販売広告から読み取れる「買主の権利」とは?
◆「夢のマイホーム」を取得
私たち自らが居住するマンションを購入する手順を考えてみましょう。まず、希望の物件を探すことから始めますが、もし最初の段階で戸建て住宅ではなくマンションであることを決定したとしたら、その後に私たちが主に着目する事項は、新築か中古(既存住宅)か、場所、価格、間取り・広さ、分譲(販売)業者・仲介業者などでしょう。
物件を掲載した雑誌、インターネット、新聞やちらしの広告には、多くは写真やキャッチコピーも交えて、これらについて情報提供されています。
そして、実際はほとんどの場合、当該物件(またはモデルルーム)を自らの目や足で確かめるために現地に行き、最寄り駅からの距離、周辺環境、外観、住戸の間取り・広さ・使い勝手、住居からの眺望、それに販売担当者の対応等も点検して、その後に、家族であれこれ議論・検討して(夫婦間や親子間で意見が食い違うことが少なくありません)、また資金繰りや住宅ローンの算段をして、最終的に一生の買い物である「夢のマイホーム」を取得するに至ります。
では次に、マンション購入に至るまでのプロセスに関して、以上のような購入者の視点からではなく、マンション法の視点および分譲(販売)業者の視点も交えて、マンション売買にともなう法律関係についてみていきましょう。
◆販売広告を読む
●売主による「申込み」の誘因
マンションの販売広告を見ますと、広告の大部分を占めるのは、写真や間取り、都心部までの交通アクセス、「美しい自然と歴史、にぎわいに満ちた文化都市」などのキャッチコピーですが、小さな活字でたとえば次のような物件に関する表示があります。
上の販売広告を法律的に説明すると次のようになるでしょう。まず、この広告の法的意味は、末尾にある「売主***」が不特定多数の者に対し、冒頭の「○○○マンション」を目的物とする売買契約の申込みの誘因をしているものと解されます。
これを買いたい者は、売主に「申込み」をし、売主が(購入希望者の代金支払いの可能性等を確認して)「承諾」すると売買契約が成立します。売買契約における当事者の主たる債務は、売主の目的物の「引渡し」と買主の「代金支払い」ですが、前者については「入居予定時期○○年○月○日」と、後者については「販売価格○○○万円~○○○万円」と表示されているところ、実際の売買契約の締結時に具体的なマンションの引渡日や代金額(および支払日や支払方法)等が決定されます。
●買主の取得する建物と土地についての権利
買主が購入し取得する権利は、「総戸数○○戸」「RC造・地上○階建て」の建物と、「敷地面積○○○㎡」の土地ですが、建物については、「住居専有面積○○㎡~○○○㎡」(「間取り2LDK~5LDK」)とあるうちの特定の住戸に対する所有権(区分所有権)と建物の住戸部分以外の部分(共用部分)の共有持分権を取得し、敷地についても、「分譲後の権利形態:敷地は区分所有者の共有」と表示されているようにその共有持分権を取得します。
なお、上の広告の「総戸数○○戸(地権者住戸○戸を含む)」との表示中の括弧書が気になるところですが、このような表示もときどきみられます。これは、多くの場合として、売主である分譲業者が、もともとのマンションの敷地部分の土地の所有者(地権者)から土地の所有権等の権利を取得する際に地権者に対し売買契約のように現金を与えるのでなく、マンションの購入者と同様に、上のような権利を与えるといったことが背景にあることを示すものです。
いわば、地権者の元来の「土地の権利」と、新たに土地上に建てられた「建物の権利」および「その敷地上の権利」とを交換する方式(等価交換方式)がとられたということです。元の地権者としては、等価交換によって取得した(1戸または数個の)住戸について、自らで使用する場合、賃貸する場合、売買する場合が考えられます。
ただ、このような地権者についても、マンションの建築後は一人の区分所有者にすぎませんので、規約等を通じて特に有利に扱われることは許されません(時として、管理費の支払い等につき有利に扱われるなどの規約の定めがみられますが、そのような規約の定めは無効であると解されます)。
また、「総戸数○○戸(地権者住戸○戸を含む)」に対して、「販売戸数○戸」というのも気になるところですが、これは、上の等価交換方式に関連する場合(この場合には「交換」する住戸については販売しないことになります)や分譲業者の販売戦略上数期に分けて販売する場合等が考えられます。
当然、購入者・入居者は「組合員」となるが…
●管理形態──原始規約と管理委託
マンションを購入しそこに居住する場合の、戸建て住宅との大きな違いは、上で述べたようにその建物と敷地は共有ですから、当然共有者全員による管理が必要とされる点です。管理を円滑に実施するためには、そのためのルールが必要ですし、管理にともなう実際の業務を誰かが担わなければなりません。
もちろんそのマンションに入居してから、入居者全員で話し合ってこれらについて決定することも可能ですが、多くの場合、居住者となる人は他人同士ですし、たとえばエレベーターの運行など入居時から管理(エレベーターの運行費用の負担や故障の場合の対処等)はすぐに必要となります。
そこで、多くのマンションでは、上の広告にもあるように「区分所有者全員に管理組合を結成していただき、運営・管理業務は管理会社に委託」することとしているのです。
もっとも、正確には、「管理組合は結成される」ものではなく、マンションは管理が当然にともないますから、購入者・入居者は当然に管理組合の構成員(組合員)となります。そこで、上の「管理組合を結成していただき」という文言は、実際には、販売・分譲業者が用意した当該マンションの管理組合のルールである「管理規約(案)に売買契約の際に承認をいただきたい」という意味に解するべきでしょう。
実際には、このように管理規約が当初から用意され、また、「運営・管理業務」を委託する管理会社(案)が販売・分譲業者によって用意されて、区分所有者となるものは、分譲時の売買契約の際に、これらに合意して入居することになります。ただ、入居後に、区分所有者は、集会で管理規約の変更が可能ですし、また、管理会社を変更することも可能です。
●都市計画と建物の安全性
上の広告にはその他に「用途地域:商業地域」「建築確認番号***」といった表示があります。これらは、そのマンションが都市計画上どのような地域に存在するかという表示と、行政により建物の安全性等の基準に適合している旨の確認を受けたという表示です。
前者に関する法律が都市計画法です。同法は、不動産の利用の仕方に関し当該地域で生活し活動する者の快適性や利便性を確保し増進するために、行政による規制を定めた法律です。後者に関する法律は、建築基準法です。
建物は、それを利用する者の利益(居住や事業の利益)に資するものであるとともに、地域を構成する要素でもあります。また、それが第三者に譲渡された場合には第三者の安全等にも関係するものです。そこで、同法は、地域を構成する要素という側面(同法の「集団規定」)および建物利用者の利益という側面(「単体規定」)から、建築物の建築に対する行政による規制について定めています。
次回は、先の広告の表示をよりよく理解するために都市計画法と建築基準法の関連する制度について簡単に述べましょう。
鎌野 邦樹
早稲田大学 法科大学院