現在、10人に1人がADHDといわれるほど、発達障害と診断される子どもが増加しています。にもかかわらず、療育センターへの通所は3年待ちが当たり前というのが現状です。なぜ、こんなにも対応が大幅に遅れているのでしょうか。本記事では、日本の療育現場の問題点について見ていきます。

約4割もの発達障害児が療育を受けられていない現状

薬に頼らずに発達障害と上手につき合っていくためには、「療育」を受けるという方法があります。療育とは、治療と教育の両方を併せ持つもので、社会に出ても困らないようにするためのトレーニングです。

 

ところが、発達障害と診断される子どもが増えるにしたがって、療育を受けられる場が足りなくなっています。

 

文部科学省の調査によると、発達障害とされる子どもが推計で約60万人いるとされていますが、そのうち4割弱は特別な支援を受けていません。本来、発達障害の子どもは、療育を受けることで、社会に出て活躍できる足がかりをつくることができます。にもかかわらず、多くの子どもたちが療育を受けられずにいるというのは、本人にとっても社会にとっても大きな痛手です。

 

それぞれの自治体には、障害のある子どもに対して、それぞれに合った治療・教育を行う場として療育センターが設けられています。療育センターには、通所支援の場として、6歳までの未就学児に発達支援を行う児童発達支援事業所・児童発達支援センター、医療型児童発達支援を行う医療型児童発達支援センター、6〜18歳(場合によって20歳)が通う放課後等デイサービス、保育所等訪問支援があります。

 

療育センターで療育を受けようと思ったら、まずは市区町村の窓口に相談に行く必要があります。窓口には相談員がいて、必要に応じて療育センターに申し込みをすることになります。ところが、6歳以下の子どもが実際に療育センターで療育を受けるためには、3年待ちが当たり前というのが現状です。

 

発達障害の子どもが急増していることについては、すでに述べました(関連記事『10人に1人がADHD? 発達障害児が急増しているワケ』参照)。発達障害の子どもの数は増えているのに、療育センターの定員はほとんど変化がありません。療育を受けたい子ども数が増えているのに、受け皿は増えていないのです。

 

子どもの脳は、6歳までに急激に発達していきます。6歳までに適切な療育を受けることができれば、発達障害の子どもの生きづらさは、かなりの部分が解消します。

 

しかし、現状では、たとえば3歳児健診で発達障害だといわれたとして、すぐに療育センターに申し込んでも3年待ちが当たり前です。つまり、6歳までに療育を受けることができないのです。

 

ハーバード大学は、6歳までに効果的な療育を受けられれば、IQを平均27ポイント上げることができるとしています。IQが平均27ポイント上がるというのは、知的障害のある子どものIQが平均以上になるということです。

 

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これを受けて、日本の療育の現場でも、6歳までの教育の場にしようということでつくられたのが、「児童発達支援事業所」でした。

 

それまで療育の場となっていたのは、「児童デイサービス」と呼ばれるものでした。児童デイサービスは、就学・未就学を問わず、通所の療育施設として設けられていました。それが、2012年に「障害者自立支援事業法」と「児童福祉法」が改正され、未就学児を対象とした教育の場である「児童発達支援事業所」と、就学児を対象とした預かりの場である「放課後等デイサービス」に分けられたのです。

 

とはいえ、もともとは就学・未就学問わず預かり保育の場であった「児童デイサービス」が、午前中は「児童発達支援事業所」、午後からは「放課後等デイサービス」となっただけというケースが多くあります。教育のノウハウを持っていないために、相変わらず預かるだけの場となっていることもあります。

 

放課後等デイサービスについては、2012年の法改正によって、株式会社も参入できるようになりました。国の目標としては中学校区に1施設で、全国で9700施設ですが、すでに10000施設を超えています。これほど増えたのは、放課後等デイサービスに関しては、場所を確保して、人手があればつくれるからです。

 

