今回は、世代間の価値観の違いが原因となるコミュニケーション不全について見ていきます。※若手社員、シニア人材のマネジメントに頭を痛めている管理職は少なくありません。しかし、「縦のダイバーシティ」、つまりジェネレーションギャップに着目することで、問題解決の糸口を探すことは可能です。本連載では、世代に特徴的な考え方や行動の傾向を把握した、効果的なアプローチの方法を伝授します。

自分が育てられたように接しても、若手は成長しない

このように20代の若手社員にも60代のシニア社員にも、30~50代社員とは異なる、それぞれの働く事情があります。ところが、往々にして30~50代社員からなるマネージャー(管理職)が、それぞれの社員の事情を考慮できないことがあります。

 

たとえば、次のようなケースがあった場合、あなたはどう対応するでしょうか。

 

あなたの部下のAさん(男性)は、入社2年目の21歳で、ようやく仕事に慣れてきたところです。あなたは、入社25年目のBさん(男性)をAさんの指導役として任命し、日常業務についてはBさんがAさんを指導することになりました。

 

本来は、Aさんに近い年齢の人に指導役を担当してもらいたいところなのですが、たまたまその年齢層の部下がおらず、年は離れているものの部署内では最も年齢の近いBさんを指導役としたのです。

 

40代のBさんは、20代の頃に先輩や上司の背中を見て仕事の仕方を学んできました。分からないことは自分から質問してメモを取り、どうやったらうまくできるかを自分なりに考えながら仕事をしてきたのです。その姿勢でBさんはここまで成長できたと考えており、Aさんにも同じように育ってほしいと期待していました。

 

Bさんは「私の仕事の仕方をしっかりと見て学ぶんだよ。分からないことがあったらいつでも訊くように」とAさんに言っていました。ところが、Aさんはあまり質問もしませんし、思うように成長しません。

 

あなたはBさんに訊ねました。「Aさんの調子はどうだい?」すると、Bさんは答えました。「最近の若い奴は駄目ですね。質問してと言っているのに、全然質問してこない。一緒に仕事をして、どうやったらうまくいくかを見せているのに、全然真似もしない。あれじゃあ、成長しませんよ」

 

さて、あなたはどうしたらよいでしょうか。

双方の「価値観・常識の違い」が問題を生む

対応策はいろいろ考えられると思いますが、ここでのいちばんの問題は、指導役である40代のBさんが、20代のAさんのことをまったく理解していないことです。

 

確かに、Bさんの常識からいえば、質問もしない、真似もしない、その結果、まったく成長しないAさんは「駄目なやつ」かもしれません。しかし、Aさんが成長しない責任の一端は、指導役であるBさんにもあるのです。Bさんの指導方法が悪いから、Aさんが成長しないともいえるでしょう。

 

Bさんにとって、仕事を覚えるというのは「分からないことを自分から積極的に質問する」、「先輩のやっていることを真似する」ことでした。20年前は、そのような態度が良しとされていたからです。

 

しかし、20代のAさんにとっては事情が違います。Aさんにとって「分からないことがあれば、まずは自分で調べる」ものです。現在はインターネットの情報も充実し、スマホがあれば疑問はすぐに検索して調べることができます。20年前はスマホもなく、インターネットの情報も少なかったので、Bさんのように人に訊くほうが早かったのですが、Aさんにとっては人に訊くよりもネットのほうが、よほど正確な情報をすばやく教えてくれるものなのです。

 

また、Aさんにとって、自分で調べる前に「人に訊く」ことは、あまりいいことではありません。なぜならば、それは他人の時間を不必要に奪うことだからです。Aさんにとって人に訊くことは、調べられることは自分で調べて、それでもどうしても分からなかった場合の最後の選択肢として出てくるものです。そうしなければ「人に訊く前にグーグルを使って自分で調べろ」と叱責されてしまうからです。

 

私はその是非を問うているわけではありません。Bさんにしてみれば「仕事のことは上司・先輩に訊くものだ」と考えているのですが、Aさんにとっては「人に訊くのは相手に迷惑だし、時間もかかるからネットで調べよう」なのです。その価値観の相違があることを、まず理解してほしいと思います。そうでなければ、お互いになぜ相手がそのような行動をしているのかが分からず、喧嘩になってしまうからです。

 

さらに、Bさんにとって「仕事は真似をする」ものですが、Aさんにとっては「真似はよくないこと」です。Aさんにとって大切なのは、自分のオリジナリティやクリエイティビティで、どんなに良いものでも他人の真似をしていたら良い仕事とは感じられません。Bさんにとっては「最初は真似をしなければ、オリジナリティなんて出てこない」ものですが、Aさんにとってはそうではないのです。

 

どちらが正しいかということであれば、私はBさんのほうが正しいと思います。個別具体的な仕事の話は、ネットで情報収集するよりも同じ社内の人に訊くほうが短時間で正解が見つかりますし、時間の限られている仕事においては、社内の人の真似をしてでもすばやく仕事を終わらせるのが正しい作法です。そのため、BさんはAさんにそのように説明をするべきなのですが、「Aさんが何を分からないのか、Bさんには分からない」ために断絶が生まれているのです。

 

このように、誰もが「自分の考えが普通、常識、一般的」だと勘違いしています。しかし、実際のところ、人の考え方は、その人が育ってきた時代背景や教育に大きく影響されているのです。

 

 

西村 直哉

株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長
人材育成・組織行動調査のコンサルタント

 

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

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西村 直哉,江波戸 赳夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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