東京23区の賃貸経営で「競争力を高める」には?
現在の需給ギャップや家賃相場、また将来的な需要供給それぞれのベースを考えると、東京23区での賃貸経営がかなり安全性の高い不動産投資であることは間違いありません。
しかし、不動産投資は時間軸を活用した長期的な運用に妙味があることから、先ほどの相続対策アパートや2022年問題のような需給ギャップの変動要素などを、将来的なリスクとして考慮しておく必要があります。
リスク要因が、想定していたよりも大きな変動を起こした場合でも、余裕をもって追従できるよう、収益に不満がない現在から物件の競争力を高めておくことに越したことはないのです。
そして、その競争力を高める手法の1つが、本連載で推奨するリノベーションということになります。
入居者は「駅からの距離」よりも「間取り」などを重視
入居希望者が重視するものとは?
東京ワンルームマンションのリノベーションでは、その居住空間をバリューアップすることになります。これに関して、株式会社リクルートのプレスリリースに、興味深い調査報告があります。
『2016年賃貸契約者に見る部屋探しの実態調査(首都圏版)』という内容で、賃貸物件を契約した人を対象に、リクルートが独自に調査を実施したものです(図表1)。
[図表1]住み替え時に優先する特長(全体/単一回答)
その中のアンケートで、変えられない要素代表としての「駅からの距離」に対して、「間取り」「内装」「外装」「住宅設備」「耐震性」「断熱・省エネ性」を挙げ、住み替え時に優先する特徴として、優先順位が高いものはどれかを聞いたという項目があります。その回答結果は、以下のとおりです。
●「駅からの距離」よりも、「間取り」「設備」「内装」を優先する
●「耐震性」「外装」「遮音性」「断熱・省エネ性」は、「駅からの距離」よりも優先度が低い
つまり、入居者の部屋探しの項目として、投資家が当然に重要視している「駅からの距離」という利便性よりも、入居者からすると「間取り」「設備」「内装」の優先順位が上だということです。入居者はあくまでも部屋の中に住むのであり、内装や設備といった、実際に生活をする空間の居心地の良さに価値を見出して、入居を決めるのです。
自分らしい生活にこだわる若い世代
もう1つ、視点は異なりますが、入居者の居住空間へのこだわりが見て取れる調査結果を紹介します。
図表2は、リクルートが運営する不動産ポータルサイト「SUUMO」が調査したもので、自分で住むために中古住宅を購入し、リノベーションを施した方を対象にしたアンケート結果です。
[図表2]「リノベーション」の魅力(全体/単一回答)
この中で、リノベーションに魅力を感じる理由を聞いたところ、2012年にトップだったのは「新築住宅を購入するよりも、ローコストで仕上げられるから」という回答でした。
しかし、2014年に改めてアンケートをとったところ、トップになったのは「新築住宅と違って、自由設計で自分らしさを一番表現できるから」という回答だったのです。
この調査結果は、「自分で住むために中古物件を購入し、リノベーションをした方」を対象としていますが、特に20代でその傾向が顕著になっています。ここ数年で、「自分らしい生活スタイルに憧れる若い世代が増えた」と言って良さそうです。
昨今、大型書店などでは、多くのインテリア雑誌が並んでいます。インテリア雑誌がよく売れるのも、「自分が生活をしている空間を通じて、豊かで自分らしいライフスタイルを重視する人がそれだけ多い」ということの表れかもしれません。
現在の東京23区における需給ギャップを考えて、「単に目先の数年、今と同じ水準の家賃を得る」というだけなら、このようなアンケート結果は、1つの参考情報にとどめておくだけで良いかもしれません。
しかし、将来的なリスク要因への備えや、さらなる収益性の向上のためには、実際に家賃をもたらしてくれる入居者の優先順位や嗜好を、自らの資産に組み入れる価値はあるでしょう。
<POINT>
●東京23区の賃貸経営の安全性は高いが、リスクへの備えは必要である。
●収益に問題がない現時点から、物件の競争力を高めておくべきである。
●入居希望者が重視するものは、居住空間へのこだわりにシフトしつつある。