現地在住日本人弁護士に聞く…シンガポールでのICOが多い理由

2019年でビットコインが誕生してちょうど10年。仮想通貨とそれを支えるブロックチェーン技術は今後、世界をどのように変えていくのか? 仮想通貨を取り巻く法務と税務の変化から、未来について大論争! 仮想通貨に関する税務のエキスパートである柳澤賢仁税理士の仮想通貨対談企画第4弾は、日本人弁護士には珍しく、多数のICOプロジェクトでリーガルアドバイザーを務めてきたシンガポール在住の森和孝弁護士が登場。第6回のテーマは、「シンガポールでのICOが多い理由」。

シンガポールでICOを行うメリットは法解釈の安定性

柳澤 統計によると2017年に最もICOを実施した国がスイスで、シンガポールが2番目なんですね。森先生は、シンガポールでICOをするメリットはどこにあると思いますか?

 

 シンガポールのレギュレーションがきっちり決まっているというのは理由の1つかもしれません。

 

柳澤 確かに、ほかの国ですと当局の対応がコロコロ変わりがちですが、シンガポールは金融庁がガイドラインを出してくれて、ノーアクションレター(法令解釈に関わる照会手続き)として機能する。一回言ったことは覆らない印象はあります。

 

 シンガポール金融庁(MAS)にメールしたら1週間ぐらいで当局から返信がもらえるんですよ。電話の応対も丁寧。このへんの対応のよさも魅力的ですね。あとは、地理的なメリットもあると思います。シンガポールなら日本から近いし、現地法人をつくって担当者を派遣しやすい。

 

柳澤 人件費も家賃もめちゃくちゃ高いけど、それは香港でも一緒ですからね。ただ、香港は当局が出したガイドラインがひっくり返る可能性が十分にあります。そこが、リスクかなと。

 

 コスト面で言うと、マレーシアは本来ICOの際にかかる消費税が発生しませんから、今後ICOが増えていく可能性はあると見ています。ただ、政権が変わった途端に政策や方針がひっくり返るというリスクはあります。実はシンガポールも徐々にビザの発給要件が厳しくなっているんですけど、急激な方針転換はないんです。必ず事前に政策案を発表して、意見公募を実施して、コンサルテーションを経て、ガイドラインないし法律化を進める。不都合があったら変更するので意見をください、という姿勢なんです。

 

柳澤 私はマレーシアの消費税も香港に似たリスクがありそうかなと思っていたりもします。

日本にも「クリプト特区」ができれば変わってくる

柳澤 では、日本から世界に通用するICOプロジェクトが生まれていない現状については、どう思いますか?

 

 日本のプロジェクト関係者は専門家を頼りすぎる傾向にあります。その点が問題かなと感じています。中国ほか海外のプロジェクト関係者は経営者がどんどん世界を回って、自分の言葉でプロジェクトの詳細をプレゼンして回るのに、日本人はICOコンサルタント任せ、というケースが少なくありません。これでは、“熱”が伝わらない。だから、投資をしたいという人が増えにくいし、注目も浴びない。

 

柳澤 英語が苦手という日本人経営者は多いですからね・・・。加えて、日本の金融庁が国内でのICOを規制しているので、シンガポール法人を通じてとはいえ、経営者が先頭に立って営業して回るのが憚れるのかもしれませんね。

 

 その点は、シンガポールサイドとしては、ありがたいと言えばそうなんですが、ただ、日本でICO市場が成長しないという点では残念です。これまでの金融庁の規制のかけ方が、ちぐはぐだったかなと。

 

コインチェック事件が起きたから規制が強化されましたが、それ以前にも2014年にマウントゴックス事件が起きているじゃないですか? にもかかわらず、その後も取引所に対して分別管理を求めることもなかった。これでは、コインチェック事件も起きてしまいますよね・・・。世界に先駆けて改正資金決済法を施行して仮想通貨取引を合法と認めたのに、コインチェック事件を引き起こしてイメージ悪化を招き、規制を強化して市場をシュリンクさせてしまった。
 

 

柳澤 そうなると、かなり日本のクリプト市場については悲観的ですか?

