エアコンや冷蔵庫も「ヒートポンプ製品」の一種
ヒートポンプの仕組みは、すでに19世紀前半には発明されていました。その後、1930~40年代に欧米で初めて実用化されましたが、当初は冷却作用のみ活用され、氷をつくる製氷技術として発展しました。
20世紀に入ってからは冷房にも用いられるようになり、日本では1932年に暖房にも使われるようになりました。1970年代にはオイルショックによる原油価格の高騰が引き金となって、原油を必要としないヒートポンプに世界各地で注目が集まりました。
ヒートポンプが使う熱エネルギーはいくらでも再生が可能なので、環境にもやさしいのが特徴です。そして近年の技術開発によって給湯、蒸気など、加熱目的での使用も普及し、さらなる高効率化を達成しています。
ヒートポンプの装置自体は、世間一般の人にとっては馴染みの薄いものですが、ヒートポンプの技術は、私たちの身近なところにたくさん存在しています。
たとえばエアコンも、ヒートポンプの一種です。先ほど述べたように、熱には「温度の高いところから低いところへと移動する」という性質があります。
エアコンはこの性質を利用して、空気の熱(大気熱)をうまく取りこんで移動し、室内を冷やして(または温めて)います。
ほかにも冷蔵庫や冷凍庫、洗濯機の乾燥機能なども、ヒートポンプ製品の一種です。多くの家庭に設置されている「エコキュート」という電気給湯機も、別名「二酸化炭素冷媒ヒートポンプ給湯機」といい、ヒートポンプを利用して空気の熱でお湯を沸かす製品です。
[図表1]冷凍から加熱まで広い用途に使われるヒートポンプ
ヒートポンプの仕組みについて、もう少し詳しく説明します。
ヒートポンプを使って熱を移動させるには、動力が必要です。同じポンプでも、水をくみあげる通常のポンプは羽やタービン(回転式の原動機)を回して水を移動させています。しかしヒートポンプの仕組みはもう少し複雑です。
下記の図表のように、片方で温度を下げながら、もう片方で温度を上げることで温度差をつくり、熱を移動させています。
[図表2]ヒートポンプの原理
このヒートポンプの原理は、「気体を圧縮すると温度が一気に上がり、液体が膨張する時には温度が一気に下がる」という現象を利用したものです。
たとえば自転車のタイヤにパンパンになるまで目いっぱい空気を入れると、空気が圧縮されて空気の温度が上がり、タイヤの表面が温められて熱くなります。逆に、スプレー缶からスプレーを噴出すると、スプレー液が膨張(気化)して圧力が低くなり、スプレーの温度は下がるので、吹き付けたところがヒヤッと冷たくなります。これは「圧縮=温度上昇、膨張=温度下降」の現象によるものです。
電気の力で故意に「熱いところ」と「冷たいところ」をつくり出すことで、空気から熱を集めて移動させ、冷暖房や給湯などのさまざまな用途に活かす。これが、ヒートポンプの仕組みです。
ヒートポンプ=熱の性質をうまく活かしたシステム
次に、ヒートポンプの構造を説明します。
ヒートポンプは、おおまかに分けて「圧縮機(コンプレッサー)」「凝縮器」「膨張弁」「蒸発器」の4つで構成されていて、これらが配管で結ばれています。
配管の中には「冷媒」という、熱を運ぶ物質が入っています。冷媒には「液化ガス」という物質が使われています。液化ガスは、温度によって気体や液体に姿を変え、効率的に熱を運んでくれるという性質があります。
ヒートポンプの内部で、どのように熱が運ばれるかを説明します。まず、圧縮機で冷媒を圧縮すると、冷媒の温度が上昇します。熱くなった冷媒は気体の状態ですが、凝縮器にたどりついて熱を放出(媒体を加熱)すると、温度が下がり、今度は液体になります。
次に、膨張弁で冷媒を膨張させると、今度は冷媒の温度が一気に下がります。冷たくなった液体の冷媒は蒸発器にたどりつき、熱を吸収(媒体を冷却)し、また気体になって、圧縮機で圧縮されて高温になる──というサイクルをくり返すシステムです。
このようにヒートポンプは、熱の性質を上手に活かしたシステムといえます。
ちなみに、かつてはヒートポンプの冷媒にはフロンが使われていましたが、有害な紫外線から地球を守っているオゾン層を破壊することが問題になりました。
それ以降は、新たな冷媒として代替フロンが登場しましたが、近年また代替フロンも地球温暖化を促進させる悪影響があることがわかりました。そのため、2019年度から段階を踏んで、代替フロンが排除されることになりました。
しかし、代替フロンの次に何を冷媒にするかはまだ決まっておらず、いまだに議論されている段階です。私どもの会社では、地球温暖化が叫ばれはじめた平成11~13年頃に、環境に悪影響がないプロパンを精製した「R290」という冷媒を用いたヒートポンプを業界に先駆けて製品化しました。近い将来、このR290の需要が高まる可能性もあります。
なお、15年以上前の古いエアコンには「R22」という冷媒ガスが使われていますが、このR22はフロンであり日本では2020年に全廃になってしまいます。それ以降は修理用でも廃棄された機器から回収されたR22の再生冷媒を使うことになりますが、コストがかさみますし、おすすめできません。
このように、冷媒をめぐる状況はあわただしく変化しています。ぜひご自身の施設のエアコンの冷媒や、次の更新時期を確認していただきたいと思います。