マンションの共用部分の管理…「耐震改修」に関わる法律とは

一戸建ての特家住宅や賃貸住宅と並んで、ごく一般的な住宅となっているマンション。そのため、私法としても、「マンション法」は重要な法分野となっています。本連載は、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション購入の基礎知識、居住地の財産関係をはじめとした法律問題をわかりやすく解説します。本記事では、マンションの共用部分の管理に関わる法律について見ていきます。

マンション共用部分における「管理」と「変更」の違い

(ア)通常管理か変更か

 

マンションの共用部分において、「(通常の)管理」(18条)に該当するか「変更」(17条)に該当するかは、具体的場面においては明確でない場合がありますが、一般論としては、変更とは、共用部分の形状または効用を確定的に(法文上は「著しく」)変えるものであるのに対し、(通常の)管理とは、それらを確定的に変えるには至らないもの(単なる改良行為)であるといえるでしょう。

 

たとえば、共同の洗面所の内部を改装すること、共用部分の使用方法を定めること、来客用の駐車スペースを指定すること、人を雇って共用部分を清掃させることなどは、通常の管理事項であると解されます。

 

裁判例として、マンション内の各室に敷設されている雑排水管を共用部分としたうえで、その取替え工事について通常の管理事項であると判示したものがあります(東京地判平3・11・29判時1431号138頁・判解24事件)。しかし、個々の具体的場面においては、当該事項が集会の過半数決議で足りるか特別決議を要するかという点に留意して、通常の管理に該当するか変更に該当するかを慎重に判断する必要があるでしょう。

 

通常の管理についての集会の決議は、いわゆる普通決議であり(39条1項)、規約に別段の定めがない限り、区分所有者および議決権の各過半数で決せられます(18条1項、2項)。標準管理規約(単棟型)では、普通決議全般について、「規約に別段の定め」をしており(規約による別段の定めは、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってします)、集会の決議は、議決権総数の半数以上の出席を要件としたうえで、その議事は、出席区分所有者の議決権の過半数で決すると定められています(47条1項・2項)。

 

(イ)特定区分所有者の承諾

 

共用部分の変更についての決議の場合と同じく、共用部分の通常の管理に関する事項が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を必要とします(17条2項の規定の18条1項本文の場合への準用(18条3項))。

 

たとえば、共用部分の通常の管理に関する事項としてある共用部分の使用方法を定めたことによって、特定の専有部分への出入りが不自由になるとか、特定の専有部分に恒常的に騒音被害を与えるというような場合(共用廊下に設置された自動販売機から発する騒音)がこれに該当するでしょう。

 

(ウ)損害保険契約の締結

 

区分所有建物においては、その共用部分について住宅火災保険、地震保険、施設賠償責任保険等の損害保険契約をする例が多くみられます。この場合の損害保険契約の締結は、共用部分の管理に関する事項であるとも考えられますが、区分所有者全員にとって必要不可欠なものとして保存行為と考えることもでき、いずれに該当するかは必ずしも明らかではありません。前者だとすると集会の普通決議によりますが、後者だとすると管理者(または理事会)等の判断で締結が可能です。

 

区分所有法では、この点を明確にするために、これを共用部分の管理に関する事項とみなしました(18条4項)。したがって、規約でこれと異なる定めをすることはできません。共用部分についての損害保険契約は、集会の普通決議に基づいて締結され、その結果、各共有者全員が、締結された損害保険契約の保険料の支払義務を分担することになります(19条)。

耐震改修と建築物耐震改修促進法(2013年改正法)

多くのマンションは、建築時の建築基準法(施行令)の耐震基準をもとに設計され、建築されます。

 

関東大震災級の大地震があったとしても倒壊・崩壊の危険が低いとされる耐震基準(「新耐震」)は、1981年6月に設けられました(現存する建築物の耐震基準に関しては、①1971年より前に建設され、1971年に改正される前の「旧旧耐震基準」に基づくもの、②1971年以降1981年より前に建築され、1971年に改正された「旧耐震基準」によるもの、③1981年以降に建築され、1981年に改正された現行耐震基準(「新耐震」)によるものがあります)。

 

