2019年でビットコインが誕生してちょうど10年。仮想通貨とそれを支えるブロックチェーン技術は今後、世界をどのように変えていくのか? 仮想通貨を取り巻く法務と税務の変化から、未来について大論争! 仮想通貨に関する税務のエキスパートである柳澤賢仁税理士の仮想通貨対談企画第4弾は、日本人弁護士には珍しく、多数のICOプロジェクトでリーガルアドバイザーを務めてきたシンガポール在住の森和孝弁護士が登場。第5回のテーマは、「ICO市場の厳しい現状」。

仮想通貨関連のビジネス環境が整いつつあるアジア

柳澤 それだけ多くの案件に携わってきた森先生は、今後のICO市場をどのように見ていますか?

 

 あくまで私の専門は法務なので、市場がどう拡大していくかは分析できる立場にありません。ただ、アジアの仮想通貨規制をウォッチしていると、ビジネス環境は整いつつあるように感じています[図表1]。

 

[図表1]東南アジアの仮想通貨交換業規制一覧 出所:One Asia Lawyers
[図表1]東南アジアの仮想通貨交換業規制一覧
出所:One Asia Lawyers

 

フィリピンでは2017年にASEAN諸国で先陣を切ってフィリピン中央銀行(BSP)が仮想通貨に関するガイドラインを策定し、交換業の登録制度を創設しました。そのフィリピンに次いで2番目に仮想通貨交換業のライセンス制を導入したのがタイ。世界でいち早くICOにもライセンス制を導入しましたのもタイでした[図表2]。同じくラオスにも2018年6月にライセンス制度が導入されたと報道されました。さらに、マレーシアでも、今年になってライセンス制度導入が決定されました。

 

[図表2]東南アジア諸国のICO規制一覧 出所:One Asia Lawyers
[図表2]東南アジア諸国のICO規制一覧
出所:One Asia Lawyers

 

柳澤 ただ、直近のICO市場は尻すぼみですね。

 

「ETHが1年で10分の1以下に値下がりしたので、ICO市場の縮小も仕方がないのかなと」(森)

 

 とある統計では、2017年3月には月間のICO件数が500件を超えていましたが、今は300件を切っています[図表3]。

 

[図表1]ICO開始件数の推移 出所:ONE ASIA LAWYERS
[図表3]ICO開始件数の推移
出所:ONE ASIA LAWYERS

 

それ以上に深刻なのが調達額の減り方。2018年1~2月の平均調達額は10億円近くありましたが、9月には3億円にまで落ち込みました[図表4]。

 

[図表2]ICOによる平均調達金額の推移 出所:One Asia Lawyers
[図表4]ICOによる平均調達金額の推移
出所:One Asia Lawyers

 

すべてのICOプロジェクトの総調達額も2018年前半は月に1800億円を超えるときもありましたが、直近では600億円を大きく割り込んでいます[図表5]。ICOの際にはETHで資金調達をするケースが多いのはご存知のとおりですが、そのETHが1年で10分の1以下に値下がりしたので、ICO市場の縮小も仕方がないのかなと。

 

[図表3]ICOによる合計調達金額の推移 出所:One Asia Lawyers
[図表5]ICOによる合計調達金額の推移
出所:One Asia Lawyers

 

柳澤 それでも、ICOをやりたいという企業はまだまだありますか?

 

 ICOに期待を持っている企業は多いですね。もちろん、「今は頑張っても2~3億円しか集まらないケースも多いんですよ」と、厳しい現状は必ずお伝えしていますが。

 

柳澤 だから、矛盾した現象が起きているように感じます。仮にシンガポールでICOを行うには、レギュレーションに則ってしっかり準備しなくてはなりません。けど、丁寧に準備すればするほど、BTCやETHが値下がりして地合いが悪くなり、時機を逸してしまう。それに対して、スキャム(詐欺)コインまがいの、とにかくお金を手っ取り早く集めたいというプロジェクトは、レギュレーションを無視して、LINEなどのSNSを通じてどんどん日本人に売りまくっている。さっさとお金を集めたら、海外のマイナーな取引所にお金を積んで上場させて、「プロジェクトは順調に進んでいますよ」とアピールして、創業メンバーはさっさと売り抜けてどっかに行ってしまうというのがパターンです。やってはいけないことをやるほどうまくいってしまうという、なんとも言いようのない現象が起きてしまっていますよね。

 

まじめにICOをやろうという人が損をして、レギュレーションを無視したグレーな人たちが得をしているのがICOの現状かなと感じます。

ICOに関わる弁護士は、儲かる反面リスクも高い

 その点、ICOで一番儲かっているのは弁護士という話もありますね(苦笑)。アメリカの調査会社がレポートで、発表していました。ゴールドラッシュ時代と一緒です。実際に金を掘る人よりも、その人たちをターゲットにしたスコップ屋やジーパンを売っていた人たちが儲かった。

 

柳澤 なるほど。発行体側で一番美しいのはビットコインやモナーコイン(MONA)など、発行体が不明のスキームじゃないかと思います。これなら弁護士や税理士の仕事がない。規制で縛ることもできないし、プレマイニングもしないというものすごい正々堂々としたやり方ですよね。

 

「弁護士がどれだけ厳しくリーガルチェックをしても、プロジェクトの運営者が一線を踏み越えてしまうことも少なくないように思います」(森)

 おっしゃるとおりかもしれません。結局、弁護士がどれだけ厳しくリーガルチェックをしても、プロジェクトの運営者が一線を踏み越えてしまうことも少なくないように思います。今の日本のレギュレーション的には、「ホワイトペーパー(目論見書)には日本人は買えませんと書いてください」、「日本のIPアドレスからICOプロジェクトのホームページにアクセスがあったらブロックしてください」、「日本語のホワイペーパーは出さないでください」ということなんですが、例えば、外部のブロガーに依頼してホワイトペーパーの和訳や紹介記事を書いてもらうというようなことも起こりうるわけです。

 

柳澤 いわゆる「潜脱」ですね。

 

 だから、クリプトに携わるのは弁護士にとってリスクが高いんですよ。顧問弁護士としてICOプロジェクトのメンバーに名前を連ねることもあるじゃないですか? 弁護士の名前をいいように使われてしまうリスクがあるわけです。ICOプロジェクトに携わっても、関わり具合には寄りますが、リーガルチームの報酬は数百万円といったレベルのことも多いですから、リスクとリターンが合わないケースは多々あるでしょう。

 

 

 

森和孝 弁護士/ICOリーガルアドバイザー

 

One Asia Lawyersパートナー弁護士/Head Fintech&ICOチーム@シンガポール

 

2010年に弁護士登録。大阪のブティック系法律事務所に勤務し、スタートアップ支援や国際法務に従事。2017年に英国を本拠地とする大手グローバルファームのエバーシェッドのシンガポールオフィスへ移籍し、ジャパンデスク責任者に。2018年にアジア10か国にオフィスを構えるOne Asia Lawyersに転職。シンガポールや周辺国において、仮想通貨取引所の設立やICOプロジェクトの国際法務を担当。日本人弁護士としては、最も多くのICOに携わる弁護士として知られる。

 

 

柳澤賢仁 国際税理士

 

柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士

 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある

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