Aさんは、いくつかのマンションを家族で見学し検討した結果、駅に近い、あるマンションの305号室を購入することにしました。入居後、マンションでの生活および建物と敷地の管理に関してはどのようになり、どのような法律が関係してくるのでしょうか。
経年とともに「マンション生活」に関連する法律は変化
◆マンションをめぐる法律
マンションの一住戸を購入して、そのマンションを維持・管理しつつそこに居住を継続し、最終的に、それを建て替えるかまたはその人が死亡するに至るまでの主要な法律関係を考えてみますと、第1の分譲段階、第2の居住段階、第3の最終段階に大別することができます。それぞれの段階でどのような法律が関係するのかをみていきましょう。
第1の分譲段階では、一般的に、①分譲業者等との売買契約、②金融機関からの融資(住宅ローン)、③建物等の登記が問題となります。①では、売買契約については民法、分譲業者(宅地建物取引業者)との契約については宅地建物取引業法、住宅の性能表示や瑕疵担保(欠陥の保証)については住宅品質確保促進法が関わります。
②では、抵当権の設定等について民法が関わり、③では、マンションの建物と敷地の登記について不動産登記法が関わります。
なお、主として分譲前の段階に関係しますが、前回みたように都市計画法や建築基準法等のいくつかの行政法規が関わります(関連記事『マンションの販売広告に記載されている「法的に大事なこと」』参照)。
第2の居住段階では、主にマンションの管理をめぐる区分所有者間の関係が問題となり、また、各区分所有者は、基本的に、管理組合を通じての団体的な第三者との取引が問題となります。ここでは、基本的に区分所有法が関わることはいうまでもありませんが、その他に、区分所有者間のトラブル(不法行為)が生じた場合には民法が、専有部分を賃貸する場合には借地借家法が関わります。
また、マンションの敷地利用権が地上権または賃借権であるときにも、借地借家法が関わってきます。管理事務の委託(委任契約)や各種工事の発注(請負)については民法が関わりますが、このうち、管理組合と管理業者との間の管理委託契約についてはマンション管理適正化法も関わります。
第3の最終段階では、建替えに関しては、区分所有法とマンション建替え等円滑化法が関わります。相続に関しては民法が関わります。
本連載では、これらのマンションに関する法律のうち、特に第2段階と第3段階に関係する区分所有法等の「マンション法」を扱います。それでは、「マンション法」とは何かについて、みていきましょう。
「専有部分」を居住のために使用することがポイント
◆マンション法
前節ではマンションの購入に関する法律関係や、マンションをめぐる法律全般を概観しましたが、次は、マンションとは何かということを理解したうえで、マンションでの生活――マンションの管理から建替えまで――に関する法律(「マンション法」)について解説しましょう。すなわち、どのような法律が「マンション法」を構成し、その内容はどのようなものかについてみてみましょう。
●区分所有建物とは
法律上、マンションとは、①「2以上の区分所有者が存する建物」で、②「人の居住の用に供する専有部分のあるもの」をいうとされています(マンション建替え等円滑化法2条1号およびマンション管理適正化法2条1号)。
まず、①の「2以上の区分所有者が存する建物」とは、たとえば、A、B、Cの3人が1棟の建物内の101号室、102号室、103号室をそれぞれ単独で所有する場合のように、1棟の建物につき、2以上の者が建物内の区分された独立の部分をそれぞれ所有する形態の建物です。
このような建物が区分所有建物であり、区分所有法の対象となる建物です。区分所有法は、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律に定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる」(1条)と規定しています。
区分所有建物においては、A、B、Cのそれぞれの所有権を区分所有権といい、A、B、Cのことを区分所有者といいます。上に掲げた規定が定めているように、A、B、Cの各自が区分所有する部分(これを専有部分といいます)は、居住のためだけでなく事務所や店舗などさまざまな用途に供することができます。区分所有法の対象となる区分所有建物においては、法律上、専有部分の用途は問題とされず、どのような用途であってもかまいません。
