仮想通貨の下落が止まらない。ビットコイン価格はついに50万円を割れた。しかし、海外では着々と仮想通貨への投資環境が整いつつある…。 国際税務のスペシャリストである柳澤賢仁氏による仮想通貨対談企画第3弾はロシア生まれで日本語、英語も堪能なトリリンガル・クリプトウォッチャー「ロシアンOLちゃん」が登場。第3回のテーマは、「日本でブロックチェーン企業が育たない理由」。

日本国内はブロックチェーン関連企業が育たない環境

柳澤 では、海外から見た日本のクリプト系プロジェクトの評価はいかがでしょう?

 

ロシアンOLちゃん(以下ロシアン) 正直に言いますと、テックビューロさんの「COMSA」プロジェクト以降あまりウォッチしていないです・・・。

 

柳澤 ‘17年はブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディアを運営するALISが4億円3000万円調達して、「zaif」を運営するテックビューロが“ICOプラットフォーム”としてCOMSAプロジェクトを立ち上げて、ICOで100億円を調達。そのあとに同じく仮想通貨取引所を運営されているQUOINEが124億円ほど集めました。この3つのプロジェクトはそれなりに進展が見られましたが、そのあとに続く目ぼしいプロジェクトがない・・・。話題を集めたSPINDLEもICOで200億円集めたようですけど、ERC20でエラー発生するトラブルなどを起こして、トークンの価値は海外の取引所に上場した後、20分の1に暴落してしまいました。

 

ロシアン 金融庁がICOに対してネガティブなので、きちんとしたプロジェクトが育たないという一面もありそうです。

 

柳澤 厳密にいえば、ICOを禁止しているわけではなく、仮想通貨交換業の登録業者を介してトークンの販売を行わなければならない、というのが金融庁の方針です。ところがコインチェック事件以降、仮想通貨交換業者への締め付けは厳しくなる一方で、とてもじゃないけど国内取引所がICOを引き受けられる状態じゃない。仮にICOを引き受けたとしても、国内の仮想通貨交換業者の大半は海外に事業所を持っていないので、国内でしか資金調達ができない。結局、自ら海外に進出して海外で資金調達しようというプロジェクトが増えて、日本国内ではブロックチェーン関連企業が育たないという悪循環が発生している。

外から専門家を招かず国内だけで議論するところが問題

ロシアン ネガティブなことを言うつもりはまったくないんですけど、外国人である私から見て、日本政府の対応は非常に残念です。ロシアでは2012年からAirbnb(民泊仲介サービス)が浸透し始めて、今では17都市以上で利用できます。Uber(配車サービス)も2013年頃からロシアでサービスを展開しています。でも、日本だとUberは浸透しておらず(配車可能なのはハイヤーのみ)、Airbnbは自治体から営業許可を取得しなければならなくなって登録物件数が一気に減少しました。このようなイノベーターが無暗やたらに厳しく扱われては、新しい産業が大きくなりません。

 

柳澤 仮想通貨に関しては昨年、世界に先駆けて資金決済法を改正したり、「消費税非課税」を実現したんですけどね・・・。

 

ロシアン その取り組みは海外でもバズったんです。先進的な取り組みだ、と。その影響で日本に進出するクリプト系企業も増えました。

 

柳澤 消費税がかからないわけですから、トークンの販売にあたるICOにはうってつけです。今はシンガポールに会社をつくってICOを行う企業が増えていますが、シンガポールでも7%の消費税がかかります。だから、日本の消費税非課税化は画期的だったんですけど・・・ロシアンOLちゃんさんは日本のどこに問題があると思いますか?

 

ロシアン 海外から専門家を招こうとせず、自分の国の中だけで議論しているところに問題があるのかな、と思っています。私は皆さんと違って、ほとんどクリプトで利益が出ていませんけど、それでも今年初めて確定申告をして利益に対して所得税と住民税合わせて20%の税金がかかりました。でも、高い人だと55%(所得税45%+住民税10%)になりますよね? これでは、仮想通貨で利益を出した人はどんどん海外に移住してしまうでしょう。規制も一緒です。日本国内は厳しくてICOできないから、海外法人をつくって海外でICOを行う企業が増えています。海外の税制や法規制と比較して、どうすればブロックチェーン関連企業が育ちやすくなるのか?とグローバルな視点で議論できる人がもっと必要だと思います。

 

柳澤 政府にガンガン言ってやってくださいよ。日本人が言ったところで、霞が関の人たちには響かないので。

 

ロシアン でも、ロシアも偉そうなことを言える立場にはなくて・・・。結局、ベラルーシなどの隣の国の“実証実験”をウォッチしている状況で、クリプト関連の法規制はまだ定まっていません。ただ、海外の事例を研究することは非常に重要だと思うんです。

 

柳澤 日本の肩を持つわけではないけど、そこには言語の壁があるかもしれない。

 

ロシアン それは大いにあると思います。グローバルビジネスの経験が乏しいので、グローバルなチームの編成が苦手なのかなと。さらに、ロビー活動に対して日本ではあまりいいイメージがありませんよね? 法律ができる前の段階でビジネスを作り、ロビー活動で利害の一致する政治家を味方につけて規制と戦うこともイノベーションのためには必要だと思います。実際、アメリカや欧州のベンチャー企業にはロビー活動のプロフェッショナルがいます。海外から見て日本はハイテク、最先端技術の国というイメージが強く、外国人は日本に期待しているので、ぜひ政治力のあるブロックチェーン企業が出てきて業界を引っ張っていってほしいです。

 

 

ロシアンOLちゃん

 

クリプトウォッチャー@crypto_russia

 

ロシア・ウラジオストク出身。14歳のときに国際交流プログラムで来日し、富山県で1週間過ごしたことをきっかけに日本語の勉強を開始。極東連邦大学日本語学部に進学した後も日本に留学。卒業後は日本の商社に就職。投資会社を経て、今年ブロックチェーンプロジェクトのコンサルティング業務を手掛けるベンチャー企業に転職。仮想通貨との出会いは’16年。’17年から少額で投資も開始。同時に、堪能な語学力を生かして、ロシアや欧州の情報をツイッターで配信し始めることに。現在は『BTC News』『Coin Choice』『FISCO』などで記事を執筆中。自身で「ロシアの仮想通貨情報をひたすら翻訳するブログ」(https://cryptorussian.blogspot.com/)も運営。

 

 

柳澤賢仁

 

柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士

 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある。

 

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