今回は、上司の怒りに悩む相談者の事例をもとに、怒りの原因を探る「観察法」について見ていきます。※本連載では、シニア産業カウンセラー・研修講師の宮本剛志氏の著書、『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)の中から一部を抜粋し、怒りのメカニズムと周囲の怒りに正しく対応する方法を紹介していきます。今回は、人の怒りの発生源と、怒りに対する対処法について解説します。

自分を評価してくれたはずの上司から怒られる日々

こんな「怒り」に悩んでいませんか

 

カウンセリング事例を元にしたシーンを見ていきましょう。

 

相談者のAさん(男性・40歳)は、「人当たりの良さ」を自認していました。彼は自分をこう振り返ります。

 

「特にリーダシップや強い個性はありませんが、だからと言って下につくというわけでもなく、これまで誰とでも等距離で接してきました。自分でも深い人間関係よりも、フラットなコミュニケーションを好んでいたと思います。ベタベタした友人関係はほとんど持たなかったのですが、学生時代から長く続いている仲間もいて、自分が他人から否定的に見られる経験はそれまでありませんでした」

 

対面していても、分もわきまえ、相手の意見にも耳を傾ける好印象な人物です。ビジネスで知り合ったなら、信頼できる人と誰もが思うでしょう。

 

そのAさんが、ステップアップを図るために転職をしました。これまでの同僚たちは「新天地でも頑張れ」とエールを送り、受け入れる会社の面接担当者は、大きな期待を寄せてくれたそうです。

 

しかし、転職後まもなく、Aさんは直属の上司から「常に怒られる」という予想外の日々を過ごすようになったのです。しかも、その相手は、自分を評価してくれた面接担当者でした。

 

初対面の私に冷静な説明を心掛けるAさんでしたが、困惑と疲労感は隠せませんでした。

 

「最初は、私に早く新しい場に慣れるようにという、上司なりの配慮かと思ったのですが…。毎日、目が合えば怒られるという状況です。私が何か言おうとすれば、それを遮って、話を聞いてもくれない。まるで自分が機械か何かのように思えてきて、自尊心が傷つけられて…」

 

Aさんは、説明しながら、自分が怒られているシーンがフラッシュバックしたのでしょう、呼吸もつらそうでした。それでも気丈に、息を整えて「どうしたらいいのでしょうか?」と私に聞いてきました。

怒りの渦に巻き込まれないための「観察法」とは?

心の距離を3歩開ける

 

「Aさん。あなたは今、怒られているシーンを思い出して、その場に身を置いていますね。今度はそのシーンから気持ちを3歩開けて、客観的に上司のことを観察してみてください」。私の提案にAさんは「え?」と戸惑いました。

 

そこで、私は「観察法」について説明しました。すると、Aさんの表情はどんどんと変わっていきました。観察法は怒りの渦に巻き込まれないための方法です。そのポイントは2つです。

 

①心理的距離を取って観察する

距離を取るとは、相手との「関係」や、怒られている「状況」を少し視野を広げてイメージし、観察することです。怒られていることに気持ちがとらわれて悩んでいると、どうしても相手との直接のやり取り、それも一方的に怒られている自分しか見えなくなって、その時の客観的状況が分からなくなります。

 

②怒っていない時も含めて、相手を観察する

怒られる日常ばかりを意識すると、相手を常に「怒っている人」としか見られなくなってしまいます。怒る人にとって「怒りのピークは6秒間」です。それ以外の相手が、どんな状態か。どんな時に「怒っていないのか」を観察してみましょう。

 

Aさんは、怒っている上司と怒られている自分という、心理的に余裕がない日常を第三者の目線で思い出し、「観察」してみました。他人事として考えられるのか、今度は落ち着いて状況を振り返ることができるようでした。

 

すると「あ!」と何かに気付いたようです。Aさんの気付きを整理してみるとこうなります。

怒っていない時も含めて相手を観察してみる

いつも同じ発火点があった

 

それは最初に怒られた日のことです。

 

即戦力と期待のかかるAさんに上司がプロジェクトの説明をしていました。経験豊富なAさんには、いろいろと不備がある計画に思えました。しかし、最初から「自分のやり方」でこの会社のやり方に意見するのも波風が立つと考え、そのプロジェクトを担当しながら修正すればいいと考えたそうです。

 

それは、Aさん流の気遣いでもあり、その波風を立てない「人当たりの良さ」は、これまでは評価されてきたAさんの「強み」でした。

 

上司の「…という段取りなのだが、君はどう思う?」という言葉に、Aさんは「ええ。まあ、大丈夫です。これで進めます」と答えました。

 

「まあ、というのは何だ?」

 

「いえ、何でもありません。しっかり進めていきます!」

 

「…」

 

この時の無言の上司の表情に、思えば「怒り」の種火があったのではないかと、Aさんは思い出したのです。

 

それ以降、怒られたシーンでもやはり同様のことがあったそうです。

 

①上司が質問する。→Aさんは良かれと思い「大丈夫です」と答える。

 

②無言があって、後で怒られる。→次第に何も言わずに「はい。分かりました」と言っても怒られるようになっていった。

 

私は、「それだ」と思いました。

 

「Aさん。それですよ。そこが上司の『怒り』の発火点ですよ」

 

「え? 反論したわけでもないのに…。なぜですか?」

 

「それを探るために『怒っていない時も含めて、相手を観察する』で上司を見てみてください」

 

そうAさんにお願いしました。

 

上司が怒るのはどんな時?

