米政府機関閉鎖の影響は、政治的な停滞にとどまらない
トランプ大統領が主張するメキシコとの国境に壁を建設する費用の予算化を巡って、民主党と共和党の対立が続いている。双方の主張の隔たりは埋まらず、状況に打開の兆しはなく、長期化への懸念が広がっている。問題は、単に政治的な停滞ということにとどまらず、この対立から、議会で追加予算案を可決できないために、予算執行ができないことから、米連邦政府機関の一部閉鎖が続き、長期化する懸念が強まっていることである。
当初は、これほど対立が解消できないとは危惧されていなかっただろう。閉鎖は1月18日で28日目となっており、これは、閉鎖期間としては過去最長を更新している。既に、市場が経験したことのない、未知の領域に入っているが、閉鎖が長引けば長引くほど、経済的な影響も大きくなる。
連邦職員の賃金未払いや政府機関での業務処理の遅れは、経済全体にじわじわと影響が広がる。実際に、政府機関閉鎖が市場に影響を与える兆しは既に表面化しつつある。政府機関に勤務する職員への給与遅配や無休休暇の長期化は、消費に影響を与えよう。米国財務省だけで、7万人以上もの職員が一時帰休・無給となっているという。
空港では、保安検査の停滞が見込まれることから、空港の混雑を嫌って、出張や旅行が減り、航空券の需要が損なわれるとの懸念で、航空株の指数は市場全体のパフォーマンスを下回り始めたという。
トランプ政権の目玉「金融規制の緩和」にも差し障る
直接に経済に影響する側面に加えて、トランプ政権の目玉政策の一つでもあった、規制緩和のうち、金融規制の緩和を実行に移すことの阻害要因になるとの声が出てきている。トランプ政権は銀行規制の緩和や企業統治改革、金融イノベーションの促進に向けた計画を発表していたが、連邦政府機関での業務停滞が、この進捗を妨げるという訳である。規制緩和の中でも、金融規制の緩和は、今年の景気下支え材料の一つにもなると考えられてきただけに、金融業の収益にプラスになる要因が減ることは、市場の不透明感を強めることになる。
市場は、今年初めからボラティリティーが急上昇し、金利見通しも振れが大きくなっている。さらに、世界経済の足かせとなりかねない米中貿易摩擦や英国のEU離脱問題も先が見えず、加えて、ここへきて米国経済の足かせとなる材料が目立ってきたことは、不確実性に対して神経質になっている市場心理にプラスになるものではない。
1月初めの混乱からは、ようやく落ち着きを取り戻しつつある市場だが、当面は楽観できない状況が続きそうである。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO