2月27日に英下院で採決が予定されている英国のEU離脱交渉は暗礁に乗り上げている。合意なき離脱に至った際の影響はリーマンショック以上とも目され、1月度英国企業起債額の激減などに見られるように、投資家はすでにリスク回避姿勢を強めている。英ポンドは12月安値の1.25ドルから戻り相場であったが、1.29ドル近辺まで軟化が続いている。以前のサポートライン1.27ドル、12月安値の1.25ドルを試す下値方向への動きを想定しておきたい。

合意なき離脱の影響は、リーマンショック以上に?

英国下院が、欧州連合(EU)からの離脱に関し、メイ首相がEUとの間で合意した案からアイルランドの国境問題の対応を修正した代替案を可決・承認したは1月29日から早くも3週間が過ぎようとしている。

 

1月15日に否決された離脱合意案から、北アイルランドとアイルランドの間に、物理的な壁などの国境を設けないといういわゆる「バックストップ(安全策)」条項を削除したこの修正案は、EUが再協議に応じるには非常にハードルが高いものだとは予想されていたが、EU内ではこの修正に応じようとの支持はなく、交渉は暗礁に乗り上げている。

 

メイ英首相は、保守党議員への書簡で、ユンケル欧州委員長と会談するほか、EU加盟各国の首脳とも今後数日の間に話し合う予定だとしているが、2月27日に予定される英下院での採決まで、残された時間は9日しかない。

 

 

このように、英国は、EUとの離脱合意に関して先の見えない状況が続いているが、不透明感の強まるなか、英国企業は、資金調達コストの上昇に直面し始めているという。加えて、イングランド銀行が昨年11月に公表した報告書では、合意なき離脱に至った場合、英国経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがあると言及していた。

 

最悪のシナリオをたどれば、英国の国内総生産(GDP)は1年以内に8%縮小し、不動産価格は3割落ち込む可能性があるとの懸念も記載されていた。これは、英国にとってはリーマンショックよりも大きな影響(当時はマイナス6%)を受ける可能性があることを意味する。合意なき離脱シナリオは、英国経済をリセッション(景気後退)へ突入させるとの不安はくすぶる。少なくとも、資金調達コストの上昇は、英国経済を蝕む要因となりかねない。

同格付けでも利回りに「上乗せ」が要求される英企業債

2月14日、ロイター報道によると、今年1月の英国企業の起債額は4億7800万米ドルに止まり、1年前の起債額23億5000万米ドルから激減したという。背景には、世界経済の先行きが不透明で企業が追加投資や資金調達に慎重になっているという事情もあるが、英国のEUからの離脱問題が片がつかず、合意なき離脱に至った場合に英国経済が不況に陥るリスクが視野に入ってきていることで、投資家のリスク回避姿勢を強めていることがある。

 

また、起債状況が悪くなっていることは、資金調達コストの上昇につながっているという。これは、ただでさえ過去最高の債務水準にある英国企業にとって、たいへん頭の痛い問題である。

 

既に市場は、英国企業の発行する社債に対して、最大で50ベーシスポイント(0.5%)を、同じ格付けの欧州企業債の利回りよりも上乗せする「ブレグジット・プレミアム」を要求しているという。合意なき離脱となってしまった場合には、英国企業の債務の借り換えが難しくなったり、調達コストはさらに50-100ベーシスポイント(0.5-1.0%)高まったりすることも懸念される。

 

また、英国企業の信用格付けにも、格付け見直しや格下げなどの悪影響が出ることもあるだろう。英国議会の混乱ぶりから、多くの投資家の懸念は強まっている。現在の状況が打開されない限り、債券市場は、英国企業の起債に対して、厳しい姿勢で臨むだろう。

 

英ポンドは、昨年12月の1ポンド=1.25ドルから1.32ドルへの戻り相場を1月29日の議会下院での離脱案の修正採決により転換した後、1.32ドルから1.29ドル近辺まで軟化が続いている。来週までは、以前のサポートラインであった1.27ドル、12月安値の1.25ドルを試す下値方向への動きを想定しながら、注意深く見守る必要があろう。上述の通り、英債券市場の動向にも関心を持っておいていただきたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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