今回は、診療科別に見た開業医の収益について解説します。※医師を取り巻くキャリア環境が激変しています。医局に頼ってきた従来とは異なり、自らキャリアを形成し、開業医を目指す医師が増えているのです。しかし、安易な開業が取り返しのつかない失敗を招く場合もあります。本連載では、開業医を志す医師に向け、開業を成功に導くポイントと、開業を磐石なものにする資産形成の方法を解説します。

最も稼げるのは眼科、利益が残しにくいのは産婦人科

開業医というキャリアを選んだ場合、どの診療科が最も稼げるのかを考えてみます。

 

厚生労働省が調べている2017年度の「医療経済実態調査報告」によると、最も稼げるのが眼科で平均して年間利益が3752万円。これは年間利益1860万円の産婦人科のほぼ倍に相当する金額になります。

 

眼科の利益が高い理由は、医師一人でも手術の数をこなせることや初診割合が高いこと、単価が高額なことなどが言われています。

 

一方、産婦人科は、分娩に伴う設備やスタッフを抱えなければならず、なかなか利益を残せないという事情があります。

 

特に産婦人科は近年、労働環境が悪いだけでなく訴訟リスクも高まっているという見方をされており、若手医師の間では人気がありません。特に影響が大きかったと言われるのが、2004年の福島県で起きた大野病院の帝王切開における妊産婦死亡事故です。この事故では、帝王切開を行った執刀医がなんと逮捕され、刑事事件に発展してしまいました。

 

逮捕された執刀医は最終的に無罪になりましたが、医師として当然の仕事をしたのに、訴えられた挙句に逮捕されるという事態は医療業界を震撼させる事態へと発展していきました。この事件以降、産婦人科を目指す医師が大幅に減ったと言われています。

 

2018年にスタートした「新専門医制度」の研修医人数の領域別割合をみると、メジャー科の外科や内科の割合が減少して、眼科や麻酔科の割合が増加しているということがわかります。専門医になるための研修をスタートする若手医師たちの間では、長時間労働に拘束されず、ブラックな職場環境に左右されず、年功序列に縛られないマイナー科に人気が集まっています。

 

特に人気が高いのが、眼科や精神科、そして整形外科です。なかでも眼科は残業時間も労働基準法の上限である月45時間以下に収まっていることもあり、若手や女性を中心に人気があります。約4割は女医であると言われているのです。

 

一方で人気のないのが小児科や産婦人科です。小児科は夜間救急が多く、医師に暴言を吐くようなモンスターペアレンツも多いため、挫折する人が少なくないといいます。

 

[図表]診療科別開業医の利益(年間)ランキング

(注)開業医の利益は、一般診療所(個人・青色申告を含む)の開業 ・介護収益から費用を引いた損益差額を指す (出所)厚生労働省「2017 年医療経済実態調査報告」を基に本誌作成
(注)開業医の利益は、一般診療所(個人・青色申告を含む)の開業・介護収益から費用を引いた損益差額を指す
(出所)厚生労働省「2017 年医療経済実態調査報告」を基に本誌作成

 

産婦人科は前述の訴訟リスクで若手に敬遠されがちですが、一方で不妊治療に関しては高収入の道も開かれているので、開業を目指す医師には人気があるようです。

 

医局に最初から入らないという医師も増えており、医学部卒業と同時に大きく収入が得られる美容業界に身を投じる医師も増えてきました。いずれにしても、昔のように医局に属して数万円のアルバイトで食いつなぎながら、OJTで教えてもらうということを望む人たちは少なくなっているのです。

 

社会のIT化によって民間の医師向け就職支援サービスが充実し、医局を通して就職を斡旋してもらう人が少なくなったというのも非常に大きいでしょう。

自由だが、将来への備えが欠かせない「フリーランス」

フリーランスの外科医・大門未知子を主人公とした「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(テレビ朝日)が非常に注目を集め、話題になりました。しかしながら、主人公のように専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけで食べていくフリーランス医師は、本当に儲かるのでしょうか。

 

実は、フリーランスが最も多い診療科目とは、麻酔科です。もちろん、大門未知子のようにフリーランスの外科医として仕事をしている医師もいるとは思いますが、多数派ではありません。フリーランスで活躍しているのは麻酔科医が多いのです。

 

その理由として挙げられるのが、慢性的な麻酔科医不足とフリーランス向きの業務形態にあります。現在、麻酔科医の不足はとても深刻な状況で、一人の麻酔科医が複数の手術を受け持つことも珍しくないと言われています。勤務医の麻酔科医の負担を少しでも減らそうと、高い報酬でも良いのでフリーランスの麻酔科医に仕事を依頼する、ということが病院で行われているのです。

 

また、麻酔科医であれば、手術が終了すれば委託された業務は一旦、終わらせることができます。この1回完結型がフリーランスに向いている理由の一つです。

 

フリーランスで働く場合、気になる報酬はどのくらいになるのでしょうか。常勤医と同じように診療科や地域によっても異なりますが、報酬は日給制や時給制になるケースが多いようです。多くの場合、時給1万5000円を超えます。また、医師が不足している地域や難易度の高い治療の場合は時給が2万円近くになるケースもあるようです。また、時給計算ではなく、一現場、一カ所いくらという報酬の計算方法もあるようです。

 

仮に最低時給1万5000円で計算して働いた場合の収入を計算してみましょう。1日8時間勤務し、週に5日働いたと仮定して、1週間で60万円になります。まるまる1カ月勤務する場合は月収で240万円です。年収では2880万円になり、勤務医で働くよりも効率的に稼ぐことができます。

 

就業時間も比較的自分でコントロールしやすく、医局や市中病院などの人間関係に煩わされることもありません。特に地方の病院は医師不足で悩んでいる病院が多く、今後もフリーランス医師の需要はますます増加しそうです。

 

このように見るとフリーランスもメリットが大きいですが、やはり将来に対する不安要素は残ります。まず健康保険は個人事業となるため、国民健康保険に加入することになります。年金については国民年金に加入します。国民年金の受給額は加入年数にもよりますが毎月6〜7万円程度です。

 

当然ながら、学会の参加や自分の技術を磨くための勉強に関わる費用も自分が負担することになります。

 

フリーランスの医師には定年はありませんが、自分の体力が続かなくなったり、仕事先がなくなったりすれば年金で暮らすことになります。働いていた時よりも大きく収入が減ってしまうので、自分自身で収入が継続的に入る資産を増やしていく必要があるのです。

 

 

藤城 健作

ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長

 

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

勤務医の「キャリア&資産形成」戦略

藤城 健作

幻冬舎メディアコンサルティング

医局の影響力が弱まった、新研修医制度の施行ーー以降、医師のキャリアを取り巻く環境が激変しています。本書では、勤務医が今後のキャリアを考えるために役立つ情報を提供するとともに、著者の豊富なコンサルティング事例から…

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