今回は、医療・介護施設におけるヒートポンプの導入効果を見ていきます。※本連載では、厳しい経営を迫られる医療機関において、固定費のなかでも見直されることの少ない「水道光熱費」に着目し、これらの大幅削減を可能にする「ヒートポンプ」を紹介・解説していきます。

節電・節水も、個人の努力への依存では限界が…

365日24時間、大量の電力を消費する病院や介護施設においては、光熱費を削減する方法が「一人ひとりの努力に依存する節約」だけでは限界があります。

 

もっとも効果的かつ比較的簡単な方法は、電気・ガス等の料金プランの見直しや、自由化に伴う電力・ガスの供給会社の統合や切り替えをすることです。

 

安い時間帯の電力を使うプランに契約し直すことで大幅に電気料金を下げることができますし、電力会社・ガス会社を切り替えてかなりの電気代・ガス代を削減できます。

 

ほかにも、省エネにつながる設備機器を導入する方法があります。

 

たとえば「日射調整フィルム」は、建物内の夏の冷房負荷を軽減してくれます。東京の事務所ビルを想定すると、熱線遮断タイプで約19~25%、断熱タイプで約25~35%程度の電気代の削減が可能だという試算があります。

 

「LED照明」は、省電力・長寿命・即時点灯など、さまざまなメリットがあることから、蛍光灯に代えて導入する病院・介護施設が増えてきました。万が一破損しても破片が飛び散らないため、火災や災害時にも被害を最小限におさえられるところも大きなメリットです。

 

「デマンドコントローラー」を導入する方法もあります。デマンドコントローラーとは、電気の使用実態を監視する装置のことです。そもそも電気の基本料金は、過去1年における電力量の使用ピーク値(最大デマンド値)によって決められますが、デマンドコントローラーはあらかじめ設定しておいたデマンド値を超えそうになると自動で機器制御して、電気代が上がるのを防いでくれます。私どもの会社でも、デマンドコントローラーを組み込んだ制御盤の納入実績があります。

 

そして、絶大な効果があるのが「熱源を入れ替える」というものです。

 

本連載のテーマでもある「ヒートポンプシステム」は、工事費やヒートポンプ本体などのイニシャルコスト(初期投資)こそかかりますが、ランニングコスト(維持費)が通常20~30%、多い時には70~80%と大幅に抑えられるため、初期投資を回収しやすいところが大きな特徴です。

 

なかには年間数千万円もの水道光熱費の削減に成功した事例もあります。

ヒートポンプは、熱を「冷→温」へと移動させる技術

水道光熱費を下げる方法として、近年新たに注目されているのがヒートポンプシステムです。

 

原理を詳しく解説すると少々難解になりますので、ここではひとまず、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。

 

熱は、放っておくと、温かいほうから冷たいほうへと移動します。カップに入れた熱いお湯がだんだん冷めていくように、これはごく自然な現象です。

 

この自然現象に逆らって、熱を「冷たいほう」から「温かいほう」へと移動させる技術がヒートポンプです。

 

ヒートポンプの大きな特徴は、ボイラーなどのように化石燃料を燃やすことで熱エネルギーを得るのではなく、熱エネルギーを別の場所に運ぶことによって、冷熱や温熱をつくる点です。

 

ポンプというと、水を低い位置から高い位置へとくみ上げる装置のことを思い出す人が多いと思います。ヒートポンプもその名の通りで、「温度の低いところ」から「温度の高いところ」へと、熱(ヒート)をくみ上げる(=移動させる)ポンプという意味です。別名「熱ポンプ」とも呼ばれています。

 

ヒートポンプで使う熱は、私たちの身近にある空気の熱や、地中の熱、地下水、下水、温泉の排湯熱や工場の産業排熱など、さまざまです。これらをまとめて「再生可能エネルギー熱(再エネ熱)」ともいいます。

 

ヒートポンプは再エネ熱を回収して、主にマイナス50℃から90℃程度の温度帯で利用することができます。冷暖房や給湯、冷凍など、一般的な熱の利用はヒートポンプで十分にまかなえます。ほかにも床暖房や、お風呂・プールの加熱、積もった雪を溶かすための熱源など、いろいろな利用法があります。

 

再生可能エネルギーといえば、太陽光発電や風力発電などが有名ですが、これらは気象条件に左右されてしまうという欠点があります。たとえば太陽光発電は雨やくもりの日、夜間には発電できませんし、風力発電は風の強さによって発電量が変わってしまいます。

 

しかし、ヒートポンプに使用する空気を除く再エネ熱は常に温度が一定であり、天候や時間帯にも左右されることなく、非常に安定しています。

 

また、熱は一から生み出すとなると大きなエネルギーを使いますが、ヒートポンプは熱を移動させるだけで小さなエネルギーから大きなエネルギーを得ることができるので、大幅な省エネが可能になります。

 

さらに燃焼を伴わないので、ボイラーなどのように化石燃料のコストがかかりません。火事や事故の心配もほとんどなく、地球規模で問題になっている二酸化炭素の排出もおさえることもできます。

 

このようにヒートポンプはさまざまなメリットを持ち、海外でも普及しています。

 

日本ではこれまでヒートポンプ自体の知名度はほとんどありませんでした。しかし近年、再エネや省エネが注目されていることから地中の熱や地下水を利用したヒートポンプシステムが新たに脚光を浴びており、政府も補助金制度を整えて普及促進に努めています。

 

これから先はさらに詳しくヒートポンプについて説明していきますが、少々専門的な話になりますので、興味のあるところだけをピックアップしてお読みいただいても大丈夫です。

 

なお、さまざまなヒートポンプのメリットを本書(『医療・介護施設経営者のための 水道光熱費を劇的に削減する方法』)85ページから説明していますので、「具体的にどんなメリットがあるの?」「導入にはいくらかかるの?」といったことを知りたい方は、本書を読んでいただければと思います。

 

医療・介護施設経営者のための 水道光熱費を劇的に削減する方法

医療・介護施設経営者のための 水道光熱費を劇的に削減する方法

柴 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

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