今回は、経営改善によって出したボーナスをきっかけに、さらなる経営改善が進んだ事例を紹介します。※本連載では、粗利「だけ」に目を向けて、経営改善する方法について解説する。

経営不振の会社は「売る」ことのみに意識を向けがち

どうすれば高く売り、安く仕入れることができるのでしょうか。私が支援させていただいた会社では、売上目標を利益目標に変えたことがきっかけになりました。利益を見る意識を徹底することで、自然と売値と仕入れ値に注目するようになり、売り方や作り方が変わっていったのです。

 

そこで重要なのは、各商品を売ったり、各現場が仕事を受注した際に「いくら儲かるか」を考えることです。この一点に尽きるだろうと私は思います。

 

経営不振に陥っている会社は、なぜか「売る」ことのみに意識を向けます。結果として利益が残っていなくても「会社の売上が増える。工場も稼働する。だからいいだろう」と考えます。

 

粗利目標を達成する方法として、少し安くし、より多く売る戦略が有効な場合もあります。ただし、それはあくまでも粗利目標を達成するという目標と紐付けされていなければなりません。

 

どの商品を売ると利益が大きくなるのか。利益が小さい商品は、どれくらい売れば粗利目標に到達するのか。そういったことを粗利を稼ぐという視点から総合的に考えなければならないのです。

 

この順番で考えると、自然と利益率が高い商品やサービスが絞り込めます。

 

これを売ると儲かる。

 

こっちはたくさん売らないと儲からない。

 

そんなことが分かってくるわけです。そのような分類を踏まえ、利益率が高い商品をよりたくさん売ることにより、利益も飛躍的に増えていきます。

 

原価に関しても同じで、社内経費などの「一般管理費」を下げることを真っ先に考える社長は多いのですが、その前に仕入れをもっと安くする方法を考える必要があります。

 

私が支援している会社の例で見ると、この作業をせずに闇雲に固定費の削減に取り組んでいるケースが多いように感じます。

 

「経費削減」を大々的に掲げ、コピー用紙の節約や電気のこまめな消灯などを社員に強要している会社がその例といえるでしょう。

 

明らかな経費の垂れ流しはやめた方が良いと思います。しかし、そうでないなら、基本的には一般管理費の中の細かな経費削減には、そこまで力を入れなくてもよいと、私は思っています。

 

そもそも、細かな経費を削減しても、そこまで大きな経費削減にはなりません。

 

仮にコピー用紙を節約し、使用量を年間で100枚減らせたとしても、たいした金額にはならないでしょう。電気代も同じで、誰もいない部屋の電気は消した方が良いでしょうが、こまめに消したところで節約できる金額は知れています。むしろ社員のコスト削減意識がそういった部分にのみ注力される方が問題なのではないでしょうか。

 

そのような細かな節約をするなら、紙と電気を使ってでも、材料費や外注費である商品における変動費をより安くする施策を真剣に練った方が良いと思うのです。

粗利を見る経営は「社員の士気」にも影響する

粗利を見る経営は、単に利益が獲得しやすくなるだけでなく、社員の士気にも影響します。

 

前述した経費が良い例といえるでしょう。

 

「節約だ」「経費削減だ」と言われ、薄暗い部屋の中で仕事をするのは誰だって嫌なものです。しかも、その効果が限定的で、給料が増えることもないのですからなおさら嫌になると思います。

 

一方、高く売る方法や安く仕入れる方法を考える仕事は、頭を使いますし、苦労もするでしょうが、実現できたときの効果は大きく、取り組んだ人の喜びも大きいはずです。利益が増えれば給料にも反映されやすくなりますから、物心両面で社員の満足を得られるのです。

 

高く売り、安く仕入れる方法を考えるのも、そのための交渉などを行って実際に利益を生み出すのも社員です。そのため、まずは彼らがやる気になってくれなければ経営は立て直せません。「売ってこい」「経費を減らせ」の経営はその典型例で、薄利の仕事をたくさんこなすことで体力的に疲れるだけでなく、がむしゃらに働いても給料が増えない状態が続くことで精神的にも疲れます。

