若手社員、シニア人材のマネジメントに頭を痛めている管理職は少なくありません。しかし、「縦のダイバーシティ」、つまりジェネレーションギャップに着目することで、問題解決の糸口を探すことは可能です。本連載では、世代に特徴的な考え方や行動の傾向を把握した、効果的なアプローチの方法を伝授します。

マネジメントを嫌がり、管理職になりたがらない社員も

部下のマネジメントは、誰にとっても難しいものです。

 

そのためでしょうか。近年、「管理職になりたくない」という社員が増えてきています。

 

リクルートマネジメントソリューションズの「新人・若手の意識調査」(2016年)によれば、「管理職になりたい」「どちらかといえばなりたい」と回答した社員は31.9%で、「管理職になりたくない」「どちらかといえばなりたくない」と回答した社員は37.9%でした。なんと、管理職への昇進に否定的な人のほうが多かったのです。

 

キャリアインデックスによる「有識者に向けた仕事に関する調査」(2017年)では、管理職になりたくない人の割合はさらに高く、男性で約6割、女性で約9割が「管理職になりたくない」と回答しています。

 

確かに、マネジメントは簡単なものではありません。特に、日本企業においてはそれが顕著です。というのも、現代の日本においては〝上の言うことを素直に聞くこと〟を良しとしない人が大多数を占めるからです。

 

世界80カ国以上を対象に、さまざまな価値観を調査した「世界価値観調査」(2015年)によれば、「権威や権力がより尊重される」社会になることを「良いこと」であると回答した日本人の割合は、わずか4.7%で調査対象国中の最下位でした。

 

[図表1]国別「権威や権力がより尊重される」社会への変化は「良いことである」と回答した割合

【出典】World Value Survey Wave6 を基に作成
【出典】World Value Survey Wave6 を基に作成

 

しかし、他の国では「権威や権力がより尊重される」社会を「良いこと」と回答した人の割合は、1位のカタールで97.9%、大麻解禁など自由のイメージが強いオランダで72.6%、銃の所持が許されていて自主独立の伝統のあるアメリカでも55.2%でした。低い国でも、共産党独裁の中国が41.9%、日本と文化の似ている韓国が26.9%、日本の次に数値の低いスウェーデンが22.4%ですから、日本の4.7%は突出して低い数字になります。つまり、日本人は「権威や権力」を圧倒的に嫌っている国民性を持つのです。

 

そのため、日本企業では、上意下達(じょういかたつ)の指示命令系統があまり機能しない場面が見られます。上司が何かを指示しても「現場を知らない」と反論されることもあれば、その場では従うふりを見せるものの「面従腹背(めんじゅうふくはい)」で実際は言われた通りにしなかったり、かたちだけやっているふりをして「うまくいきませんでした」と予定調和で終わらせたり、といった「反抗」もよく見られます。

 

「権威や権力」が尊重されるのであれば、上司と部下で意見が異なったとしても、会社の方針として上司の言うことを受け入れてもらえなくもないのですが、「現場」の力が強く、ボトムアップの提案こそが正しいものだと考えられがちな日本企業においては、ただ上司や管理職というだけでは指示を聞いてもらえません。

 

それどころか「たいした仕事をしていないのに給料が高い」とか「上司のくせに仕事を知らない」などと、嫌われる対象になります。そのように上司に文句ばかり言ってきた若手社員が、「管理職」に魅力を感じられず、自分は「管理職になりたくない」と思うのもある意味では当たり前です。

 

若手社員は「管理職」に過大な期待をして、何でも知っていると思って質問したのに詳しく教えてくれないと不満をぶつけますし、年配のシニア社員は、年下の「管理職」を軽んじて、言うことを聞いてくれません。ことほどさように、マネジメントは難しいものです。多くの管理職が、若手社員やシニア人材のマネジメントに悩むのも無理はありません。

若手社員に留まってもらうには「扱い」を変える

人事の世界には「七五三現象」という言葉があります。もちろん、子どもの成長の祝い年のことではありません。就職して3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する現象のことです。

