頑張る社員にボーナスを払う会社の「目標設定」は何が違うか?

今回は、「必要粗利額」を定めることのメリットについて見ていきます。※本連載では、粗利「だけ」に目を向けて、経営改善する方法について解説する。

少し視点を変えるだけで、黒字化の目安が明確に

粗利や限界利益が重要である理由が分かれば、あとは黒字となる粗利・限界利益を計算し、目標額として設定するだけです。

 

非製造業の場合は一般管理費を見れば目標が分かります。

 

製造業の場合は一般管理費と製造人件費、製造固定費を見て、いくら稼げば良いか計算し、その金額を目標にします。従来のような売上目標を立てる経営では、例えば「10億円の売上を目指す」ことが目標になっていました。

 

しかし、仮に10億円稼げたとしても、粗利が1億円で一般管理費が2億円掛かっていれば赤字になります。

 

一方、粗利の目標を立てる経営は、一般管理費がいくら掛かっているかを踏まえた上で目標を立てます。

 

営業黒字を基準にするなら、非製造業では、一般管理費が2億円の場合、2億円以上稼げば黒字になりますから、2億円が当面の目標になるでしょう。製造業においては、一般管理費と製造人件費・製造固定費の合計が4億円なら、限界利益4億円が目標です。

 

そのように少し視点を変えるだけで、黒字にするための目安がとても明確になります。非常に単純ですがその効果は大きく、実際、私の支援先である会社の社長たちからも「本当に分かりやすくなった」「驚くほど目標が明確になった」という声を聞きます。

 

また、売上ではなく利益を見た経営に変わりますから、従来のようにがむしゃらに売上を追う必要がなくなり、利益も出やすくなります。利益を見て経営しているわけですから、当然の結果といえるでしょう。

 

会社によっては、借入金の返済があり、営業利益から支払金利が引かれる場合や、純利益から借入金の元金を返済しなければならない場合があります。そのような場合は、粗利に支払金利と年間の返済額を足して目標額とすれば良いでしょう。

 

また、将来に向けた設備の買い換え・買い増しの資金を残したいと考える会社もあることでしょう。頑張ってくれる社員への報酬として給料を増やしたり、ボーナスを払いたいと考える社長もいます。そのような場合も、粗利にそれらコストを全て加えた金額を目標にします。

 

私はこの金額を「必要粗利額」と呼んでいます。

 

必要粗利額を設定し、それを超えるだけ稼ぐことができれば、負債が減り、ボーナスの原資を作ることができます。

 

働き手の目線で見ると、必要粗利額を稼ぐことが、ボーナスを受け取るための目安の金額にもなります。

利益を目標にすれば、社員の思考・行動に改革が起こる

私が支援している会社は、売上目標をやめ、粗利や限界利益を目標に変えただけで軒並み経営状態が改善しました。

 

赤字だった会社は黒字になりましたし、黒字ではあったものの利益が少なかった会社は、今までの何倍もの利益を稼げるようになりました。「そんな簡単にいくのか」と疑う人もいるでしょうが、事実、たったそれだけのことで経営状態は良くなります。

 

なぜかというと、利益に目を向けることがきっかけになり、社長や社員が売り方や作り方を考えるようになるからです。実にシンプルに「いかにして利益を得るか?」と考えるようになるのです。

 

例えば、営業部門が仕事を引き受ける場合、利益がどれだけ得られるかを考えるようになるため、採算度外視の仕事は受注しなくなります。薄利の仕事も減ります。結果、受注する仕事の利益率が良くなり、利益が増えやすくなります。

 

なによりも、利益を増やすという意識が強烈に働きます。その結果、高く売るにはどうするか考えるようになり、その努力が利益アップにつながります。このような取り組みの積み重ねにより、経営状態は目に見えて良くなっていくものなのです。

 

また、売上ではなく利益を目標にすれば、高く売る方法のほかに、材料費や仕入れ値など原価を安くするという意識も働くようになるでしょう。利益は売り値と原価の差から生まれますので、売り値が高くなれば利益が増えますし、原価が下がった場合も利益が増えます。そのような視点を持つことにより、安く仕入れられる取引先を探したり、材料費を安くするための交渉をするなど、社員の日々の仕事内容そのものが変わっていくのです。

「たくさん売ってこい」がもたらすデメリットとは?

