東京に「個性的なデザイン物件」が少ない理由
「新築」という無個性化
部屋探しで居住空間への優先順位が上がっていたり、インテリア雑誌が人気なのは、少し前によく耳にした「家飲み」というキーワードにも表れているように、ここ最近の風潮として、自宅で過ごすプライベートな時間が増加していることも一因と考えられます。
人それぞれの生活の仕方、仕事の仕方、人とのつきあい方…と、「自分らしさ」を価値観の1つにするのが現在の風潮です。長い時間を過ごす生活空間に、自分らしさを求めるのは、自然な流れのように思えます。
その一方で、自分だけの自分らしさを表現できる生活を送れるのは「単身者」という限られた期間だけになることが多いものです。結婚後も引き続きインテリアにこだわる方はいますが、家族ができて出産~育児とライフステージが進めば、好みの家具や自分らしいスタイルよりも、経済面や機能面など、家族の生活のしやすさが優先されるのは当然かもしれません。
つまり、独身の間は、ファッションや趣味、住宅やインテリアなど、生涯で唯一自分らしいスタイルを表現し、実現できる期間なのです。
しかし、そのような「自分らしさ」を表現した、こだわりの生活スタイルを実現できる住まいは、現在の賃貸住宅市場において、ほとんど存在していないのが実情です。
市場に物件が供給されるのは、土地オーナーまたは不動産会社の意向で建物が新築されたときです。
ここ数年の不動産投資ブームによっても、市場には一定数の新築賃貸物件が供給されましたが、そのほとんどが無個性で画一的な物件ばかりです。
新築の賃貸物件における内装の位置づけは、一般的に以下のようなものです。
①多くの人に借りてもらえるよう、差別化は不要
市場に流通している賃貸物件は、市場の「マス」を対象に設計されています。つまり、多くの人に借りてもらう可能性を残すために、あえて無個性で画一的なデザインを採用しており、そもそも差別化を追求していないとも言えます。
②新築は費用がかさむので、内装や設備コストはなるべく抑えたい
1棟ものの賃貸物件は、オーナーが求める収益目標を達成するために、少ないコストでより多くの収益を上げるよう設計されています。また、1戸単位での販売を前提とする分譲ものも、コストを抑えたいのは同様です。分譲主である不動産会社からすると、土地の仕入れから販売・引き渡しまで2~3年もかかる大がかりなプロジェクトとして、土地仕入れ、資金借り入れ、近隣対策、広告費と、そもそも多大なコストが発生するからです。
しかし、どちらのケースも、建物の構造など重要な部分をコストダウンすることは難しいため、そのしわ寄せは内装に及ぶことになります。つまり、広く流通しているローコストな建材が使われ、どの物件も結果的に、似たようなデザインになってしまうのです。
③賃貸物件なので、クオリティはそれなりで構わない
賃貸向けの物件は自己居住用と違い、オーナー自身が住むわけではありません。また、収益性を最優先しているため、「コストと客付けさえ問題がなければ、内装の仕上がりは必要最低限がベスト」と考えられてしまいます。つまり、オーナーまたは分譲主が内装のクオリティにこだわっていないため、それ相応の居住空間ができあがることになるのです。
「リノベーション」は「新築物件」に対抗する武器
これらの考え方は、東京という市場では今後も変わらないことが予想されます。土地オーナーや新築ディベロッパーは、需要側に強く振れた「東京」という賃貸市場に、「新築」というプレミアムを持った賃貸物件を提供するのです。この先、十数年間は賃貸付けに不自由しないことが見て取れます。どうして、わざわざコストをかけてまで内装にこだわることがあるでしょうか。
つまり、これまで供給されてきた物件も、今後供給される物件も、入居者が求めるような魅力的な空間ではないのです。だからこそ、居住空間に新たな価値を提供するリノベーションは、自らの物件の「競争力」を相当程度高めることができるのです。
不動産投資は先の長い事業経営です。収益が十分に確保できている時点でリノベーションを施し、市場にある画一的な物件から差別化することで、ライバルとの生存競争に勝ち残ることができると考えましょう。
<POINT>
●近年、居住空間に「自分らしさ」を求める人々が増えている。
●そのようなニーズに応えている物件は、賃貸市場にほとんど存在しない。
●リノベーションは居住空間に新たな価値を提供できる手段である。