現実味をおびてきた「合意なき離脱」
15日、メイ内閣は、英国議会下院で昨年12月に先送りをしたEUからの離脱合意案を承認するかどうか採決にかける予定である。
メイ首相は土壇場まで支持を訴えたものの、可決できるかどうか見通しは全く立っていない。14日の一部報道では、少なくとも与党保守党議員の70人程度が、さらにメイ政権を閣外協力で支えてきた北アイルランドのプロテスタント強硬派、民主統一党(DUP)の議員が、採決で離脱案反対に回る見通しで、そうなれば1924年以降で最悪の票決で否決される法案になると報じている。
合意なき離脱は、英国にとって、経済的に非常に困難を極めるシナリオだろうが、合意のもう一方の当事者でもあるEUにとっても、混乱が波及することは回避したいというのが本音だろう。14日、EUは、メイ首相に宛てた書簡で、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドとの国境問題に関して、バックストップの回避を目指すという確約を守るとし、確約は法的効力を持つと表明し、メイ首相への支援姿勢を示した。
対ドル相場で1ポンド=1.27ドルを割り込む可能性も
EU当局者と市場は、どれほどの差で合意案が否決されるか、採決を注視している。100票を上回るような大差で否決された場合には、相互に譲歩する余地がなくなり、EU内での離脱合意の再検討の可能性がなくなるとの見方がある。市場でも、その場合は、英ポンドの対ドル相場が、節目である1ポンド=1.27ドルを割り込んで急落する可能性があると予測されている。
一方で、ここ数日の動きは、否決シナリオの確度が高いと言われる割には逆説的に、ポンドがジワリと上昇している。合意案が、否決された場合メイ首相に対する不信任投票によって総選挙になる可能性が高まるため、反対を表明している議員の一部が急転賛成に回り、離脱合意案が可決されるのではとの見方から、買戻しの動きもあるようだ。
急転直下の賛成という楽観的なシナリオは難しいとしても、英国内では、今回の採決で否決された場合であっても、さまざまなシナリオが飛び交っている。ここへ来て、英国とEUによる自由貿易協定を締結するというシナリオや、英国がEU予算を分担して単一市場へのアクセスを保てる欧州経済領域(EEA)に加盟するというシナリオが浮上してきている。もちろん、無秩序な合意なき離脱に至るというリスクシナリオも、極端な離脱撤回シナリオなども混在し、どう転んでも不思議ではないという状況である。まさに、政治の一寸先は闇という訳である。
英国の国民投票も、ふたを開けてみれば大きなサプライズだったが、15日の英国下院での採決も、全く結果が読めない状況で、ブレグジットの落としどころに先は見えて来ない。採決を経ても、市場の振れは当面続きそうである。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO