ガイドラインの運用実績は全体の2割程度⁉
平成26年2月1日、「経営者保証に関するガイドライン(※1)」運用が、金融庁主導のもと、始まりました。それから、はや5年が経過しました。
しかし、「経営者の個人保証に頼る融資をしてはならない!」と金融庁が示しても、銀行は今も平気で、個人保証を要求しているのです。
半年に一度、金融庁はガイドラインの運用実績を公表しています。融資に対する、個人保証のない融資の比率を発表しているのです。先日、平成30年4月~9月までの実績が発表されました。調査対象は、メガバンク、地銀、信用金庫、信用組合の融資です。
対象期間の新規融資件数は、約168万件うち無保証融資の件数約32万件(約19%)つまり、全体の新規融資に対して、約2割弱程度しか、個人保証なしの融資はされていないのです。逆に言えば、8割強は、今も個人保証あり、なのです。
銀行にとって、ガイドラインなどお構いなしの融資がまかり通っている、ということなのです。ちなみに、前回の調査は16%、前々回の調査も16%、という結果だったので、19%でも、増えたといえば、そうなのです。
加えて、既存の融資に対して個人保証を外した件数も公表されています。平成30年4月~9月の半年間で、約3万2千件です。これこそ、ほんのわずかな件数です。
これらの数字を見る限り、中小企業の経営者のほとんどは、まともな銀行交渉をできていない、といってよいでしょう。「個人保証は要るもの」と、過去の経験から思い込んでしまっているのです。
個人保証は、貸し手である銀行が優位な時代の遺物です。いまや銀行は金あまりで、借り手優位の時代なのです。立場は逆転しているのです。なのに、億単位の個人保証を平気で受けてしまう、ということがほとんどの中小企業の実態なのです。金融庁も、その実態をつかむべく、動き出しているのです。
※1 経営者保証に関するガイドラインは、経営者の個人保証について、
①法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
②多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
③保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援する。
第三者保証人についても、上記②、③については経営者本人と同様の取扱となる。
(出所:中小企業庁ホームページより)
アンケート調査に見られる金融庁の「危機感」とは
ある経営者より、「経営者保証ガイドラインについてのアンケートが届きました!」との連絡いただきました。そこには、20もの設問が用意されています。送り主は、中小企業基盤整備機構です。金融庁からの委託を受けて、調査業務を行っているのでしょう。
「『経営者保証に関するガイドライン』という名称を聞いたこと・見たことはありますか?」という設問で始まります。そして、「現在、個人保証を提供していますか」「金融機関からの説明を受けましたか」等とつづきます。
「ガイドラインの内容で、ご存知のものを選んでください」の項目では、「新規融資時に個人保証なしで融資を受けられる」「既存融資も個人保証を解除することができる」「事業承継時に前経営者の個人保証を継承しなくてもよい」などの内容が記載されています。
経営者がこの内容を読み、理解することで、個人保証に頼らない融資をもっと推し進める、という狙いが見えてきます。
個人保証なし・解除の申し出を行った方への、「その結果、どうなりましたか?」という質問もあります。その選択肢には、「解除されず、その理由の説明もなかった」というものもあります。
前述のとおり、個人保証なしの融資は、まだ全体の約2割程度です。8割は個人保証を提供しています。その結果、家・財産を奪われ、家族が離散し、自殺者まで出る、という悲劇が実際におこっているのです。株式会社は有限責任のはずです。なのに、個人保証を提供することで、ほとんど無限責任ともいえる状況に、8割の経営者が陥っているのです。
そのことに、金融庁は危機感を抱いているのです。だから、今回のようなアンケート調査を行っているのです。どのような結果が公表されるのか、気になるところです。その結果もまた、銀行交渉の武器になるはずですから。