 

そこで重要なのが、頑張ってくれた分の報酬を出すとともに、彼らがやりがいを感じやすいような環境を作ることが大事だと私は思っています。

 

ですから、私が支援する会社でも、経営改善の兆しが見えたら、まず社員の給料を増やします。

 

ボーナスもできる限り出すようにしています。報酬とやりがいの両面から社員を支えることで、彼らのやる気が高まり、粗利を稼ぐ経営にも拍車が掛かると思うのです。

 

報酬とやりがいは並行して高くしていくのが理想ですが、順番をつけるとすれば、まずは報酬を上げる方が先だと私は思います。そう思う理由として、改善に取り組んでから2年目にボーナスが出せるようになった会社を例に挙げましょう。

 

その会社はずっと赤字続きで、給料は増えず、ボーナスもない状態が続いていました。改善前の経営方針は典型的な売上至上主義です。営業部門は日々得意先を回り、製造部門も薄利の仕事をたくさんこなしていました。

 

しかし、限界利益を追う経営に切り替えたことで、少しずつですが経営が上向き、黒字化の目処も立つようになりました。

 

そのタイミングで、私は社長にボーナスを出すことを提案し、ほとんどの社員に平均30万円前後のボーナスを支給することにしたのです。

 

ボーナスは社長から社員に手渡しし、その際に一人ひとりと短い面談も行いました。社長から社員に頑張ってくれたお礼を伝えるとともに、今の現場の課題や、変えてほしいことなどを聞くことも面談の目的の一つでした。

 

その時、ボーナスを受け取って泣いた社員がいました。頑張ってよかった。会社の経営状態が良くなって安心した。そういう気持ちが高まって流れ出た、感動の涙でした。

 

その姿を見て、私はいかに社員が辛い思いをしていたか改めて実感しました。「売ってこい」「経費を減らせ」の日々の中で、彼らは限界まで我慢し、こらえていたのです。

 

その後、その会社の業績はさらに伸び、今では1回のボーナスが100万円以上になる社員が出てくるまでになりました。

 

この時、私は意外な発見をします。前回までと同様に社長から社員にボーナスを手渡すのですが、ボーナス支給額が大幅に増えたにもかかわらず、以前ほどは感動してくれません。30万円のボーナスを泣いて喜んだ社員も、この時は泣かなかったのです。

 

面談して話を聞いてみると、ボーナスが増えたことはもちろんうれしいのだと言っていました。しかし、それよりも今は、会社をさらに良くすること、さらに利益を上げることにやりがいを感じていると言ったのです。

 

一言で言えば、報酬を得る喜びからやりがいを感じる喜びに変わったということです。

 

当初は報酬がもらえることがうれしく、そのためにたくさん努力しようと考えていました。しかし、その気持ちが徐々に変わり、仕事を通じて会社を良くしたり、改善案を出して会社に貢献することそのものが楽しくなっていったのです。

 

お金が必ずしもやりがいに結びつくとは限りません。しかし、最低限の報酬しか出していない状態で、やる気を出せ、頭を使えと言っても、彼らはなかなか動いてくれないでしょう。

 

そう考えれば、真っ先に人件費を削ろうとする経営は社員のやる気を損ねる経営ということができるでしょう。

 

経営改善のプロセスでは、その逆のことをやらなければなりません。

 

経営が厳しい時にボーナスを出すのは難しいでしょうが、多少無理してでも報酬を出すことが、社員のやる気を高め、利益獲得につながっていきます。ボーナスが社員を勇気づける投資になると考えれば、状況にもよってですが、無理してでも報酬を出す価値はあるでしょうし、それこそが経営改善の勢いをつける重要なポイントになるだろうと思うのです。

 

粗利「だけ」見ろ 儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール

粗利「だけ」見ろ 儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール

中西 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

売上を見てはいけない! 経営改善の真髄をわかりやすく解説。 東京オリンピックに向け、建設業や不動産業などの好景気が報じられています。 また飲食業や運送業も繁盛しており、人手不足が深刻化する程です。 しかし、好…

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