今回は、医療・介護施設における「水道光熱費の削減」が経営にどれほどの安定をもたらすかを検証します。※本連載では、厳しい経営を迫られる医療機関において、固定費のなかでも見直されることの少ない「水道光熱費」に着目し、これらの大幅削減を可能にする「ヒートポンプ」を紹介・解説していきます。

固定費の比率が高ければ、利益減少ですぐさま赤字に

医療機関や介護施設の利益は「売上−(マイナス)費用」で表すことができます。

 

[図表1]利益の計算式

 

一般的な総合病院の医療行為による売上は「医業収益」と呼ばれており、「外来診療収益」「入院診療収益」「差額ベッド収益」などで構成されています。一定規模以上の病院は、この医業収益のほかに「看護師らの育成・研修費」「寄付金」「臨床研究費」「交付金」「土地や施設の運用による収益」などがあります。

 

また、病院の医療行為にかかる費用は「診療業務費」といわれ、病院スタッフの「人件費」、医薬品や診療材料などの「材料費」、検査・給食・清掃などの「委託費」、地代家賃や固定資産などの「設備関係費」などがあります。

 

病院の利益を増やし、経営を安定化させるには、患者数を増やすなどして売上を出す、または出ていく費用を減らすことがとても大切です。

 

費用には、別の分け方もあります。売上によって増減する「変動費(医薬品費・医療材料費・検査材料費・給食材料費など)」と、売上とは関係なく一律で発生する「固定費(人件費・水道光熱費・メンテナンス料・地代家賃・リース料・広告宣伝費など)」の2つに分ける方法です。

 

[図表2]医療・介護施設の変動費・固定費

 

変動費と固定費のうち、できるだけ固定費の削減に努めることが、利益を確保するためには非常に大切です。

 

なぜなら、売上が下がった時に、固定費は下げることはできませんが、変動費は調整しやすいので、出ていく金額をおさえることができるからです。売上とは関係なく毎月払わなければいけない固定費の比率が高いと、患者数が減って利益が減少した時に、すぐに赤字に転落しやすくなります。

 

たとえば固定費が月額1500万円かかるとして、変動費の割合が20%とすると、必要な売上高は「固定費1500万円+変動費375万円」で、計1875万円になります。患者1人あたりの平均単価(診療単価)を6000円、診療日数が1ヵ月25日とすると、利益が0になる損益分岐点は「売上高(1875万円)÷診療単価(1人6000円)÷診療日数(25日)」の計算式で表すことができ、1日あたりの患者が「125人」になります。

 

[図表3]損益分岐点医業収益高(月)の計算式

 

1日あたり125人が達成できそうにない場合は、固定費・変動費の大幅な見直しが必要になります。

 

[図表4]損益分岐点

 

医療系施設の固定費で二番目に多いのが「水道光熱費」

コスト管理においては、固定費をかけすぎていないか、無理な設備投資をしていないかなど、一つひとつ吟味して確認することが大切です。

 

固定費のなかでも代表的な項目は、人件費や地代家賃、広告宣伝費、水道光熱費です。医療・福祉施設は医療・介護サービスを提供する場なので、固定費のうちおよそ半分を人件費が占めます。そのため、多くの経営者が人件費から削減しようとするのですが、だからといって安易にスタッフの数を減らすと患者の待ち時間が増えたり、サービスの質が落ちたりするため、よく考えなくてはいけない項目でもあります。

 

人件費を無理なく削減する手段としては、パートやアルバイトを採用したり、医療機器の保守点検や臨床検査などにアウトソーシング(外部委託)を活用したり、ボーナス(賞与)を業績に連動させたり、時間外労働の状況をチェックして無駄な出費を減らすといった方法があります。

 

地代家賃は、高額な場合は施設の場所を移動または縮小したり、賃料の値下げ交渉をしたりして費用を抑える方法があります。

 

設備についても、数年で新機種が出るような医療機器は購入するよりもリース契約にしておくなど、見直しを図ることが求められます。

 

広告宣伝費も削減しやすい固定費だといわれています。現在の広告を洗い出し、効果があまりないと思われる広告は思い切って中止します。

 

たとえば高額な電柱や駅の広告、町の看板などをやめて、地域密着を図るために低価格で出稿できる地元のフリーペーパーに記事広告を掲載するほか、ホームページの内容を充実させてSEO対策を万全に行うなどといった方法があります。

 

そして、医療・福祉施設の固定費の中でも、人件費の次に大きな割合を占めるのが水道光熱費です。

 

医療施設では、絶えず空調を最適温度に保たなければいけません。また、24時間体制で稼働しているナースステーションや、夜間に電力停止できない磁気共鳴画像(MRI)・コンピュータ断層撮影(CT)などの高度医療機器があるほか、医療器具を滅菌処理するための蒸気、お風呂や厨房で使うお湯なども絶えず必要になるため、昼夜を問わず大量のエネルギーを消費しています。医療施設のエネルギー消費量は、ホテル・旅館や飲食店と同規模であり、かつ学校や市庁舎、劇場の2倍以上ともいわれています。

 

介護施設においても、特別養護老人ホームや有料老人ホームなど24時間365日利用者が居住し続ける入所施設は、病院とほとんど変わらないエネルギー消費量です。過去に愛知県名古屋市が病院・老人ホーム(床面積5000〜7000平方メートル)に対して実施したエネルギー使用状況実態調査では、単位床面積当たりのエネルギー消費量が病院は年間2062MJ/平方メートルに対して、老人ホームでは1829MJ/平方メートルとなっており、ほぼ同等でした。

 

 

柴 芳郎

ゼネラルヒートポンプ工業株式会社 代表取締役

 

医療・介護施設経営者のための 水道光熱費を劇的に削減する方法

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柴 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

2017年の病院運営実態分析調査によると、総損益差額が赤字の病院は約7割にもなるとの結果が出ています。 一方介護事業においても、報酬引き下げや人材不足が原因で、廃業・撤退が相次いでいます。 そのため医療・介護施…

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