えます。
ガレージが区分所有者の「専有部分」となる場合も
●附属の建物
附属の建物とは、区分所有建物とは別個の不動産ですが、物置やガレージのように、区分所有建物に対して従物の地位にある建物またはその建物の部分をいい、専有部分とされる場合があります。
この意味における附属の建物の態様には、①主たる建物とは別の建物の全体である場合(たとえば、住戸部分に隣接した当該住戸専用のガレージや物置の全体)、②主たる建物とは別の建物の区分した一部分である場合(たとえば、①の例のガレージや物置の一部分)、③主たる建物と同一の、一棟の建物の区分した一部分である場合(たとえば、マンションの地下にある当該住戸専用の駐車室、機械室、トランクルーム)などがあります(下記図表2参照)。先にあげたAさんのマンションの地下のトランクルームは、③の態様のものです。
①、②、③のうち、少なくとも③の場合においては、主たる建物と附属の建物とのそれぞれに区分所有権が一応成立しますが、2つの専有部分があるとして扱うのではなく、住戸部分と、たとえばトランクルームとは、主物と従物の関係にあると考えられますので、住戸部分である専有部分にトランクルームが吸収されて、両者を一体として1つの専有部分として扱うべきでしよう。基本的には、③だけでなく、①、②の場合においても、同様に考えるべきではないでしょうか。
◆専有部分の使用・収益・処分権
基本的に、専有部分については、各区分所有者が自由に使用できますが、区分所有者の共同の利益に反するような使用は制限されます(6条1項)。たとえば、住戸内で猛獣を飼育したり、住戸内に爆発物を保管したりすることは許されません。
また、専有部分(区分所有権)が処分される場合には、共用部分の共有持分もこれと共に処分されます(15条1項。原則として敷地の権利もこれらとともに処分されます)。専有部分(305号室)だけ売って、共有部分(たとえば廊下)の共有持分だけは売らないということはできません。
鎌野 邦樹
早稲田大学 法科大学院