米中通商協議…期限延長の可能性を含め、進展の兆し
米中の閣僚級通商協議は、2月13日から15日まで北京で開催され、米国側は、ムニューシン米財務長官とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、中国側は劉鶴副首相が出席して行われた。協議では、中国の輸入増加や知的財産権の保護、国内企業保護策の是非など、多岐に亘る問題が話し合われたものと思われる。協議が進展しているのか、期待ほど順調ではないのか、現時点では定かではないが、単に中国の貿易黒字が減少に向かうような輸入促進策が合意されても貿易摩擦が氷解するわけではない。
事実、トランプ大統領も、2月5日の一般教書演説の中で、中国が米国製品を大量に輸入するというだけでは、合意には十分とは言えないと明確に述べている。中国との通商協議で合意に到るということは、不公平な貿易・商慣習を撤廃し、米国の慢性的な対中国貿易赤字が解消に向かうと共に、米国の雇用が守られることに繋がるような知的財産権の保護などを含む、実質的な構造改革にまで、及ぶものでなければならないと述べている。
特に構造改革に関連する部分では、中国側の譲歩は限定的で、米国側には不満があったと漏れ伝えられるような状況であったことを考慮すれば、今回の米中閣僚級の通商協議で、最終合意に近いところまで双方が歩み寄ると考えるのは楽観的に過ぎるだろう。ただ、トランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談を設定できるようなところまで、手が届いているのかもしれない。
トランプ大統領は合意形成について楽観的な態度を示しており、13日には今回の協議が非常にうまく進んでいることを示唆している。ムニューシン財務長官も15日、劉鶴中国副首相との会合は生産的だったと2日間の協議を締めくくった。また、一部には、ムニューシン財務長官とライトハイザーUSTR代表は、習近平中国国家主席と15日に会談するとの報道もある。
もうひとつ、協議の期限を延長するということも報道されている。ブルームバーグは14日に、トランプ大統領が中国製品に対する追加関税の実施について、3月1日実施から60日間延期することを検討していると報じた。
米予算案…トランプ大統領が「国家非常事態」を宣言
米国議会でも動きがあった。上下両院は、共和党と民主党の協議の末、合意した予算案を賛成多数で可決した。つなぎ予算が期限切れとなる15日を前に、トランプ大統領も署名する見通しである。これにより、会計年度末の9月30日までの連邦政府予算も手当てされ、政府機関の閉鎖などの可能性はなくなる。
しかし、全米を驚かせたことは、トランプ米大統領が、国家非常事態を宣言して、議会の承認を得ることなくメキシコ国境に壁を建設する方針を表明したことである。国境の壁のための建設費を含まない予算案に署名はするものの、国家非常事態を宣言することにより、大統領権限を行使して国境の壁を建設することに着手するという。
当然ながら、民主党トップのペロシ下院議長は、提訴する可能性も含め、すべての選択肢を精査するとした。共和党側にも、穏健派の議員からは、違和感を表明する声が出ており、反応は分かれている。
英国EU離脱…下院で動議が否決、視界はさらに不良に
そして、英国のEU離脱協議だが、相変わらず視界不良である。英国下院は14日、メイ英首相が求めたEUとの協議についての方針に関する動議を採決し、303対258で否決した。与党・保守党の離脱推進派が、この方針の中に合意なき離脱を排除する内容が含まれていることに反発して、強硬派議員のうち約50人もの造反が出て棄権に回った。
今回の動議の採決は、内閣の行動を直接縛るものではないが、EUに対して離脱協定の変更を求める政治的な後ろ盾を失ったことになる。メイ首相は、動議が否決された後も、協定案修正を目指す方針を示して、3月29日の離脱に向けてEU側との取り組みを続けるとコメントしたが、今後は、メイ首相のEUに対する交渉能力は弱まることになろう。
離脱交渉の行き詰まりを打開する現実的な解は、EU離脱手続きを定めるリスボン条約50条の適用延長をEUに働きかけ、時間枠を設定しなおしたうえで、総選挙か2回目の国民投票により英国のEU離脱への枠組みを作り直すことではないかと、筆者は考えているが、英国議会での議論を見る限り、掛け違えたボタンの掛け替えといえるほど、事態は簡単には行かなくなってしまったようである。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO