税理士はあくまでも「税の専門家」
〈ケース1〉為替手数料をディスカウント
とある設計事務所では、海外の設計コンペで受注した建物の設計監理業務にともない、海外での売り上げが銀行口座に入金されることになりました。
しかし、日本の銀行では通常、海外からの送金はそのまま銀行の通常の為替手数料で円に転換します。この場合、手数料は1ドル1円かかり、予想外の高額になります。しかし、顧問税理士からは何のアドバイスもありませんでした。
そこで、相談を受けた我々は金融機関と交渉し、1ドルあたり5銭の手数料、つまり95%のディスカウントに成功しました。
これは私がもともと銀行員だったというのもありますが、ある程度内情に精通した専門家に頼むことで、物事は大きく前進するものです。
税理士には「外国語」が苦手な人が多い!?
〈ケース2〉「外国税額控除」を使った源泉所得税の取り戻し
海外でも活躍する建築家のケースです。海外での仕事の場合、売り上げはまず現地の国で源泉所得税が課され、その後、日本の口座に振り込まれるということがあります。
国内では再度、確定申告を行いますが、その際、二重課税を避けるため海外での源泉所得税を取り戻すことが可能です。これが「外国税額控除」といわれる制度です。
しかし、この建築家の顧問税理士がこの制度に詳しくなく、外国税額控除を使わないまま申告をしていました。税理士は、英語を含めた外国語について苦手としている方が少なくないということもあるようです。
相談を受けた我々がコンサルに入り、海外での売り上げに対する源泉所得税の一部を取り戻すことに成功しました。その額は1年で4000万円程度にもなりました。
いまは経済のグローバル化が進んでいます。海外で売り上げがあるならば、外国税額控除を使うことは必須です。
一人の専門家だけでは、最適解を導き出せないことも
〈ケース3〉役員借入金を短期間に大きく圧縮
中小企業では、資金繰りなどのため社長のポケットマネーを会社に入れて運営しているというケースが少なくありません。その金額が10年、20年とたまっていくうちに、数億円単位になることもあります。
会計上、社長が出したこうしたポケットマネーは「役員借入金」となります。役員借入金の最大の問題は、社長が亡くなったとき、社長個人の財産となり、相続税の対象となってしまうことです。
通常、会社はとっくにその資金を使っており、すぐに返すことは難しいでしょう。資金がないのに巨額の相続税を払わなければならないかもしれないのです。
ある不動産や飲食業を営む企業では、役員借入金が2億円ほどになっていました。相続税は数千万単位でかかることになります。
こうした場合、顧問税理士からは毎月の給料の代わりに返済してもらう形にしたらどうかという提案がされることがあります。たとえば、毎月100万円を役員借入金の返済という形で社長宛に振り込むのです。しかし、それでも年間1200万円、2億円では15年くらいかかってしまいます。
そこで我々はある方法により、1年で即座に役員借入金2億円を6000万円ほどまで圧縮し、これにより、3000万円近い節税効果を達成しました。
実はこの会社は法人で土地建物を数多く所有していたので、その一部を役員借入金の代物弁済として、社長個人に「もの」で返済することにしたのです。不動産は個人で保有していると、「小規模宅地の特例」など、相続税評価を圧縮する仕組みがあります。個人に不動産を移すことで、相続税対策をすることもできるのです。
役員借入金は単純に毎月給与がわりに返済するという以外に、素早く大きな金額を圧縮することも可能なのです。
痛い目を見てから「反省する」ことがないように
専門家を活用することはとても重要です。
しかし、専門家を「活用する」ことと「丸投げ」することは全く別です。少なくとも、自分で理解しようとする努力はしなければなりません。そして、自分で分からなければそこで一度立ち止まることです。
残念なことに、痛い目を見てから反省するケースが目立ちます。まずは疑ってかかるくらいのスタンスを持ちましょう。そして、必ず複数の専門家に声を掛けてみましょう。遠慮する必要はありません。
江幡 吉昭
株式会社アレース・ファミリーオフィス代表取締役
一般社団法人 相続終活専門士協会代表理事