複雑怪奇な三重構造…東京の地下に潜む巨大な「地震リスク」

東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震…近年、巨大地震が日本を襲い、そして遠くない未来には、南海トラフ地震が起こるといわれています。しかし、どれほどの人が真剣に対策を講じているでしょうか。本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。

世にも不思議な首都圏の地下構造

日本列島が乗っている陸のプレートの下には、海のプレートが潜り込んでいます。陸のプレートはひずみながら持ちこたえているのですが、「我慢の限界」が来ると二つのプレートが接している境が滑ります。これがプレート境界の大地震です。

 

ただ、そんなに話は単純ではありません。太平洋プレートが陸のプレートに潜り込んでいるだけで、構造は単純だと思われていた東北でも、地震の理解は十分ではありませんでした。

 

* フィリピン海プレートは年4~6センチ、太平洋プレートは8~10センチの速度で陸のプレートに潜り込んでいるといわれます。南東からフィリピン海プレートが押していますが、日本列島は東から押されている成分が多いといえます。東西圧縮という言い方をします。

 

それまでの地震学では、東北地方は同じ規模の地震が繰り返し何度も起きると考えられていました。しかし、東日本大震災でそれが覆されました。

 

小さい地震が何度か続く間に中くらいの地震が来て、さらに一回り大きい地震がときどきあって、ごくたまにもっと大きな地震が来る…。そんなふうに地震の起き方に「階層性」があるようです。

 

一番大きい地震が500~600年に1回起こるのです。東日本大震災や869年の貞観地震がそれに当たります。小さい地震は30年に1回、その中間ぐらいの地震が100年に1回といった具合です。

 

大、中、小が別々のタイムスパンで起こっています。東北のように単純な構造で、最もよく地震が起こるところでも、最近になってこんなことが分かりました。

 

* 南海トラフ地震についても「ほぼ100年に1回」と言われてきたのは間違いかもしれないという説があります。例えば、昭和東南海地震を安政東海地震の「滑り残り」と見るか、独立した地震と見るかで、繰り返しの間隔は変わってきます。100年間隔かもしれないし、200年間隔かもしれません。

 

南海トラフ地震を引き起こす南海トラフは、もともと東北地方より複雑な要因を持っています。

 

じゃまするものがない四国沖辺りの南海トラフでは、フィリピン海プレートがズルズルと下に滑っていきます。

 

ところが東の方(伊豆半島から駿河湾の辺りは駿河トラフといいます)では、伊豆半島が「つっかえ棒」みたいになっています。この半島がじゃまをして、なかなか下に潜っていけないのです。

 

ですから、西側の方が静岡周辺の倍ぐらいのスピードで潜り込んでいるようなのです。

 

南海トラフと駿河トラフ
[図表1]南海トラフと駿河トラフ

 

伊豆半島はフィリピン海プレートに乗って、太平洋を移動して日本列島にぶつかってできた半島です。今も、陸のプレートをギュンギュン押していて、富士山や箱根の山が噴火する原因にもなっています。

 

* 富士山の噴火口は、南東から北西方向に一直線に並んでいます。伊豆半島に押される方向に平行しています。

 

そんな伊豆半島の存在一つで、地震の起き方がずいぶん複雑になってしまうのです。

 

しかし、世の中にはもっとワケの分からない場所があります。他ならぬ、東京を中心とした首都圏です。首都圏の地下は世にも不思議なプレートの「三重構造」。この構造はまだあまり分かっていないようです。

東京はベルトコンベヤー上のプリン

三重構造とは三つのプレートが重なり合っているということです。

 

日本列島の土台の陸のプレートの下には、海のプレートが潜り込んでいます。東日本では北米プレートの下に太平洋プレート、西日本ではユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートがそれぞれ潜り込んでいます。

 

しかし、関東付近の海底は太平洋プレートとフィリピン海プレートの端っこにあたり、両方のプレートがダブルで潜り込んでいるのです。南東からフィリピン海プレートが入り込み、その下に太平洋プレートが東から沈み込んでいます。

 

首都圏は、地中深くに地震を引き起こす二つのベルトコンベヤー(フィリピン海プレートと太平洋プレート)がズルズルと動いていて、その上に関東地方の土台(北米プレート)があるという三重構造なのです。

 

さらに土台の上には火山噴出物の関東ローム層やプリンのように柔らかくてよく揺れる沖積層が分厚く覆っているというイメージです。

 

関東地方のプレートと地震 出典:地震調査研究推進本部のホームページ https://www.jishin.go.jp/resource/column/kohyo_sum_kohyo_sum/の図を加工して作成
関東地方のプレートと地震
出典:地震調査研究推進本部のホームページ
https://www.jishin.go.jp/resource/column/kohyo_sum_kohyo_sum/の図を加工して作成

 

この構造は、複雑であると同時に、地震を起こすモトがいっぱいあるということを示します。

 

起こり得るのは、土台の中(北米プレートの地殻内)の活断層地震、土台とベルトコンベヤー(北米プレートとフィリピン海プレート)の境界で起きる地震、二つのベルトコンベヤー(北米プレートと太平洋プレート)の境界で起きる地震、ベルトコンベヤー内(フィリピン海プレート内と太平洋プレート内)で起きる地震などです。

 

「土台の中」で起きたのは1万年以上前の立川断層の地震。「土台とベルトコンベヤーの境界型」は、元禄や大正の関東地震。安政江戸地震は、「ベルトコンベアー内部型」の地震との見方もありますが、よく分かりません。

 

* 茨城県では、「しょっちゅう小さな地震があるから大きな地震は起きないんだ」とか、「鹿島神宮があるから地震が起きない」と言う人がいたのですが、それは間違いです。

 

* 千葉県でも、しょっちゅう地震があるから大きな地震は来ないと言う人がいましたが、江戸時代初期には延宝の房総沖地震(1677年)というのがありました。千葉県沖ではゆっくりと境界が滑るスロースリップも起こっていますので心配です。

 

コンベヤーも、厚みや境界がはっきり分かっているわけではありません。また、地中の活断層がずれても関東ローム層という火山堆積物や沖積層が積もっているから、地表になかなか断層が現れてこないのです。

 

とにかく、実態はあまり分かっていないけれど、地震はものすごく起きやすいというのが現実です。

 

こんなところに首都をつくって人口を集中させてしまったのは本当はマズイんです。

 

名古屋大学教授 減災連携研究センター長

1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。

著者紹介

連載来たる大震災を前に本音で語る…巨大地震対策の実情

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

福和 伸夫

時事通信社

必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない。直下地震で東京の首都機能喪失も。電気、ガス、水、通信を守り、命と経済を守り抜く。安全保障として…

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