残債の一括返済のために行われる「競売」
代位弁済が行われると、借り手には保証会社に対して、残債を一括返済する義務が生じます。「期限の利益」が失われているため分割返済は認められませんが、そもそもローンの支払いに行き詰まった借り手には、多くの場合、残債を一気に清算するだけの財力はありません。
そこで行われるのがほとんど唯一の財産である自宅の競売です。保証会社は通常、代位弁済を行った後、半月から1カ月で「競売の申し立て」を行います。競売申立のよりどころとなるのは保証会社が保有する抵当権です。もともとローン契約を結ぶ際には自宅を担保とする抵当権を設定しますが、この際に抵当権者となるのは融資を提供する銀行などの金融機関ではなく保証会社です。ローン契約では最初から、返済に行き詰まったときのことが考慮されているのです。
競売というのはローンの借り手が借入金を返済できなくなったとき、債権者が抵当権を設定されている担保物件を差押えて、強制的に売却することにより債権を回収する仕組みをいいます。もちろん抵当権を設定しているとはいえ、他人の住まいを勝手に売却することはできません。競売を実行するに当たっては、まず債権者である保証会社が裁判所に申し立てる必要があります。
借り手にとっては自宅を強制的に売却されてしまう手続きの始まりが「競売の申し立て」なのです。
住宅ローンで設定される「抵当権」とは?
住宅ローンなどの借金をするときには「担保」を設定します。これは借金の返済ができなくなったときに貸し主が担保となった財産を取り上げて処分し、貸金を回収できるという権利を契約の中に盛り込むもので、この権利を抵当権と呼びます。
住宅ローンの場合には購入した住まいにこの抵当権が設定され、そのことを公的に示す「抵当権設定登記」が行われます。
「差押え」は債権者である保証会社の権利を守る手続き
競売の申し立てが行われたら、裁判所はその財産についてすみやかに差押え登記を行い、登記簿にその旨を記載します。借り手には裁判所から差押通知書が届くため、手続きがなされたと知ることができます。
差押えは債権者である保証会社の権利を守るための手続きです。差押え登記がなされた財産は、自分のものであっても売却したり譲渡したりできなくなります。そのため、「高値で買ってくれる人が見つかった!」という場合にも、所有者の判断だけでは売却できません。
抵当権を設定した物件を勝手に処分されてしまうと、保証会社は競売の売却代金によって代位弁済した分の返済を受けられなくなる可能性があります。そのため競売の申し立てと同時に自宅の差押えが行われるのです。
競売の開始を知らせる「競売開始決定通知書」
保証会社が裁判所に提出した「競売の申し立て」が受理され、競売が実際に開始されることを知らせるのがこの「競売開始決定通知書」です。正式には「担保不動産競売開始決定通知書」と呼ばれ、競売を取り扱う地方裁判所の民事部から送られてきます。
なお、入札期間や入札の結果を明らかにする開札期日や売却を決定する期日などは、次に届く「期間入札通知書」に記載されています。この「期間入札通知書」は、入札のだいたい1カ月から1.5カ月前に送られてきます。
不動産鑑定士の査定と執行官の調査で売却価額が決定
入札を開始する前には裁判所から執行官が派遣され、競売にかけられる物件の調査が行われます。執行官と不動産鑑定士は、それぞれの立場から物件の評価を行うための現況を確認します。
執行官が調査するのは「現在誰が住んでいるのか」「建物に不具合はないか」「土地の大きさや形状などに登記簿の記載内容との差異がないか」などの項目です。物件の写真撮影なども行い、同居する家族がいる場合には家族への聞き取り調査も実施します。
執行官の現況確認は法律に基づいて行われるため、「家に入らせない」など拒否することはできません。裁判所は不動産鑑定士の査定と執行官の調査を合わせて物件の売却基準価額を定めます。競売にかけられる不動産は一般に売却が難しいため、市場価格より低く見積もられます。
情報は入札開始の2週間前までに裁判所等に掲示される
執行官による現況調査などの下準備が終わると、いよいよ競売の日程が定められます。予定された入札の開始日と終了日、さらに開札日が決められ、「競売の期間入札通知書」に記載されて物件の保有者であるローンの借り手に届けられます。
入札期間は1週間以上、1カ月以内と定められており、入札開始の2週間前までに競売が行われる物件の情報が「公告」として裁判所等に掲示されます。「公告」には対象となる不動産の情報の他、入札期間、売却基準価額、入札に際して必要な保証金に関する情報などが記載されています。