今回は、クリニック開業後の節税術について解説します。※医師を取り巻くキャリア環境が激変しています。医局に頼ってきた従来とは異なり、自らキャリアを形成し、開業医を目指す医師が増えているのです。しかし、安易な開業が取り返しのつかない失敗を招く場合もあります。本連載では、開業医を志す医師に向け、開業を成功に導くポイントと、開業を磐石なものにする資産形成の方法を解説します。

個人でも受けられる優遇措置「医師優遇税制」

開業をしたら、考えなくてはいけないのが税金の問題です。クリニックは高い収益が上げられるために、個人事業で開業してから数年後に高い税金が課税されることが少なくありません。そのまま医療法人化する人も多いのですが、個人にも税制上の優遇措置が取られています。いわゆる医師優遇税制です。

 

税金が課税される事業所得は、事業から得られる収入から必要経費を差し引いて算出されることになります。必要経費は事業所得を得るために必ず伴うものです。ところが、開業医の場合には、必要経費を概算経費として計上することができます。場合によっては、実際に使用した経費よりも高い金額で申告することができるため、収入における事業所得の金額は少なくなり、最終的な納税額が少なくなる場合もあります。

 

なお、医師優遇税制は確定申告時の選択税制です。申告直前に選ぶことができるので非常にメリットがあると言えるでしょう。この優遇税制は、社会保険診療報酬の所得によって設定が異なります。一年間の社会保険診療報酬の金額に応じて概算経費の額が変化します。

 

2500万円以下の場合は実際の金額の72%

2500万円超〜3000万円以下の場合は実際の金額の70%にプラス50万円

3000万円超〜4000万円以下では実際の金額の62%にプラス290万円

4000万円超〜5000万円以下の場合は実際の金額の57%にプラス490万円

 

を加えた金額が、概算経費として認められることになります。

 

ただし、5000万円を超える場合は、優遇税制が適用されず、実際に掛かった経費で所得を計算することになります。このため、税率が大きく上がる可能性があるので注意が必要です。

 

一般的な開業医の場合は、二期目以降から保険診療報酬の額が5000万円を超えることが多いので早めに医療法人化を検討しておきましょう。年に二度の申請機会しかないため、株式会社より法人化に時間がかかり、一年前から着手することになります。

 

一年間の事業所得が少ない開業医ほど、収入に占める概算経費の金額が多くなるということになります。たとえば、一年間の社会保険診療報酬が2500万円の開業医の場合は、そのうちの72%の1800万円が経費として認められるということになります。

 

このような概算経費が認められているのは、社会に必要なクリニックの経営を安定化させる上で納税の面で優遇措置が取られているのです。開業には十分な資金を準備しておく必要がありますが、こうした優遇税制のことも頭に入れておかなければなりません。

収入5000万円以上なら、医療法人化の検討を

前述したように、開業してから一〜二年経つと利益が膨らんでくるため、税金対策のことを考える必要が出てきます。一年間の収入が5000万円以下であれば、医師優遇税制を活用して節税をすることができます。また、配偶者がいるのであれば、青色申告をすることによって、配偶者特別控除を活用して収入を分散することができます。

 

しかし、5000万円以上に収入が増えることになれば、別の税金対策を考えなければいけません。それが医療法人の設立です。医療法人化によって所得税の超累進税率から、法人税の2段階比例税率になるので、税率を大きく下げることが可能です。

 

さらに、法人の長たる理事長の他、理事長の配偶者、子どもなどの家族を役員にすることによって、役員報酬という方法で所得を分散することができます。結果的に税率を下げることにもなり、節税効果を高めることができます。

 

また、医療法人に蓄積された資産についても、役員の退職時には役員退職金を出すことができるので、相続対策にも活用することができます。一定の契約条件を満たすことが条件となりますが、生命保険契約や損害保険契約などの保険料を経費(損金)にすることができます。

医療法人化に際しての注意点

一方で、デメリットとしては、剰余金の配当禁止規定などにより、剰余金が内部留保され、出資1口当たりの評価額が徐々に高くなることが挙げられます。交際費として損金に算入できる金額にも限度が設けられています。たとえば、個人にはない年間800万円という上限があります。また、法人の利益を内部に過大に留保した場合(計算上1億円超)は限度額がゼロになり接待交際費が全て損金不算入となるため注意が必要です。また、原則として損金計上ができる小規模企業共済に加入していた場合は、脱退しなくてはなりません。

 

なお、平成19年(2007年)4月1日以降に設立された医療法人は、出資持分なしの医療法人となります。この場合、理事長が引退などで医療法人を解散させた場合、医療法人の財産は国のものになります。ですので、解散が想定されるような場合は、医療法人にある財産の対処法を考えておかなければなりません。医療法人で上げられる利益をMS法人に移行しておくことが必要です。

 

最近では最初から医療法人で開業するケースが増えているようです。

 

たとえば、ある整形外科のクリニックで、無床、スタッフが15人、開設から11年経過したところを考えてみます。建物は個人所有のまま医療法人に賃貸した場合、法人化に伴う費用などを考慮しない場合で個人と法人で比較してみましょう。

 

個人のケースでは、医師個人の収入が2505万円、配偶者の報酬が49万円で合計した課税価格が、2554万円になります。法人化した場合は医師個人の報酬は990万円、配偶者の役員報酬が49万円、法人の収入が870万円となるので、合計した課税価格は1909万円となります。

 

個人のケースと法人のケースの課税価格を差し引くと645万円となります。

 

つまり、この場合は個人よりも法人の方が課税価格は645万円低くなり、節税になるということになります。

 

ある程度の収入が得られる時には、医療法人化した方が節税効果が高いと言えるでしょう。

 

 

藤城 健作

ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長

 

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

医局の影響力が弱まった、新研修医制度の施行ーー以降、医師のキャリアを取り巻く環境が激変しています。本書では、勤務医が今後のキャリアを考えるために役立つ情報を提供するとともに、著者の豊富なコンサルティング事例から…

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