米中協議は詰めの段階へ?米大統領「関税引き上げ延期」を表明

2月24日に「予定していた関税引き上げを延期する」とトランプ米大統領がツイートしたことを株式市場は好感。為替市場でもオフショア人民元、豪ドルと関連通貨が上昇した。米中協議で議論される為替操作に関し、従前より伝えているとおり、筆者は、一帯一路構想に重要な人民元の価値を1米ドル=7人民元より下落させることは、中国政府が容認しないと考えている。今後、人民元の反騰も想定すべきであろう。

トランプ大統領の別荘で、近く米中首脳会談開催か?

トランプ米大統領は2月24日、ツイッターで「3月1日から実施を予定していた米国の関税引き上げを延期する」見込みを表明した。米中両国が22日まで行った通商協議で「米国は、中国との通商協議により、知的財産権保護と技術移転、農業、サービス業、為替など、重要な問題で、「かなりの前進があった」ため、中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げる時期を延期すると述べたのである。

 

習近平中国国家主席との会談を開催すべく調整しており、近いうちに、フロリダにあるトランプ大統領の別荘(マールアラーゴ)での首脳会談が念頭にあるようである。

 

米中両国は、前回昨年11月末の首脳会談以降、90日間の協議期間を設定して、通商協議を続けてきた。1月までは、協議をしてきたものの両国間で合意に至るには、かなりの隔たりがあることや、再度の米中首脳会談についても2月末の交渉期限前には実現しないことが漏れ伝えられてきて、通商交渉が難航していることへの懸念が強まっていた。

 

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合意形成できなければ、3月1日からは関税として25%が賦課される予定であり、関税率10%とは、マグネチュードが異なる影響が、米中両国の経済に出てくることが心配されていた。しかし、この25%関税の実施を延期する判断をしたということは、2月末の交渉期限を前に、先々週・先週の米中閣僚級協議により、溝を埋めることができる見通しを一定程度持てたということなのだろう。

 

このツイッターでの公表を受けて、週明けの市場は、株式市場では、ポジティブに反応した。ただ、日経平均は、上値では利益確定の売りも出るなどして、0.5%程度の上昇にとどまった。香港市場も、同じく0.5%程度の上昇幅だった。為替市場では、人民元への圧力が緩和されるとの見通しから、オフショア人民元は1米ドル=6.68元と、このところの高値に迫っている。

 

中国経済の影響度が大きいとみなされているオーストラリア経済にもポジティブなニュースとして、豪ドルも米ドルに対し1豪ドル=0.715米ドルと0.5%程度上昇した。

中国が人民元を安く誘導することはない

さて、今回は、米中協議でも、取り上げられている為替操作について考えておきたい。米中通商交渉の中では、人民元相場や為替操作に関して議論されてきたが、最終的な合意の枠組みに向けて、両国が暫定合意したとの一部報道もある。

 

米中両政府は今のところ、何らの発表もしていないが、トランプ大統領は、大統領選挙期間中から、中国による為替介入や為替操作を、不公正であると非難してきており、今回の通商交渉を通じて、為替に関しても構造問題の一つとして、成果を求めたことは想像に難くない。

 

米国は、中国が人民元を安く誘導することによって、輸出競争力を確保してきたほか、昨年9月からの米国による関税の実施に対しても、人民元安を容認することで、関税を事実上骨抜きにするのではないかと問題視してきた。

 

実際に、米中貿易摩擦が過熱し、双方が関税措置をぶつけ合うようになった昨年は、人民元は昨年10月末には、米中貿易摩擦の影響拡大や中国経済停滞への懸念から、為替市場で下落圧力が強まり、一時1ドル=6.9575元と、2016年12月以来の水準まで下落していた。一部には、中国政府が、米国が実施した関税10%の影響を相殺するために故意に元安を進めているとの見方が広がっていた。

 

昨年10月の段階では、市場は、中国政府が、1米ドル=7人民元という水準を下回る人民元の下落を容認するかに注目していた。この水準は、2016年に中国が多額の為替介入を実施して守りきった水準だったからである。筆者は、引き続き、この水準を割れて人民元が下落することを中国政府が許容しないと指摘していた(第62回『人民元の防衛線…「米国債売却」は中国の切り札か』参照)。

 

中国政府にとって、人民元の国際化は長年掲げてきた重要な政策目標であり、一帯一路構想も、中国をあげての国家プロジェクトとなっている。他国が人民元を保有するインセンティブを失わせる人民元の価値の下落を、中国政府が容認すれば、人民元保有に対するリスク認識が広がり、資本流失にもつながる怖れが出てくる。そうなると、多額の資本を必要とする一帯一路構想にも長期的なダメージを与えかねない。

 

加えて、中国政府は昨年10月から、金融緩和や減税措置、規制緩和など、経済のダウンサイドリスクに対応して、政策を打ち出してきた。その効果もあり、中国経済は、緩やかながら、ボトムアウトしつつあると筆者は考えている。実際に、人民元は、今年に入って戻り基調を鮮明にし、1米ドル=6.68元水準にまで回復している。

 

この間、中国政府が今回の人民元安の圧力の中、人民元相場を操作した形跡は得られなかった。米財務省は、人民元相場を監視し、中国政府の市場での行動をウオッチして、中国を為替操作国として認定することを検討してきたが、為替操作を認定出来ていない。

 

中国経済が、ボトムを脱したとすれば、むしろここからは、人民元の反騰を視野に、相場の動きを見ておく必要があるのだろう。急な動きというよりは、緩やかに時間をかけて、1米ドル=6.26人民元程度までの戻りを試す動きを想定すべきなのではないだろうか。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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