もう少し詳しく説明すると、利益を増やすための方法は、そんなに難しく考えなくても実行できるものと、深く考えなければならないものに分類できます。

 

難しく考えなくても実行できる方法としては、例えば、販売数や売上高のみを考え、とにかく量を売る方法や、単純に経費などのコストを下げる方法などが挙げられます。

 

量を売る方法としては、売上目標や販売数目標のみを立てて取り組む方法です。とにかく安くすればある程度の量は売れるでしょうから大きな工夫はいりません。

 

経費などのコストを下げるもっとも単純な方法として、とにかく人を減らし人件費を抑える方法が挙げられます。この方法も、実際に減らせるかどうかは別として、考え方としては比較的簡単に実行できるものといえます。

 

一方、深く考えなければならない方法は、販売金額を上げたり、原価を下げるといったことです。

 

これらは簡単には実現できません。方法を練らなければなりませんし、考えたり試行錯誤したりするのが面倒ということもあり、誰もやりたがりません。そもそも利益を見る視点がなければ、高く売る、原価を下げるという発想にもなりにくいといえるでしょう。

 

具体例で考えてみると、100個売れている商品があり、販売数だけを考えて150個売るのは比較的しやすいということです。原価を深く考慮せずに安売りなどを行えば、あと50個くらいは頑張って売れるでしょう。

 

しかし、100円の商品を120円で売るのは苦労します。買い手が20円高く払ってもいいと思える理由を考えたり、その分の価値を新たに作り出さなければならないからです。こうやって比べてみても、安く売る方が圧倒的に簡単であることが分かります。

 

だから、多くの人はたくさん売る方法を選びます。社長が「たくさん売ってこい」「経費を掛けるな」と言うのも、そういう指示の方が簡単で、実現しやすいからでしょう。売り手である営業や販売の社員も、販売個数が増えれば仕事をしたような気になります。

 

社長にとっても社員にとっても、個数や売上を追い掛ける方が楽なのです。

 

しかし、簡単なことは誰でもやりますから、競合も同じことをします。

 

その結果、何が起きるかというと、安売り競争が始まります。商品の付加価値を高めない限り、たくさん売るためには安くしなければならないからです

 

実際、どの業界でも安売り競争は起きていますし、その中で苦戦し、潰れていく会社もたくさんあります。100円が90円になれば利益率が下がりますから、営業部門はさらにたくさん売らなければなりません。

 

製造部門は、売り値90円で利益を出さなければならず、そのために材料費を必要以上に抑えたり、人を減らして対応することになるでしょう。結果、商品やサービスの質が下がり、人手不足によって現場が疲弊します。

 

現場が疲弊すれば辞める社員も出てきますし、辞める人が増えれば、残った社員の負担がさらに増え、品質も社内の雰囲気もますます悪くなるでしょう。

 

そのような悪循環をもたらすのが、「たくさん売ってこい」のデメリットであり、売上至上主義のそもそもの問題なのです。

 

本来の経営は、そういったリスクに目を向けなければなりません。その点、利益を得る方法を根本から考え、高く売り、安く仕入れる方法を考えるようになれば、価格競争に巻き込まれるリスクは小さくなります。

 

たくさん売る方法から離れることで、売上額は減るかもしれません。しかし、利益は出やすくなります。

 

営業部門は、たくさん売るために飛び回る体力はいらなくなり、その代わりに、高く売るため、安く仕入れるために頭を使うようになるでしょう。

 

製造部門も、薄利の商品を大量に作る日常から解放され、負荷が小さい状態で、質が高く、利益率がよい商品を作れるようになります。

 

 

経営改善では、そのような意識を会社全体で共有することが重要なのです。

 

昭和42年石川県金沢市生まれ。法政大学文学部卒業。地元大手商社の営業部長、大手コンサルティングファームで金沢支社長を務めた後、平成20年にk・コンサルティングオフィスを個人開業。平成27年法人化。建設業界の業績改善に大きな強みを持つコンサルタントとして、ゼネコン、工務店、設備会社など多数の顧問先の経営改善に取り組んできた。社員全員と面談を行うなど、顧客に深く入り込むコンサルティングを強みとし、顧問企業の90%以上は2年以内に業績が大幅改善するという圧倒的な実績を残す。2年で利益が80倍になった例もある。

著者紹介

連載「粗利」を増やして企業の経営を劇的に改善する方法

粗利「だけ」見ろ 儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール

粗利「だけ」見ろ 儲かる会社が決して曲げないシンプルなルール

中西 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

売上を見てはいけない! 経営改善の真髄をわかりやすく解説。 東京オリンピックに向け、建設業や不動産業などの好景気が報じられています。 また飲食業や運送業も繁盛しており、人手不足が深刻化する程です。 しかし、好…

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