シンガポールの銀行が「クリプト事業者」を敬遠する理由とは?

2019年でビットコインが誕生してちょうど10年。仮想通貨とそれを支えるブロックチェーン技術は今後、世界をどのように変えていくのか? 仮想通貨を取り巻く法務と税務の変化から、未来について大論争! 仮想通貨に関する税務のエキスパートである柳澤賢仁税理士の仮想通貨対談企画第4弾は、日本人弁護士には珍しく、多数のICOプロジェクトでリーガルアドバイザーを務めてきたシンガポール在住の森和孝弁護士が登場。第2回のテーマは、「シンガポールの銀行がクリプト事業者を敬遠する理由」。

シンガポールでは、法定通貨とクリプトの交換が困難

柳澤 シンガポールで仕事をされている森先生には、ぜひシンガポールの事情について詳しくお聞きしたいです。というのも、シンガポールでも金融当局のクリプトに対する規制がきつくなっているように感じています。

 

「セキュリティトークンを扱うのは困難な状況ですね」(森)
「セキュリティトークンを扱うのは困難な状況ですね」(森)

 実は、去年までは、シンガポールには日本のように仮想通貨取引を規制する資金決済法に当たる法律がなく、交換業に関するライセンス制度もありませんでした。ただ、セキュリティトークン(株・債券などの有価証券に類するトークン)を扱う場合には、シンガポール金融庁のAE(Approved Exchange)またはRMO(Recognized Market Operators)というライセンスの取得が要求されます。これらのライセンス取得のハードルが非常に高いため、特にベンチャー企業等にとっては、取引所としてセキュリティトークンを扱うのは現実的には困難な状況ですね。

 

柳澤 配当収入のようなリターンが発生せず、取引所でしか換金できないユーティリティトークン(特定のサービスにアクセスするためのトークン)なら扱えるのですか?

 

 現時点では、答えは「Yes」です。しかし、さっき話した新しい法律が今年の1月15日に成立しました。この新法では、上記のRMOのライセンスを3つの層に分け、柔軟な規制を実現すると同時に、これまでの規制ではカバーできなくなっていた仮想通貨ビジネス等を規制対象としました。具体的には、デジタル決済トークンサービス(digital payment token service)を提供する事業者に対してライセンスの取得を義務付けました。この「Digital Payment Token」の意義については、仮想通貨全般を指すものではなく、仮想通貨の性質が、商品、サービス又は債務の支払いの媒体として少なくとも公衆の一部に受け入れられているものに限るという限定が加えられています。ですので、ユーティリティトークンのうちこのような決済機能があるトークンについては、この夏か秋ごろ以降には、ライセンスがないと取り扱うことはできなくなります。

 

柳澤 シンガポールは、フィアット(法定通貨)をクリプトに交換できる取引所がありませんよね? Yコンビネーター出身でシンガポール人の女性起業家がつくった、おそらく日本でいう“販売所”にあたる事業者でフィアット対クリプトの取引ができるようですけど、そのほかの取引所はすべてクリプト対クリプトの取引のみ。これでは、取引が活発にならないように感じます。

 

 実際には、法定通貨でクリプトを取引してはならないという規制はありません。ただ、銀行がまず、クリプト事業者の口座開設を認めないんですよ。

金融庁と銀行でクリプトに対する姿勢がバラバラ

柳澤 ぶっちゃけシンガポールの金融機関はクリプトを嫌ってますよね?

 

 クリプトは銀行が担ってきた送金サービスの領域を侵しかねないので、仕方ありません。でも、銀行がクリプトを排除している最大の理由はアンチマネーロンダリング(AML)です。シンガポールは非常にマネロン対策に力を入れているので、KYC(Know Your Customer=本人確認)に際して、氏名、通称、識別番号、住所、生年月日、国籍の取得は最低限要求されます。顔写真まで取得することが推奨されていて、住所については公共料金の請求書などの最新の住所が確認できる資料の提出を求められることが大半です。

 

口座開設の際には資金源の申告を求められるし、利用者のスクリーニングも徹底しています。取引関係の継続的なモニタリングと疑わしい取引をシンガポール政府商務部に報告する義務が課せられているため、金融機関はもの凄いコストをAMLにかけているんです。だから、個人情報と紐づけられずに取引されることが多く、マネロンに利用されるケースも多いクリプトを扱う事業者は、なかなか口座を開くことができない。

 

「マネロンに利用されるケースも多いクリプトを扱う事業者は、まず口座を開くことができない」(森)
「マネロンに利用されるケースも多いクリプトを扱う事業者は、まず口座を開くことができない」(森)

 

柳澤 シンガポールの銀行は日本と異なり、取引手数料や振込手数料がかかりませんよね。かかるのは口座維持手数料ぐらい。おそらく、クリプトを受け入れたら、マネロン対策のコストが跳ね上がるはず。クリプトにフレンドリーと言われるマルタやルクセンブルク、スイスでは、銀行から年間200万円ものAML手数料が請求されると聞きました。

 

 シンガポールが面白いのは、金融庁は「クリプト=怪しい業者」とみなさず、事業内容を見て、適切な事業者の口座開設は認めるように、とアナウンスしている点ですね。ただ、銀行のバックエンドのコストの相当な割合をマネロン対策が占めてしまっているため、銀行は頑なにクリプト系の口座開設を認めていない。金融庁と銀行の姿勢がバラバラなんです。

 

 

 

森和孝 弁護士/ICOリーガルアドバイザー

 

One Asia Lawyersパートナー弁護士/Head Fintech&ICOチーム@シンガポール

 

2010年に弁護士登録。大阪のブティック系法律事務所に勤務し、スタートアップ支援や国際法務に従事。2017年に英国を本拠地とする大手グローバルファームのエバーシェッドのシンガポールオフィスへ移籍し、ジャパンデスク責任者に。2018年にアジア10か国にオフィスを構えるOne Asia Lawyersに転職。シンガポールや周辺国において、仮想通貨取引所の設立やICOプロジェクトの国際法務を担当。日本人弁護士としては、最も多くのICOに携わる弁護士として知られる。

 

 

柳澤賢仁 国際税理士

 

柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士

 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある

柳澤国際税務会計事務所 代表
株式会社柳澤総合研究所 代表
税理士 

慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、アーサー・アンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て、2004年に独立。「大きくなったあのベンチャー企業も最初はフリーランスに近かった」「フリーランスのひとの中に明日のスーパースターがいるはず」と、日々、起業家やスタートアップ、ベンチャー企業、ビジネスモデルを研究し、積極的に情報発信を行っている。

独立後に支援したスタートアップのなかから2社のIPO(株式公開)が実現(2016年)し、現在も起業家の海外進出支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&Aなど幅広い分野で支援を行う。

ベンチャー三田会発起人。第30回(平成19年度)「日税研究賞」(税理士の部)を史上最年少(当時30歳)で受賞。主な著書に『お金持ち入門』(共著))、『資金繰らない経営』などがある。

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著者紹介

連載仮想通貨×国際税務のプロフェッショナル/税理士・柳澤賢仁の「Crypto Currency」対談

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