したがって、1981年以降に建築されたマンションについては、基本的にこのような耐震強度を満たしていますが、それより前に建築された建物は、少なからず現行の耐震基準を満たしていないと考えられます。2015年末現在、623万戸あるマンションのうち、約100万戸が新耐震より前に建築されたものです(国土交通省調べ)(書籍『マンション法案内 第2版』刊行当時)。

 

このことからすると、管理組合(区分所有法3条の「区分所有者の団体」。以下同じ)は、1981年より前に建築された「経年マンション」については、まずは「耐震診断」を受け、耐震強度が不足している場合には、「耐震化」のための措置を講ずることが望まれます。耐震化のための集会決議にあたっては、2013年改正の建築物耐震改修促進法によって、特別の規定が設けられました。

 

すなわち、「既存耐震不適格建築物」(1981年以前に建築された「旧耐震基準」または「旧旧耐震基準」に基づく建物で現行の耐震基準を満たしていないと考えられるもの)について、同法で定める「耐震診断」を受診した結果、耐震強度が不足していると認定された区分所有建物(マンションに限定されません)の管理者等は、申請によって行政庁から「要耐震改修認定建築物」の認定を受けると、その区分所有建物については、たとえ耐震改修が「共用部分の変更」に該当する場合であっても、区分所有法で要求する集会の特別多数決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数決議)を必要とせず、過半数決議(普通決議)によってこれが可能となります(25条3項)。

 

その決議があった場合には行政による補助金が予定されています。ただ、上の同法25条3項の規定は、区分所有法17条2項の規定の適用に関しては何も定めていませんから、要耐震改修認定建築物であるマンションの耐震改修の場合についても、同規定の適用があるため、過半数決議とは別に、特別の影響を受ける区分所有者の承諾を得る必要はあります。

 

実務上は、特定の区分所有者に特別の影響を与えないような耐震改修の方法が検討されなければならないでしょう。

共用部分の「保存行為」において、集会決議は不必要

共用部分の保存行為は、各区分所有者が単独ですることができ、集会の決議は必要としません(18条1項但書)。保存行為とは、共用部分を維持する行為(共用部分の滅失・損傷を防止して現状の維持を図る行為)ですが、保存行為は集会の決議を要せずに各区分所有者が単独でなしえる行為であることから、そのうち、緊急を要するか、または比較的軽度の維持行為であると解されます(川島一郎著『建物区分所有等に関する法律の解説』(中)・法曹時報・1080頁)。

 

一応の目安として、月々の管理費で賄える範囲内のものがこれに該当し、そうでないもの、つまり、修繕積立金を取り崩す必要がある修繕や分担金を要する修繕は通常の管理(同条1項本文)に該当すると解されるでしょう(高柳輝雄『改正区分所有法の解説』・ぎょうせい・56頁)。たとえば、共用部分の点検や破損個所の小修繕等は保存行為に属しますが、共用部分の定期的な塗装工事等は通常の管理に属します。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

1953年生まれ。早稲田大学卒業。千葉大学教授を経て、現在、早稲田大学法科大学院教授(民法、土地住宅法等)。法務省法制審議会(建物区分所有法部会)委員、国土交通省各種委員会委員等を歴任。現在、東京都公益等認定委員会、千葉県都市計画審議会、マンション管理士試験委員、管理業務主任者試験委員等を兼務。

著者に、『金銭消費貸借と利息の制限』(一粒社、1999年)、『マンション法』(共編著、有斐閣、2003年)、『コンメンタール マンション区分所有法 第3版』(共著、日本評論社、2015年)、『マンション法の判例解説』(共編著、勁草書房、2017年)、『不動産の法律知識 改訂版』(日経文庫、2017年)等がある。

著者紹介

連載購入から登記までをわかりやすく解説!「マンション法」の基礎知識

本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

マンション法案内 第2版

マンション法案内 第2版

鎌野 邦樹

勁草書房

購入、建物維持・管理、定期的な大規模修繕、建替えに至るマンションのライフサイクルに即した具体的事例を、やさしい語り口でわかりやすく解説。民法、被災マンション法、建替え等円滑化法等の法改正、最新の統計資料、重要判…

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