●マンションとは
マンションとは、上で述べた①の「区分所有建物」のうち、②でいう少なくとも「1つの専有部分が居住の用に供されるような建物」です。したがって、A、B、Cの各専有部分のうち、Aの専有部分のみが居住の用に供され、BおよびCの専有部分はそれ以外の用途(たとえば、事務所、店舗)であってもよいのです。
マンション管理適正化法およびマンション建替え等円滑化法の対象は、区分所有建物のうち、マンションに限定されています。なお、マンション建替え等円滑化法は、マンションとは、「2以上の区分所有者が存する建物で人の居住の用に供する専有部分のあるものをいう」と規定しているのに対し(2条1号)、マンション管理適正化法は、加えて、「その敷地及び附属施設」もマンションに含めています(2条1号)。敷地および附属施設については、マンションの管理の対象とはなりますが、建替えの対象とはならないからです。
●共有建物・賃貸用建物(アパート)
上で述べたことから、1棟の建物全体をA、B、Cが共有する場合や、A、B、CがD所有の1棟の建物内の各住戸を賃借している場合には、その建物はマンションには当たりません。前者の場合には、その建物の駆体部分(屋根・土台・外壁等)や廊下・階段室だけでなく、各部屋も共有しているからです。
このような関係にある建物は、区分所有法の対象ではなく、民法の共有の規定(249条以下)の対象となる建物です。つまり、各共有者A、B、Cは、共有である建物の全部につきその持分に応じて使用をなすことができます(249条)。
その管理に関し、変更については全員の合意により決定し(251条)、通常の管理についてはA、B、Cの持分の価格の過半数で決定します(252条本文)。また、各共有者A、B、Cは、いつでも共有物の分割を請求することができます(256条本文)。
後者の場合には、一般に「アパート」と呼ばれるものです。1棟の建物に多数の賃借人がおり「(賃貸)マンション」と呼ばれることもあります。その建物は、法律上はマンションではありません。居住者A、B、Cは、区分所有者ではなく、賃借人です(旧公団住宅(現UR都市機構の賃貸マンション)においては、公団が建物の所有者であり賃貸人です)。
そこでは、区分所有法等のマンション法の適用はなく、賃貸人と賃借人との賃貸借に関する借地借家法が基本的には適用されます。
●マンション法
区分所有建物ないしマンションを対象とする法律は、次に掲げる①~④の4つがあります。①および③は、マンションを含む区分所有建物全般を対象とし、②および④は、マンションのみを対象とします。これら4法(あるいは③を除外した3法)の総称として「マンション法」と呼んでいる場合と、次の①のみを指して「マンション法」と呼んでいる場合があります。
①「建物の区分所有等に関する法律」(本連載では「区分所有法」といいます)
②「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(本連載では「マンション管理適正化法」といいます)
③「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」(本連載では「再建特別措置法」といいます)
④「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(本連載では「マンション建替え等円滑化法」といいます)
上の①~④の各法律がどのような関係にあるのかについて理解するためには、それぞれの法律の立法の経緯および目的を知る必要がありますので、以下では、各法律の内容、および立法の経緯・目的について簡単に述べておきましょう。
●区分所有法
区分所有法は、マンションが一般に出現し始めた1962(昭37)年に制定されました(翌年施行)。
マンションを含む区分所有建物は、当時1万戸程度しかなかったといわれていますが、将来この形態の建物は都市部において確実に増加していくであろうから、その権利者の間の法律関係を明確にしておこうというのが立法の目的でありました。
その後、法施行後に生じたさまざまな問題を解決するために、1983(昭58)年および2002(平14)年において、改正がなされました。
本連載では、マンション法の中核をなす区分所有法について説明し、他のマンション法については適宜必要な限りで触れていきます。
鎌野 邦樹
早稲田大学 法科大学院