「スケルトンリノベーション」で老朽化リスクを軽減
目に見えない老朽化リスク
「スケルトンリノベーション」とは、リノベーションの中でも、物件の内装や、水道・電気などの設備を、必要なものを残してすべて撤去、解体し、新たなデザインに合わせて一から施工し直す工事を指します。
図表1は、当社がスケルトンリノベーションを行なった物件の、解体前と解体後の写真です。ご覧のように、建物の構造部分と一部の配管を除いて、綺麗に撤去されていることがわかります。
[図表1]スケルトンリノベーション
実は、この工法は、入居者に対するバリューアップだけでなく、物件のオーナーにとっても、厄介なリスクを排除するメリットがあるのです。
物件は、新築から築年数が経つにつれ、内装や設備の老朽化が徐々に進みます。
特に、キッチンや浴室といった「水回り」の給排水配管部分は、水圧や温度変化などによる腐食や劣化が進み、最悪の場合、継手や亀裂した部分から漏水を起こし、入居者や近接する住戸に大きな損害を与える場合があります。
しかし、配管の多くは、床下や壁の中を通して施工されているため、退去時のリフォームレベルでは劣化具合を目視できず、メンテナンスは基本的にされないことがほとんどです。
つまり、水回りは「トラブルが起こってから初めて気づく」ことが多いという、厄介なリスクを潜在的に抱えている箇所なのです。
水回りトラブルの恐ろしさ
水回りのトラブル対応は、突発的かつ修繕費用が高額になるケースが多いものです。図表2は、当社の管理物件で2016年度に起こった水回りトラブル事例の一部です。
[図表2]管理物件 水回りトラブル事例 2016年3月~
費用の総額や修繕内容を見れば、水回りのトラブルがいかに高額で、下階など、広い範囲に影響を与えるということがよくわかります。特に、床下部分などの漏水では、入居中の床を壊して工事を行うことが必要になります。作業費は高額になるケースが多く、工事が長引けば、入居者の仮住まいとしてホテル代を負担しなければならないこともあります。
他にも、2014年に起こった東京都台東区にある区分マンションの漏水事故では、給水管からの水漏れによって300リットルもの水が流れ出し、下階の事務所兼倉庫にあったパチンコ台が水をかぶったため、数百万円の費用が発生したというケースもありました。
つまり、水回りのトラブルは修繕費用だけでなく、入居者や下階の住人などの生活にも影響を与え、多大な賠償が発生することもあるのです。
漏水事故は基本的に、オーナーが過失責任を問われます。「施設賠償責任保険」に加入していれば、下階など、他の部屋への賠償費用は保険金でカバーできます。しかし、自分が所有する部屋の修繕費用は保険をかけられないため、基本的に全額が自己負担になります。
先ほどの事例では、築20年を超える物件に、水回りトラブルが集中的に発生していることがわかります。
水回りの老朽化によるトラブルを未然に防ぐためには、床材や下地材も含む内装をすべて撤去し、新たに配管をし直すスケルトンリノベーションが最も効果的な対策だと言えるのです。
民法改正でオーナーの責任範囲が明確に
民法改正が与える影響とは?
ここ最近、専門の業界紙などで取り上げられていますが、民法が明治以来120年ぶりに改正され、2020年に施行される見込みとなっています。そして、この民法改正は、賃貸住宅のオーナーにも大きな影響を与えると言われています。特に内装や設備では、以下の2点に注意する必要があります。
①入居者の原状回復義務に通常損耗は含まないことが明文化
入居者が部屋を退去する際は、入居者の過失による破損などを除き、通常使用や経年劣化といった「通常損耗」と呼ばれる原状回復について、入居者が費用を負担する必要はありません。このことについては以前から、オーナーと入居者の間で敷金返還のトラブルが絶えなかったため、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を示し、トラブルを未然に防ぐよう対策を行ってきました。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html
今回の改正では、その「原状回復義務に通常損耗は含まない」ことが、民法上でも明文化されることが決まっています。
原状回復義務がこれまで以上に厳格化することで、オーナーは、より一層の費用負担を意識する必要がありそうです。
②住宅設備における故障時の家賃減額が明確化
たとえば、「給湯器の調子が悪いため、ここ数週間、冷たい水しか出なかった」など、住宅設備が故障して通常の使用ができなかった場合、入居者はオーナーに対し、使用できなかった部分の割合に応じて、要求なしに家賃を減額することができるようになります。
このようなケースの場合、改正前の民法611条では、家賃減額を「要求される」だけでしたが、改正後はいきなり「減額される」ことが明記されます。
つまり、民法改正後はオーナーが、今まで以上に住宅設備のメンテナンスを徹底しなければ、一方的に家賃を下げられても文句は言えないということになるのです。
リノベーションの新たな不安要素
水回りのトラブル対応や、民法改正による家賃減額などから言えることは、「老朽化する賃貸物件に対して、その場しのぎの原状回復を行うだけでは、将来起こりうるリスクに対して、十分に備えることが難しくなる」という点です。
つまり、今後はオーナー自身がより一層の責任感を持ち、「入居者が安心して住める」住宅を提供することが求められるのです。そして、スケルトンリノベーションによって内装や設備を一新できれば、こういったオーナーの不安が払拭されるはずです。
ただし、ここで新たな不安要素が湧いてきます。リノベーションを請け負う建築業者が、将来的なトラブルが起きないよう、「きちんと施工してくれるかどうか」という点です。
実は、建築業者は見積もり費用の多少にかかわらず、経営方針や作業する職人のレベルによって、仕上がりのクオリティが変わります。いわゆる、良心的でウデの立つ業者に当たればいいのですが、見えない部分で手を抜く業者も残念ながら存在します。
つまり、リノベーションの業者選定は慎重に行う必要があるのです。
リノベーション住宅推進協議会とは
このようなリノベーションにおける不安を払拭するために設立された団体が、「リノベーション住宅推進協議会」という一般社団法人です。
リノベーション住宅推進協議会
この協議会では、優良なリノベーションを行うための統一規格を定め、住宅のタイプごとに基準を設定しています。その基準をクリアした住宅を「適合リノベーション住宅」として認定することで、安心して住めるリノベーション住宅を市場に提供する仕組みづくりを行っています(図表3)。
[図表3]リノベーション住宅評議会の定める統一規格
また、適合リノベーション住宅の中でも、区分所有マンションでその基準をクリアしたものを、特別に「R1住宅」と呼んでいます。R1住宅は、リノベーションの各段階において厳しい基準を設けています。
たとえば、給排水管や電気設備など重要な13項目のインフラについては、設けられた適合検査基準すべてをクリアする必要があります。
また、リノベーションの施工内容や検査の詳細などを記載した「R1住宅適合状況報告書」の提出や、2年以上の重要インフラ保証、リノベーションの図面や仕様など、工事の履歴を協議会のサーバーに保管することが義務づけられています。
つまり、リノベーション住宅推進協議会に「R1住宅」と認定された物件には、そのリノベーション工事に対して、強い安心感を持てることになります。
リノベーション工事を検討する際には、「R1住宅」の認定を取れる施工業者に依頼することがおすすめです。
もちろん、当社でリノベーション工事を請負う場合も、この「R1住宅」の認定を得ることを前提としています。
<POINT>
●スケルトンリノベーションは、目に見えない老朽化リスクの排除に有効。
●水回りのトラブルは突発的で、修繕費用が高額になることが多く、要注意。
●リノベーション業者選定の基準として、「適合リノベーション住宅」がある。