今回は、世界各国のマネジメントの特徴とともに、日本において今後必要となるマネジメント術について考察します。※若手社員、シニア人材のマネジメントに頭を痛めている管理職は少なくありません。しかし、「縦のダイバーシティ」、つまりジェネレーションギャップに着目することで、問題解決の糸口を探すことは可能です。本連載では、世代に特徴的な考え方や行動の傾向を把握した、効果的なアプローチの方法を伝授します。

組織構造は階層主義なのに、意思決定は合意志向の日本

前回の続きです(関連記事『明快な指示が有効な若手社員、婉曲表現に安心するシニア社員』参照)。日本の特異性はハイコンテクストなコミュニケーションだけではありません。ビジネススクールの教授エリン・メイヤーは、コミュニケーションを含めて八つの指標を用いてそれぞれの国に特有のマネジメントや企業文化があることを明らかにしました。

 

[図表]各国のカルチャー・マップ

【出典】エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』英治出版から一部加筆修正
【出典】エリン・メイヤー『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』英治出版から一部加筆修正

 

たとえば、ハイコンテクストの国は一般に、部下への評価もあまりストレートには行わず、改善を求めるときも遠回しに指摘する傾向があります。しかし、中国などはハイコンテクスト文化の国でありながら、ネガティブ・フィードバックについては直接的な言い方をする傾向があります。そのため、日本人から見ると中国人は露骨で怖く感じられることもあります。一方、アメリカはローコンテクストの国ですが、部下に対して批判をするときには、先に褒め言葉を多用して、ネガティブさを薄める傾向があります。

 

また、組織構造において日本は典型的な階層主義ですが、組織の意思決定では合意志向で、すべてのメンバーによる承認を重視します。階層主義の文化では、中国などに見られるようにトップダウン式の決断が一般的なので、日本のようにボトムアップ式で稟議を回覧する文化は珍しいそうです。

 

階層主義でなく平等主義の文化の企業では、社長の地位は一般社員と同じで、社長の意見に一般社員が反論するのはもちろん、そもそも社長室がなかったり、社長と一般社員が中間の幹部を飛び越えてランチをしたりしています。上司に無断で、そのさらに上の上司に相談すると始末書を書かされることすらある日本企業とは大きな違いがあります。

意思決定・方針転換が素早く柔軟なアメリカと中国

さらに、仕事において意見や見解の相違があったときに、徹底的に議論するか、議論を避けるかも国によって文化が異なります。

 

ドイツやフランスなどヨーロッパの国は、抽象的、原理的な議論を好む伝統があり、相手の意見に反対しても人格を否定したことにはならないと誰もが理解しています。しかし、日本や中国などアジアの国々は、そうではありません。部下から「なぜですか?」、「理由を教えてください」と言われただけで、自分の権威が否定されたと感じる人もいます。そのため、日本では議論や意見の対立はできるだけ避けられています。

 

日本の企業では、意見の対立を解消する必要があった場合、会議前に水面下で根回し(事前交渉)が行われて、会議の席ではすみやかにその決断が承認されるように仕立てられます。そのため日本では、会議前に行われた意思決定が正式に承認されるのが良い会議とされています。ちなみに「根回し」は園芸用語で、樹木の移植をしやすいようにあらかじめ根の周囲を掘っておくことを指します。

 

一方、ヨーロッパでは、会議とは意見の対立を解消するための議論をする場とされています。そのため、良い会議ではさまざまな意見が出されて、その場で議論が深められていきます。これは、事前に決められた方針に対して唱えられた異論を抑え込もうとする日本の会議とは真逆です。

 

ある日本企業のヨーロッパ支社で働くイギリス人幹部が、本社の重要な意思決定に参加することになり、何週間も準備をして東京本社の会議に出席しました。しかし、彼の渾身のプレゼンテーションは功を奏さず、参加メンバーは全員反対意見でまとまっていました。自分の意見のほうが勝っていると感じていた彼は必死で反論をしましたが、他の幹部の考えを変えることはできませんでした。彼は知らなかったのです。日本企業で重大な意思決定に関与しようと思うなら、会議前の早い段階で個々の幹部と話し合い、根回しを行っておかねばならなかったことを。また、会議の場で公然と反論されると、日本人は自分が攻撃されたと考えて余計に防衛的になることも。

 

ちなみにアメリカの会議はヨーロッパともまた異なり、時間をかけて議論をすることより、とにかくすばやく決断を下すことを好みます。そして、その決断が間違っていたことが分かった場合は、即座に変更することをもためらいません。この辺りの柔軟さは中国と似ています。日本やヨーロッパは、会議前か会議中かの違いこそあれ、決断を熟慮して下していますから、方針を変更するにはかなりの時間がかかります。

これからの若手社員は、従来のやり方を受け入れない

このような違いについて述べてきたのは日本企業のマネジメントを批判するためではありません。どの国にもそれぞれのやり方があり、どれが正しくてどれが間違っているというわけではないからです。

 

しかし、日本はいろいろな指標で両極端に振れることが多く、ユニークな文化圏であることは知っておいたほうがよいでしょう。

 

なぜならば、現代はモノと情報の移動速度が加速度的に速くなり、若い世代になればなるほど文化的にグローバル化して、これまでの日本文化に異を唱えることが多くなっているからです。そのため、若手社員に対して、ハイコンテクストで階層主義的な日本のマネジメントを無理矢理押しつけることは、年々難しくなってきています。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは異文化マネジメントに適応していかねばならなくなったのです。

 

 

西村 直哉

株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長

人材育成・組織行動調査のコンサルタント

 

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

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西村 直哉,江波戸 赳夫

幻冬舎メディアコンサルティング

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