 

怒りの発火点が判明…対応を変えて「怒り」を回避

「怒り」の裏側には「期待」があった

 

次の相談日、私の前に現れたAさんは、すっかり変わっていました。疲労感はなくなり、表情にも明るさがあります。

 

「Aさん。何か分かりましたか?」

 

「先生。もう大丈夫です。ありがとうございました!」

 

Aさんの表情を見た瞬間、私も「もう大丈夫だな」と感じたのでこのやり取りで十分でした。しかし、読者のために少し解説をしましょう。

 

私とのカウンセリングの後も、Aさんの怒られる日常は続きました。しかし、「観察法①心理的距離を取って観察する」を重ねることで、怒られて萎縮してしまうだけでなく、その前後の状況も見えてきたそうです。

 

 上司が何か言う Aさんが返事をする 上司が無言になる 上司が怒る 

 

上司が怒るのは、このパターンだとAさんは再確認します。

 

次に「観察法②怒っていない時も含めて相手を観察する」です。

 

上司は、もともと「体育会系」で誰に対しても、口調は強いようです。しかし、たまたま失敗した社員に対して、一方的に怒ることはないようです。むしろ、そのリカバリーのために動いてくれる、職場では頼りになる存在として、リスペクトもされていました。

 

Aさんの混乱は深まります。

 

だったら、なおさらなぜ自分だけ? そこでもう一度「観察法①」に戻ります。自分と上司の関係を、「観察法②」で知った上司のプロファイルも含めて分析しました。そこでAさんは思い出したのです。

 

「上司は、採用面接の時に冗談めかして愚痴を言ったんです。『みんな経験が浅くて何でも私に頼ってしまうんだ。君の経験を生かして、私には何でも意見してくれ。好きなようにやって、みんなに刺激を与えてくれ』と言っていたんです。でも、入社するなり怒られてばかりで、そうした期待の言葉もすっかり帳消しになったものと思っていました」

 

しかし、それは「上司の本音」だったのです。自分や会社のこれまでの仕事にどんどん意見し、外の空気を入れて積極的に変えてほしいという期待。Aさんは、最初にその期待を「裏切って」しまったのです。

 

「でも、だったら説明してくれたらよかったのに」とAさんは言います。

 

しかし、上司は「期待しているAさんは、他の社員と違い、自分に意見を言うべき」と考えていたのです。これこそが「怒る人」の「コアビリーブ=べき」なのです。

 

上司の期待に応えていない発言が怒りの発火点だった。その発火の理由が分かったAさんは、対応を変えたそうです。「発火点を見逃さない」ようにしました。

 

 上司が何か言う Aさんが返事をする 上司が無言になる 発火! 

 

この「発火」の直前のタイミングで、「一ついいですか?」と上司に言います。普段なら自分が怒るタイミングで口を挟まれた上司は「何だ!」とやや強めに返したそうですが、Aさんが自分なりの仕事の仕方や会社の業務の改善点を話すと、上司の目から「怒り」の火が消えていったそうです。

 

そしてだんだんと口調も変わり、「だからどうするんだ!」「それで?」「うむ…なるほど」「よし、やってみろ」「期待してるぞ!」と、いつもとは大違いの結果になったと説明してくれました。

観察法により「達観」&「怒りの初期消火」が可能に

「怒り」の種火に気付いて対応する

 

それ以降も、上司に怒られることはあるそうです。

 

Aさん自身の「人当たりの良さ」は変わりませんし、他の人が火を着けた上司の「怒り」に気付かずに声を掛けてしまい、「上司が怒らない日はないんです」と、Aさんはあきれ顔で、「でも、そこは諦めました」と言います。

 

では何が「もう大丈夫」になったのでしょうか?

 

「観察法」によって、相手の「怒り」は「コアビリーブ=べき」が原因であることが分かり、それに巻き込まれて、自分の自尊心まで傷つけられるのは「ばかばかしい」と達観できたことがAさんを変えました。そのことを「諦めました」とAさんは言いましたが、決して「受け入れた」わけでもありません。

 

Aさんは、距離を置き、達観し、巻き込まれないようにし、その上で「怒り」の種火に気づいて初期消火もできるようになりました。さらに、Aさんは、意見を言って「期待に応える」ことで、上司の「べき」に対応をしたのです。これによって、上司との関係性は、むしろ良いものとなりました。

 

しかし、もちろん、そんな簡単には済まない悩みもたくさんあります。そうした場合の対処法を次回から紹介しましょう。

 

観察法の極意

心理的距離を取って観察する

自分の目の前の「怒り」への恐怖で頭をいっぱいにせず、自分と相手を客観視できるよう、心の中で3歩離れて観察する。

 

怒っていない時も含めて、相手を観察する

どんな気質の人物なのか、どういう状況の時に、誰に対してどういう対応をするのか。

距離を取れば、相手の心が見えてくる

心の間合いを取って、「怒り」に巻き込まれるのを避ける。

 

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

宮本 剛志

時事通信社

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