 

 『デジタルゴールド』(日経新聞社/ナサニエル・ポッパー著)を読まれました? 僕はあの本を読んで、もの凄く興奮しました。編集や構成がうまいというのもありますが、仮想通貨が世の中を変える、と本気で感じさせられました。ただ、現状は株式上場や銀行融資の代わりとしてICOが注目されているにすぎません。もっとICOやSTOにふさわしいプロジェクトがあると思うんです。それは、みんなが利益を得るけど、事業そのものは対した収益をもたらさず、投資家が見向きもしないプロジェクトかもしれない。ビットコインはその典型だったのかもしれません。

 

つまり、銀行をはじめとした既得権益を侵害するけど、(技術的な問題がまだ残っているが)皆の送金コストが下がって皆が得をする。他にも例えば、法人登記をブロックチェーン上で管理するプロジェクトが実現して、自動的に登記が発行されるようになったら司法書士も法務局もいらなくなるけど、そのほかの多くの人は平等に得をします。既存の事業者が投資したがらないけど公益性はある。だから小口資金が世界中から集められる。そういうプロジェクトがICOやSTOにはうってつけだと思います。

 

 

柳澤 森先生はスタートアップ企業が起こすイノベーションにワクワクしてしまう弁護士なんですね(笑)。僕も一緒です。もの凄いわかります。

 

 ビットコインを超えるブロックチェーンのイノベーションが日本から生まれてほしいという気持ちがあります。

 

柳澤 どうしたら日本のクリプト市場は盛り上がりますかね?

 

 特区をつくったらいいんじゃないでしょうか。クリプト特区。現行法には抵触するかもしれないけど成長性はあるプロジェクトについて、国が期間限定で許可を与える。シンガポールやマレーシアなどが導入している“レギュレーション・サンドボックス”です。実際、サンドボックス制度の導入を日本も検討中と聞いています。

 

柳澤 なるほど。日本でも沖縄に経済特区がありますがあまり知られていないですね。サンドボックスも動き始めています。ぜひ、そこから世界に通用するプロジェクトが生まれてほしい。個人的にはエンジニア発のプロジェクトを応援したいですね。もの凄い技術はあるんだけど、お金集めは下手な人。そういうプロジェクトにこそ、クリプトはうってつけだと思います。

 

 

 

 

森和孝 弁護士/ICOリーガルアドバイザー

 

One Asia Lawyersパートナー弁護士/Head Fintech&ICOチーム@シンガポール

 

2010年に弁護士登録。大阪のブティック系法律事務所に勤務し、スタートアップ支援や国際法務に従事。2017年に英国を本拠地とする大手グローバルファームのエバーシェッドのシンガポールオフィスへ移籍し、ジャパンデスク責任者に。2018年にアジア10か国にオフィスを構えるOne Asia Lawyersに転職。シンガポールや周辺国において、仮想通貨取引所の設立やICOプロジェクトの国際法務を担当。日本人弁護士としては、最も多くのICOに携わる弁護士として知られる。

 

 

柳澤賢仁 国際税理士

 

柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士

 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある

柳澤国際税務会計事務所 代表
株式会社柳澤総合研究所 代表
税理士 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、アーサー・アンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て、2004年に独立。「大きくなったあのベンチャー企業も最初はフリーランスに近かった」「フリーランスのひとの中に明日のスーパースターがいるはず」と、日々、起業家やスタートアップ、ベンチャー企業、ビジネスモデルを研究し、積極的に情報発信を行っている。

独立後に支援したスタートアップのなかから2社のIPO(株式公開)が実現(2016年)し、現在も起業家の海外進出支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&Aなど幅広い分野で支援を行う。

ベンチャー三田会発起人。第30回(平成19年度)「日税研究賞」(税理士の部)を史上最年少(当時30歳)で受賞。主な著書に『お金持ち入門』(共著))、『資金繰らない経営』などがある。

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著者紹介

連載仮想通貨×国際税務のプロフェッショナル/税理士・柳澤賢仁の「Crypto Currency」対談

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