属性にかかわらず「入居率」は融資判断の重要ポイント
これまで物件を取得するうえでの選定基準と、賃貸需要を継続して確保するために仲介会社と関係を築く重要性について触れました。ここでは継続して物件を取得するために知っておきたい金融機関の判断基準と、金融機関に対して高評価になり得る物件選定について書きます。
物件の評価方法としては原価法・収益還元法・取引事例比較法の三種類がありますが、一つとして同じものがない不動産はあらゆる側面から判断され評価が下されます。一棟収益不動産の場合は、土地建物の現在の評価、相場の家賃に対する利回りを参考とするために原価法、収益還元法を用いるケースが多くなります。
●原価法
「原価法による物件評価」のことで、積算価格を求めて評価する方法です。
①土地評価額=前面道路路線価×土地面積(㎡)
②建物評価額=建物再調達価格×建物延べ面積(㎡)×(建物残存年数÷建物耐用年数)
この二つの合計が積算価格になります。
●収益還元
法物件の収益性により不動産価格を評価する方法です。直接還元法とDCF法がありますが、DCF法は難解であるために直接還元法が使用されるケースが大半です。
直接還元法は、『年間総収入÷還元利回り=不動産価格』で算出します。年間総収入は『全室の家賃×12カ月』で計算します。
●取引事例比較法
過去の取引事例と比較して物件価格を算出します。
いずれにしても一棟目の物件を、積算重視と収益重視のどちらで判断するのかは、属性と取引銀行によってポートフォリオが分かれます。
属性が高い人は物件の積算価格が割れていたとしても、次の物件を取引できる可能性が高いので、収益(実質利回り)にこだわっていくことが重要です。ただし、実際に保有している物件の入居率が低かった場合は属性にかかわらず、次物件へのチャレンジがとても難しくなります。
一方で、そこまで属性が高くない人であれば、銀行積算価格を棄損しないような物件を買うことがカギとなります。
いずれにしても銀行は年間の入居率などを加味して次案件の検討をしますので、満室経営を続けることは、銀行側からしても買い増しを続けるうえでとても大事です。
なお、個人の所得税圧縮のための物件取得の場合は事情が異なります。
好条件で売却するには「満室経営」であることが重要
前項では、投資家が買い増しをするうえでの満室経営の重要性に触れましたが、売却をするにしても満室経営を続けなければいけません。
空室期間が長い案件については賃貸需要がないエリア、競争力のない物件という、買主側として最も購入意欲を削がれる問題になります。
もしも「値下げをしなければ売却ができない」ということになると、売却利回りの低下にもつながったりしますので、継続的に家賃の価格を保ちつつ、入居率を高く維持しなければいけません。
第3回で、「物件選びを誤ってしまうと、その投資はほぼ失敗です」と述べました(関連記事『表面利回りで判断は危険?「物件実質利回り」を算出する方法』参照)。
これは逆にいうと、「物件選びを間違えないで好条件の融資を受けられれば、その投資は大方成功する」ということでもあります。
ただ、物件と融資条件が良くても、空室が続けば投資は成り立たなくなるので、なるべく家賃を下げずに長期的に入居してもらえる対策を講じなければなりません。
加えて、不動産投資における利益確定、すなわち「出口」も考えなければいけません。維持した利回りをどう売却して、キャピタルゲイン(売却益)を手にするかがポイントとなるわけです。
好条件で売却するためには、同じ入居者に長く住んでもらえているかがカギとなります。したがって、長期入居を促進する、いわゆるテナントリテンションを行い、入居者の満足度を引き上げなければなりません。
もし退去してしまったなら、前回退去した入居者からいただいていた家賃と同じ、もしくはちょっと上がるくらいの家賃で入居できるようにリーシングの努力をします。
家賃を下げるのは最終手段と考えましょう。「家賃を下げる」ことは、「キャッシュフローが減る」こととイコールです。キャッシュフローが減れば物件を買い進められませんし、万が一のリスクが発生したときも持ち出しになってしまう恐れがあります。
もちろん、出口で成功すればキャピタルゲインを手にできるわけですが、売却はタイミングによるところもあるので、毎月のキャッシュフローをきちんと得てお金を貯めておきましょう。
菅谷 太一
ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者