一方、「児童発達支援事業所」がなかなか増えないのは、専門性が必要だからです。幼児教育に専門性がある株式会社となると、幼児教室の運営会社くらいでしょう。参入できる会社の数が少ないのがボトルネックとなっています。

 

6歳までに適切な療育を受ければ、IQが27ポイント上がるのですから、本当は未就学児を対象とする児童発達支援事業所の方が必要なはずなのに、こういった理由からなかなか増えていないのです。

発達障害と判定されず、療育の開始が遅れることも

また、発達障害の判定ができる小児科の医師が少ないことも問題です。健診を担当する医師が発達障害に詳しくない場合、「もう少し様子を見ましょう」などといわれて、判定が先送りになれば、余計に療育の開始が遅れます。

 

療育センターでは重度の子どもが優先されますので、軽度と見なされた子どもは、より不利になります。一般に「グレーゾーン」といわれるような子どもに至っては、療育センターに通う機会すら得られないのが現状なのです。

 

療育を受けられる施設は、各自治体の療育センターだけではありません。ほかの選択肢はどうなのでしょう。

 

その一つに、病院で療育を受けるという選択肢があります。しかし、療育を行っている病院で初診の予約をとろうとしても、10か月から1年待ちは当たり前という状況です。当然、療育の開始までにはそれ以上の時間がかかることになります。

 

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では、民間の療育機関はどうでしょう。

 

民間の施設については、預かることがメインの「預かり型」が多く、療育を受けられる「教育型」の施設が少ないのが課題です。比率としては、預かることがメインの事業所が9割近いというのが現状です。

 

もちろん、「預かり型」のニーズがあるのも事実です。発達障害の子どもを育てているお母さんの苦労は計り知れません。子育ては、ただでさえ大変ですが、たとえば多動傾向のある子どもを一日中追いかけているお母さんは、心身ともに疲れ切っていることも多くあります。そういうお母さんに、ひとときでも休んでもらうためには、預かり型が果たす役割は大きいといえるでしょう。

 

しかし、子どもの将来を長い目で見たとき、社会の中で能力を発揮していくためには、幼児期に適切な療育を受けることが大切です。教育型の施設が足りず、しかるべき時期に適切な療育が受けられないというのは、その子の将来にわたる大きな損失なのです。

 

療育が受けられる施設の数が足りないのと同時に問題なのが、療育の質です。

 

自治体の療育センターの現場では、先生が自作の教材を使って、それぞれのやり方で療育を行っています。そのため、療育のノウハウが蓄積されにくいという現状があります。

 

本来、子どもたちが常に目を輝かせて学習に取り組むためには、大量の教材が必要です。すでに述べましたが(関連記事『ADHDの子どもが60分間「夢中になる」学習法とは?』参照)、私が運営する幼児教室では2000個の教材を使っています。1か月に使う教材だけでも、コンテナボックス8個分にもなります。子どもたちを飽きさせない授業を続けていくには、実際にそれだけの量の教材が必要なのですが、これを先生たちがそれぞれ手作りするのには無理があるでしょう。

 

加えて、療育を行う部屋の広さも問題になります。広い教室に、さまざまな年齢の子どもたちが集まるようなところでは、発達障害の子どもは落ち着いて療育を受けることができません。広い部屋の中で、大きな子どもが暴れていたり、ほかの子どもが遊んでいたおもちゃがあちこちに転がっていたり。そのような状況で、ただでさえ注意が次々と移る発達障害の子どもが集中できるはずがありません。

 

もちろん、運動をメインで行う施設であれば広さが必要になりますが、療育のレッスンを行う教室であれば、個室が理想的です。現状では、個室がある教室は全国で500教室。30万人分です。これではまったく足りていません。

 

6歳までに療育を受けられれば、IQは27ポイント上がり、社会に出て活躍するために必要な力を獲得できるのに、日本の発達障害の子どもたちはそのチャンスを逃しているのです。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役
 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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