本記事では、早稲田大学法科大学院教授・鎌野邦樹氏の著書『マンション法案内 第2版』(勁草書房)より一部を抜粋し、マンション広告の表示について、都市計画法と建築基準法の関連する制度を見ていきます。また、購入者保護の見地から業者に規制を課している宅地建物取引業法についても概観します。

都市計画法と建築基準法に関連する広告記載について

◆販売広告を読む

 

●都市計画における用途地域

 

都市部においては、都道府県(複数の都府県にわたる場合には国土交通大臣)によって、一体の都市として総合的に整備し、開発し、および保全する必要がある地域については、「都市計画区域」として指定されています(都市計画法5条)。そして、都市計画区域は、市街化を積極的に進める「市街化区域」と市街化を抑制すべき「市街化調整区域」に二分されます(7条。なお、このような区域区分がなされていない都市計画区域もあります)。

 

都市計画区域内には、さらに細かな利用目的別の地域地区として、市町村によって(15条1項参照)用途地域と補助的地域地区が定められます(8条1項)。用途地域は、市街化区域には必ず定めるものとされ、市街化調整区域には原則として定めないものとされています(13条1項7号)。

 

用途地域は、住居系の建物を建てるべき地域(第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域)、商業系の建物を建てるべき地域(近隣商業地域、商業地域)、および工業系の建物を建てるべき地域(準工業地域、工業地域、工業専用地域)の12種類に分けられます(8条1項1号、9条1項~12項)。

 

このような用途地域の指定によって、各用途で建てられる建物について、建物の種類や大きさ等に制限が加えられることになります。

 

先に掲げたマンションの販売広告にある「商業地域」は、以上の用途地域のうちの一つで、最も高度の土地利用が認められる地域です。

 

なお、用途地域とは別に、用途地域内の一部の地区または用途地域外の一部の地区などに、地域の特色を出すために、高度利用地区、防火・準防火地域、景観地区、風致地区などの補助的地域地区が定められることがあります。

 

●建築基準──どのような建物が建てられるか

 

都市計画区域内の建築物については、建築基準法のいわゆる集団規定として、用途規制(建物の用途の制限)、建物の大きさの規制(建ぺい率(建築物の建築面積の敷地面積に対する割合)、容積率(建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合)等)、建物の高さ制限の規制等があります。これらに対して、都市計画区域内にある建物以外の建物であっても、建物には一定の安全性や快適性を備える必要があります。

 

そこで、建築基準法は、①建築物の敷地、②建築物の構造、③建築設備の3つの観点から、いくつかの制限(単体規定)を加えています。

 

都市計画区域内等での建築物の新築、増改築、移転をしようとする建築主は、建築計画が建築基準の関係規定に適合するものであることについて、工事着手前に、確認の申請書を提出して、建築主事(都道府県または人口25万以上の市に置かれます)または指定確認検査機関(国土交通大臣または都道府県知事が指定)による建築確認を受け、確認済証の交付を受けなければなりません(6条1項、6条の2第1項)。

 

上の広告にある「建築確認番号***」は、このマンションが建築確認を受けていることを意味します。そして、工事施工後に中間検査を経て工事を完了させ(7条の3)、完了後には完了検査を受けなければなりません(7条)。行政は、違反建築物に対しては、一定の違反是正命令等の措置をとることができます(9条)。

宅地建物取引業法における「誇大広告の禁止」など

◆宅建業者からの購入

 

マンションを購入する者の多くは、それが新築であれ中古(既存)であれ、業者から直接に、またはその仲介で購入します。以下では、この場合に関し購入者保護の見地から業者に規制を課している宅地建物取引業法を概観しておきましょう。

 

●マンション購入と宅地建物取引業法

 

宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」といいます)は、宅地建物の取引を業とする者に対して、免許制度を採用して、その業務に一定の規制を課することを内容としています。

 

宅建業法では、同法の適用の対象となる「宅地建物取引業(宅建業)」の定義として、①宅地または建物の売買または交換、②宅地または建物の売買、交換または貸借の代理、③宅地または建物の売買、交換または貸借の媒介、のいずれかの行為を業として行うものとしています(2条2号)。

 

たとえば、新築マンションの分譲業者は①に、既存(中古)マンションの住戸の売買や賃貸の代理(たとえば売主・貸主の代理人となって買主・借主と契約をします)を業とするものは②に、既存(中古)マンションの住戸の売買や賃貸の媒介(たとえば売主・貸主から委託を受けて買主・借主を探します)を業とするものは③に該当します。マンションの賃貸業者や管理業者(管理会社)は、いずれにも該当しません。

 

●宅建業者の広告等に関する義務

 

宅建業法は、宅建業者に対し、その業務に関し多くの規制を課しています。以下では、そのうちの主要なものについてみておきましょう。宅建業者の広告等に関する義務として、第1に、誇大広告の禁止があります。

 

つまり、宅建業者は、その業務に関して広告をするときは、宅地または建物の所在、規模、形質(ガス・水道等の供給施設の整備状況等)、利用の制限(建築基準法等の制限等)、環境(景観、学校、病院、公共施設等の整備状況等)、交通の利便、代金・借賃等の額または支払方法、およびローンの条件等について、誇大広告をしてはなりません(32条)。

 

第2に、広告開始時期や契約締結時期の制限があります。つまり、まず、宅建業者は、宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前において、その工事に関して必要とされる都市計画法29条の開発許可、建築基準法6条1項の建築確認その他の法令に基づく許可等の処分で政令で定めるものがあったのちでなければ、その工事をしている宅地または建物の売買その他の業務に関する広告をすることはできません(33条)。

 

たとえば、建築確認の申請中において、「建築確認申請中」と表示して広告することは許されません。先に掲げた広告で「建築確認番号***」を表示しているのは、以上の点が遵守されていることを意味します。

 

さらに、宅建業者は、宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前において、その工事に必要な開発許可、建築確認等の政令で定める一定の処分があったのちでなければ、その工事にかかる宅地または建物の売買、交換、またはその代理・媒介などの契約を締結してはなりません(36条)。たとえ、買主との合意に基づくものであっても、開発許可や建築確認の取得を停止条件として契約を締結することは許されません。

 

ただ、開発許可や建築確認の取得後であれば、必ずしも工事がすべて終了し入居可能な状態に至っていなくても、販売することは認められ、現実にはそのような場合(いわゆる「青田売り」)が少なくありません。

 

●宅建業者の契約締結に関する義務

 

宅建業者の契約締結に関する義務として、重要事項の説明義務等があります。つまり、宅建業者は、買主等の当事者に対して、当該契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、当該宅地または建物に関する一定の重要事項について、これらを記載した書面を交付して、説明させなければなりません(35条)。

 

宅地建物取引士は、重要事項を説明するときは、相手方等に対し、宅地建物取引士証を提示しなければなりません(同条4項)。そして、宅建業者は、契約締結後遅滞なく、当事者に対して、当該宅地または建物に関する契約の内容のうち一定事項を記載した書面を交付しなければなりません(37条1項)。マンションの買主は、その書面を見て不明な箇所等については質問し、場合によっては契約内容を変更させることが可能となります。

 

 

鎌野 邦樹

早稲田大学 法科大学院

 

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    本連載は、2017年11月20日刊行の書籍『マンション法案内 第2版』(勁草書房)から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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