「社員成長支援制度」の導入には、社長の想いが不可欠
社長が相談に来られる際に、私が必ず最初に質問することがあります。それは、「今回、なぜ、この制度を作られたいのですか」ということです。
そのときのお返事はさまざまで、「知り合いの会社がやっているから、うちもそろそろ・・・」「社員が思うように動かないので、この仕組みを作って社員の尻をたたきたいのです」「できない社員を叱るために」と言われる方もいます。
耳を疑うような答えに対し、まず私はこの「人を育てる仕組み」に対して、きちんと目的や考え方のお話をさせていただきます。
そこで社長自らがこれに理解を示し、この仕組みを作りたいという会社は、その後継続して支援させていただきます。
ここで間違えてはいけないのは、この「人を育てる仕組み」は、単に人を評価するものではなく、また社員を叱って給料を下げる道具でもありません。私は人を育てる仕組みを「社員成長支援制度」と呼んでいますが、社長が心底、自社の社員を成長させたいと思わないと、この制度は長続きしません。つまり社長の想いなくして制度はできません。
どんな制度もそうですが、社長がその制度を本気で導入したいという強い信念がない限り、うまくいきません。特に人を対象とする人事制度は、この考え方がないと途中で運用が空回りしてしまうことが多いのです。
上司の力量に左右されないために「制度化」が必要
成長支援制度とは、一言でいうと社員一人ひとりの成長を、①今できていないことができるようになる、②今できることがさらにできるようになる、という2つの視点から作られるものです。
いくら上司が部下に対して「これをやってほしい」「ここまでもっと頑張ってくれ」と言っても、言っただけではなかなか人は変わりません。その上司の言葉も、その日の調子によって変わるかもしれません。他の上司もそれぞれ指導方法が異なります。
その結果は、上司の力量に左右されることになります。こうした欠点を克服するために、会社全体で確実に社員の成長を後押しするための制度が必要になるのです。
一般に、人事評価という制度がありますが、単に社員を評価して賃金に結びつけることが大きな目的になっているのが現実です。しかし、私が目指しているのは、社員一人ひとりの成長をゴールとして仕組化することです。
では、社員成長支援制度の目的について、5つの視点で述べてみましょう(図表)。
[図表1]社員成長支援制度の目的
(1)社員が実施した仕事に対する判定をするために(仕事をきちんと評価する)
社員が職場においてチャレンジする状況を作り出すために、まずは自分がやったことに対する評価を会社あるいは上司がきちんと行うことです。
場合によっては、本人に耳の痛いことも言わなくてはなりません。もちろん、できたことに対しては評価し、称賛することが必要です。
(2)評価結果を確実に処遇(昇給、賞与、昇進・昇格)に反映させるために
評価を最終的に昇給、賞与、昇進・昇格に結びつけます。これがないと、単に評価をして終わりになってしまいます。さらなる動機付けができません。ここが曖昧であると社員の不満の温床になりかねません。
(3)本人の能力の発揮、成長のために(やりがいの向上)
本人がチャレンジをしてその過程の中で成長を実感し、目標達成することによってさらに高い目標を設定していく、この成長サイクルを満たすことがポイントとなります。
(4)管理職自身の成長のために(部下を育てることで自分も伸びる)
毎日の部下への指導や成長支援面談をすることによって、その部下の目標が達成されることで、管理職自身の指導力アップや役割達成が実現されます。
(5)自らのチャレンジ姿勢を作り出すために(最重要)
こうした仕組みの中で、自分がさらに上のステージを目指し、チャレンジしようという姿勢が醸成されてきます。現在の経営環境の厳しい中で、このチャレンジ姿勢は社員が身につけるべき大変重要なマインドだと感じています。