 

つまり、3割の大卒新人が3年以内に最初の就職先を退職しているわけで、就職活動や採用活動のマッチングの難しさがよく分かります。

 

ちなみに、この数字に対して「最近の若者は我慢が足りない」という年配者も多いのですが、実は七五三現象がいわれ始めたのは1980年代のことであり、30年以上前からこの離職率は大きな変化をしていません。細かいことをいえば、バブル崩壊後やリーマンショック後の不況期には離職率が低くなったり、人手不足になると離職率が上がったりといった変動はありますが、大局的に見るとそれほどの違いはありません。

 

また、高卒就職者の3年以内離職率は、最近は40%程度に落ちており、むしろ若者は我慢強くなっているとすらいえるかもしれません。

 

大卒就職者の3年以内離職率が約30%という数字も、詳細に見ると1年目で約12%、2年目でさらに約10%、3年目で残りの約8%が離職しており、やはり初年度で「何か違う」または「就職先を間違えた」と気づいて離職する割合が最も高いようです。ただし、会社規模別に見ると、従業員数が少ない会社ほど離職率が高くなっており、就労環境の良い大手企業では、多少の不満も我慢できることが多くなるのかもしれません。

 

[図表2]大卒新人の3年以内離職率

【出典】厚生労働省「新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移」
【出典】厚生労働省「新規学卒就職者の学歴別就職後3年以内離職率の推移」

 

しかし、いったいなぜ彼らは離職してしまうのでしょうか。

 

厚生労働省の「平成25年若年者雇用実態調査」によれば、最初の会社を入社1年以内に離職した社員の離職理由の1位は「仕事が自分に合わない」、2位は「人間関係がよくなかった」、3位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」となっています。

 

一方、10年以上在籍してから辞めた社員の場合、離職理由のトップ3は「健康上の理由」、「不安定な雇用状態が嫌だった」、「ノルマや責任が重すぎた」と様変わりします。

 

[図表3]正社員の離職理由

【出典】厚生労働省「若年者の職業生活に関する実態調査(正社員調査)」を基に作成 図表3 正社員の離職理由 742747_
【出典】厚生労働省「若年者の職業生活に関する実態調査(正社員調査)」を基に作成

 

1年以内に辞める理由は、実際に働く現場環境への不満であり、10年以上勤めて辞める理由は会社や将来への不安であることが見えてきます。いずれにせよ、会社に対して何らかの不満があることには違いありません。

 

また、近年は若者の数が減少したため、若手社員の転職市場における価値が高く、離職をためらわない傾向が見られます。このような状況下、若手社員に辞められたくない会社は、彼らに対する扱いを変えていくことが必要です。

 

かつての若手社員は「先輩の背中を見て学べ」と言えば自然に育つ傾向がありました。しかし最近は、「ゆとり世代は、懇切丁寧に指導しなければなかなか伸びない」などという不満の声が管理職から上がっています。そのような変化が良いことか悪いことかはさておき、「懇切丁寧」な指導が必要なのであれば、「懇切丁寧」に指導すればよいのです。そこに不満を言っても、彼らは黙って辞めていくだけです。

 

若手社員からすれば現在は売り手市場ですし、かつてのように終身雇用や年功序列も保証されていないのですから、「やりたい仕事がない」「上司とそりが合わない」といった理由で辞めることに、何らためらいはありません。こうした若手社員の考え方や行動が、いくら「理解できない」ことであったとしても、そのような変化を受け入れていかなければ、環境に適応できなかった恐竜のように滅んでいくだけです。

 

 

西村 直哉

株式会社キャリアネットワーク代表取締役社長
人材育成・組織行動調査のコンサルタント

 

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント

西村 直哉,江波戸 赳夫

幻冬舎メディアコンサルティング

管理職必読“ダイバーシティマネジメント"シリーズ、待望の第二弾! ジェネレーションギャップに悩む「管理職」必読! 「各世代の価値観」を理解し「ジェネレーションギャップ」を乗り越えろ。 それぞれの世代に有効な…

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