第13期全人代第二回会議開幕 財政面で中国に打つ手はあるか?

中国で第13期全国人民代表大会(全人代)の第2回会議が3月5日から開幕した。中国経済の成長率の鈍化に懸念の声が強まるなか、中国政府が、経済成長率の政府目標値をどう設定し、どのような経済対策を打ち出すかに注目が集まった。

経済成長率の目標を引き下げ、積極的な財政出動を表明

今年1月初めの市場の波乱の要因の一つは、中国の経済指標が昨年第4四半期に入って一段と減速感が強まっていることを示唆してきたことだった。背景には、昨年半ばからの米国との貿易摩擦のエスカレートによる影響、そして、国内で進めてきた債務圧縮政策が景気のブレーキとして効いてきていることがあった。

 

今年1月に発表された中国経済の2018年成長率は6.6%だった。これは28年ぶりの低水準である。政府は2018年の目標を6.5%前後としており、これを辛うじて上回って、政府のメンツは保った格好だったが、経済減速傾向が続いており、19年の目標引き下げは避けられないと見られていた。

 

全人代の政府活動報告のなかで、李克強中国首相は、中国経済の成長率鈍化を認め、2019年の経済成長率の政府目標を2年ぶりに引き下げて、6.0〜6.5%と設定することを表明した。2018年の成長率実績値よりも、低い目標を設定して、現状を追認する姿勢を明確にした形である。

 

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経済的に影響が大きい、米中貿易協議については、トランプ大統領が、追加関税の実施を先送りすることを発表して、通商交渉の期限を延長しているが、二国間で約束したことはしっかりと履行するとして、通商協議の進展に肯定的な見方を示す一方、中国の守るべき権益は法に則り守ると述べ、国内向けには容易に妥協しない姿勢を示した。李首相は、これまで中国政府が産業政策で使ってきたスローガンでもある「中国製造2025」という言葉を今回の政府活動報告には使わず、比較的穏当な表現で、製造強国になるべく政策を加速させると述べた。これも、今後の米中協議への対米配慮だろう。

 

李首相は、経済政策では、景気を押し上げするために、財政政策で一段と積極的な財政出動をすると表明した。具体的には、2019年に製造業、運輸、建設部門を支援するため増値税(付加価値税)の税率を引き下げることを含め、税金や手数料を約2兆元規模で削減する方針を示した。中国政府は昨年既に、1兆3千億元の税金と手数料を削減し、地方政府の特別債発行枠を1兆3500億元分設定しているがこれに追加されることになる。大規模減税の実施により、生産面での指標の低下に現れているように景況感が悪化していると見られる製造業や中小企業の税負担軽減を図り、それを通じて成長率を下支えする意向を明らかにした。

 

雇用については、中国政府は今年、都市部で1100万人の新規雇用創出を目指す方針を明らかにし、都市部の失業率の目標は4.5%に設定したと発表した。これらはいずれも2018年の目標と変わらない。雇用に関しては、米中貿易摩擦の影響を考慮し、米国市場への輸出割合の高い企業の雇用状況を特に注意深く見守ることも表明した。

短期的な景気減速リスクを抑えつつ、構造改革を進める

中国経済の2018年成長率は2017年の6.9%から6.6%へと低下した。そして、今回の全人代では、2019年の成長率目標を6.0〜6.5%と幅を取って設定した。今年は、米中通商交渉など不確定要因も多く、このような形をとってきたものと思われる。

 

筆者は、中国政府が、短期的なダウンサイドリスクに対応することへのコミットメントは強いと従来から指摘してきたが、今回全人代では減税など財政出動策を2兆元規模に拡大して、そうした短期的な景気減速リスクに対応してきたのである。

 

一方で、長期的には、中国は二つの構造的な課題を抱えている。ひとつは、「新常態」経済すなわち、内需主導型の経済への移行という課題である。改革開放の時代からの輸出主導型の経済発展という経済成長モデルからの脱却を進め、消費主導型の経済発展の実現と貿易黒字の削減に取り組むという構造転換を進めていくことである。米国に仕掛けられた貿易摩擦だけが、輸出削減・国内消費喚起の理由ではなく、この構造改革は、中国にとって長期的には利益にかなうものである。

 

輸出依存からの脱却に加えて、もうひとつは、特に地方政府や国営企業に見られるような債務比率の多さを如何に改善するかという課題である。ただし、抱え込んでいる累積債務を早期に処理し、債務依存の体質から脱却するという取り組みは、景気のダウンサイドリスクが拡大するなか、容易ではない。こちらは、くすぶり続ける長期的な課題として、中国経済の重しとなるだろう。

 

これに加えて、米国との通商協議を乗り越えなければならないことは、中国の経済運営を容易ならざるモノにしている。先ずは、米国との協議に一旦めどをつけたいところであろう。ただ、貿易摩擦の解消には長い時間が掛かることが予想される。かつての日米貿易摩擦がそうであったように、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合い、解消には、長い時間を要するプロセスとなる。

 

筆者は、米中通商協議の妥協を前提に、中国経済は政府の一連の政策発動・リスク回避策が奏功し、一旦底打ちすると予想している。楽観的過ぎるとの批判もあろうが、2016年にも同様の展開があったことを思い起こしていただきたい。短期的には、悲観的過ぎても見間違えるのではないだろうか。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

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本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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