今回は、人の認知機能の傾向から仮説を立て、「ゆとり世代」の特徴を活かす方法を考察します。※若手社員、シニア人材のマネジメントに頭を痛めている管理職は少なくありません。しかし、「縦のダイバーシティ」、つまりジェネレーションギャップに着目することで、問題解決の糸口を探すことは可能です。本連載では、世代に特徴的な考え方や行動の傾向を把握した、効果的なアプローチの方法を伝授します。

管理職世代はシステム優位型、若者世代は共感優位型

私たち人間の脳の認知機能には、物事をルールと論理で理解するシステム優位と、相手の表情などから感情を読んで対応する共感優位と、受け止め方に二つの傾向があるそうです。

 

システム優位は物事を論理的に判断して解決策を導く機能で、共感優位は解決策というよりも、その場の空気を読んで対応を調整する機能です。

 

一般に男性はシステムが強く、女性は共感が強いといわれていますが、どちらか片方しかないという人は存在せず、すべての人に多かれ少なかれ両方の機能が備わっています。

 

そして、ここから先はあくまでも私の仮説ですが、若い人になればなるほど共感に優れているような気がします。その背景には、ゆとり教育で協働作業に勤(いそ)しんだことや、競争する必要があまりなくなったこと、SNSなどで共感する心が磨かれたなど、さまざまな理由が考えられます。

 

ゆとり世代の素直さ、優しさ、場の空気を大切にする傾向は、旧世代からは、元気のなさ、意欲のなさ、波風を立てず事なかれ主義に見えることもあります。

 

特に世の中の割を食ったと思っている団塊ジュニア世代はやきもきするかもしれません。数の多い団塊ジュニア世代はそれなりに競争を強いられてきていますし、その競争の勝者がゆとり世代の管理職になっているので、余計に大人しいゆとり世代に物足りなさを感じるのです。

 

しかし、場の空気を乱さず、調和のとれた協働ができるゆとり世代は、会社組織において得がたい存在にもなり得ます。組織内ではチーム行動が多く、競争よりも協働が大切になることが多いからです。

 

一方で、社員の能力の開発をするためには競争が必要だと考える管理職は少なくありません。彼らはゆとり世代の競争意識を煽(あお)ってやる気を出させたいのですが、現在のところ、あまりうまく機能していません。

 

ゆとり世代にとって、競争で勝つことは嫉妬されて叩かれることであり、競争で負けることは恥ずかしいことであり、どちらにしても競争に参加するメリットが少ないからです。

「共感優位」の若者が仕事に求めるものとは…

では、彼らは協働を通して何を得たいと思っているのでしょうか。

 

システム優位にとってコミュニケーションとは、新たな情報を得ることで自分の考えを深化させて、さらなる論理を組み立てる材料とすることですが、共感優位にとってコミュニケーションとは、お互いの感情を慰撫(いぶ)するツールです。彼らにとって最も大切なのは自分自身の感情であり、周囲から必要とされたり褒められたりすることが、彼らの働く目的の一つとなっています。

 

それぞれの世代は、育った時代環境の影響を多かれ少なかれ受けています。たとえば、ITや起業や自由な働き方が脚光を浴びた時代に社会人となった団塊ジュニア世代からは、数多くのITベンチャー創業者が生まれました。

 

団塊ジュニア世代よりも上の世代は、どちらかといえば共感よりもシステムが優位であるような気がします。

 

人数の多い団塊の世代や団塊ジュニア世代は、生きてきたなかで常に競争を強いられてきました。兄弟姉妹が多ければ、親の愛情を巡って競争になりますし、昔はテレビやゲーム機も一家に一台しかなかったので使用権を巡って争いや喧嘩も起きていました。学校に入れば成績で競争させられましたし、受験競争という言葉が示すように、希望の進学先に入ることも楽ではありませんでした。そのような環境で培われる能力は、どちらかといえば共感ではなく、いかに効率を上げて全体最適を図るかというシステム管理の力です。

 

現在、管理職になっている団塊ジュニア世代を象徴するものがITシステムであるとするならば、ゆとり世代を象徴するものは何でしょうか。ITは引き続き注目を集めていますが、それと同時にNPO(特定非営利活動法人)やボランティアといった、利益ではなく社会貢献を目指す働き方に共感する人が多いようです。

 

格差社会が進んで、非正規雇用が増加し、ブラック企業やワーキングプアなど労働問題が注目されるようになった現代の若者たちは、ITベンチャーと同じくらい、NPO法人にも熱い目を注いでいます。ホームレスを支援する自立生活サポートセンター・もやい、労働問題の対策にあたるPOSSE、病児保育や待機児童など保育問題の解決を目指すフローレンスなどは、メディアにもよく登場して憧れの存在となりました。

 

学生運動SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)のメンバーのほとんどが1990年代生まれのゆとり世代であるように、ゆとり世代は社会を変えることに興味を持つ人が多いようです。そのため、出世や名声や金銭的なインセンティブだけでは彼らのモチベーションを高めることは難しいかもしれません。

 

ゆとり世代にとって、会社は自分の内的な目的を実現するための手段に過ぎません。終身雇用や年功序列が崩壊した今、昔のような会社人間になる人は少なく、仕事は単に生活費を稼ぐためか、あるいは自分を成長させるためのツールというドライな考え方をする人が増えています。

 

また、ゆとり世代はSNSなどで横のつながりを幅広く持っているためか、会社組織の縦のつながり(ヒエラルキー)になかなか慣れず、上からの権威的な指示命令に反発を覚える人も少なくありません。

 

ゆとり世代は社会問題にも関心が高い人が多いのですが、それだけに利益を追求するだけの会社からの業務命令や、自分の信念に反する仕事内容などに違和感を覚えて、どのように会社に適応したらよいか迷っている人もいます。

 

ただし、彼らのいちばんの長所は、目的とやり方、手段が合理的に一致していて効率的でさえあれば、無駄に反発せずに言われたことを素直に実行するところです。私たちの世代は斜に構えることが多く、年長者の言うことを聞くにしてもそのままはやらなかったものですが、ゆとり世代は言われたことを真面目に実行しようとします。その長所をどのように活かしていくかを考えたいところです。

 

 

西村 直哉

株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長

人材育成・組織行動調査のコンサルタント

 

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

西村 直哉,江波戸 赳夫

幻冬舎メディアコンサルティング

管理職必読“ダイバーシティマネジメント"シリーズ、待望の第二弾! ジェネレーションギャップに悩む「管理職」必読! 「各世代の価値観」を理解し「ジェネレーションギャップ」を乗り越えろ。 それぞれの世代に有効な…

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