今回は、不動産投資における「繰り上げ返済」について解説します。※本連載では、会計事務所ロイズ会計代表・税理士の石井彰男氏の著書『不動産投資のお金の残し方 裏教科書 税理士大家さんがコッソリ教える』(ぱる出版)より一部を抜粋し、儲かる「物件の選び方と節税方法」について解説します。

投資の「エリア」は絞った方が上手な運営が可能

投資初心者に限らず、何年も不動産投資をしているベテランの人においても物件の所有地域が点在している人がよくいらっしゃいます。決して悪いわけではないのですが、どちらかというと投資対象は絞って行った方が管理の目も行き届きやすいのが普通です。数か所であれば管理の目も行き届くかと思いますが、10か所以上となるとなかなか難しいのではないでしょうか。

 

専業大家さんであったとしても、物件の地域が散らばっていると手薄になる物件もいくつか出てきてしまうものです。

 

そうなると現地の不動産業者との連絡が途絶えがちになり、関係性も薄くなってくるため、空室時の入居案内に影響が出ないとも限りません。

 

大家さん本人が所有している物件数が全体として多かったとしても、点在している場合、その地域における管理会社や地元の不動産業者からすれば、「その物件の大家さん」という目でしか見られないというのもデメリットとしてあります。

 

以前、セミナーで日本全国47都道府県すべてで物件を所有し全国制覇したという人とお会いしたことがありましたが、管理が行き届いているかどうか、本人も把握できていないという状況だとのことでした。

 

物件の数を競うようなことをして他の投資家たちと見栄を張りあっても、中身がなければお金が出ていくだけになり、投資効率は非常に悪くなります。

 

物件の数が多ければ全体としての賃貸経営も安定するのはもちろんなのですが、できることならエリアは絞った方が上手な運営が可能なものと思っています。

 

目が行き届かなければ稼働率にも影響してくるからです。

 

エリアを集中して持つことで、地元の不動産業者に一目置かれる存在として見られることとなり、新しい売り物件情報も早めに回してもらえたりするというメリットもあります。

 

私のお客様でも上手に運営されている方は、投資エリアが集中していることが多いです。

 

たとえば、千葉の八街エリアに特化するとか、埼玉の熊谷エリアに特化するとかいうのも良い方法だと思います。まずは拠点をどこかに決めて、そこを中心として物件を増やしていくという方法を取れば非常に堅実な不動産投資ができるでしょう。

 

これは業種を問わず言えることで、不動産賃貸業以外の業種でも似たような戦略が取られています。

 

たとえば、飲食店業界においても同じことが言え、ある地域に集中的に出店することで認知度を高め、集客力を上げるという方法が昔から行われています。

 

認知度が上がれば広告費も下げられますから、利益率アップにつながるというわけです。

 

不動産投資だけをしているとなかなか他業種のやり方には目が行かないものですが、本業をお持ちのサラリーマンの方であればお勤め先の会社のやり方に目を向けて賃貸業に応用できないかなどといった視点を持たれることで、新たな発見があるかもしれません。

「繰り上げ返済」は次の融資に悪影響を与える?

不動産投資をしていく上で判断に迷うことはたくさんありますが、その1つに繰り上げ返済をすべきかどうかという話があります。

 

家賃に手を付けずにちゃんと取っておけば通帳の残高は自然と増えていきます。

 

そのお金の使い道を繰り上げ返済に使うべきか、どうするべきかというご相談をいただきますが、わたしは繰り上げ返済をすべきでないと考えています。

 

その理由は金利と物件の利回りの関係にあります。

 

銀行金利は通常であれば1~2%台が普通です。

 

不動産投資への融資に積極的なことで有名なスルガ銀行は、金利が高いことでも有名ですがそれでも4.5%です。

 

物件の利回りはどのくらいあるでしょうか。

 

首都圏の新築区分マンションであれば4~5%台がほとんどですが、首都圏の新築アパートであれば7%前後が今のところ相場です。

 

地方に行けば、アパートの利回りは10~15%が相場です。

 

地方の戸建ての利回りは15~20%が多いのではないでしょうか。

 

それでは、通帳に残った銀行残高を繰り上げ返済に使った場合、どれだけ得をすることになるでしょう。

 

それは、銀行の借入金利である1~2%分だけ得をすることになります。

 

一方、その通帳残高を新たな物件取得に使った場合は、どれだけ得をするでしょう。

 

それは購入した物件の利回りと金利との差額分だけ得をすることになります。

 

仮に金利が高いスルガ銀行で借りたとすると、首都圏の新築区分マンションであればほとんど差額はゼロ。

 

首都圏の新築アパートであれば2.5%前後。

 

地方のアパートは5.5~10.5%。

 

地方の戸建ては10.5~15.5%。

 

金利1~2%で借りたとすれば、この差額分はさらに多くなります。

 

仮に1%としてみましょう。

 

首都圏の新築区分マンションであれば3~4%、

 

首都圏の新築アパートであれば6%前後。

 

地方のアパートは9~14%。

 

地方の戸建ては14~19%。

 

差額分がかなり大きくなってきましたね。

 

つまり、これを見ても分かるように、繰り上げ返済するよりも新たな物件を取得した方が得をすることが明らかなのです。

 

購入する物件の利回りが高ければ高いほど、差額分も大きくなり得する金額も大きくなっていきます。

 

ただ、スルガ銀行から金利4.5%で借りている状態で、かつ購入しようとしている物件の利回りが3%ぐらいだと、逆に繰り上げ返済した方が得になるということになります。

 

収益物件から話はずれますが、持ち家の住宅ローンで言えば、さらに繰り上げ返済の必要性は薄れます。

 

なぜなら、住宅ローンの金利は通常1%以下の場合が多いためです。

 

今借りている金利が安ければ安いほど、繰り上げ返済は非効率な支出となります。

 

細かいところで他にも議論すべき点があるかもしれませんが、大筋の考え方としてはこのように考えて問題ありません。

 

ここで、もう1つ別の論点があります。

 

借入した以上は、銀行にもある程度は儲けさせてあげないと次の融資の時に影響するかもしれないという点です。

 

というのも、繰り上げ返済をすれば銀行側としては、本来得られたであろう利息を取り損ねた状態になるわけで、その分、利益が減るわけです。

 

銀行側が融資すると判断した当初は、100の利益が見込まれていたにもかかわらず、繰り上げ返済をすることで90の利益に減ってしまうのです。

 

この本を読まれている方(※書籍『不動産投資のお金の残し方』(ぱる出版))は投資家さんなので、経済的合理性を追求するのが正義ですから、自分が得をして相手がその分だけ損をするのはしょうがないではないかと考える方も多くいらっしゃるかもしれませんが、現金で買う場合は別として、融資で購入するのであれば購入できるのは銀行の協力があってこそ他なりません。

 

そういったことからも、今後の協力関係を築くために繰り上げ返済でなく、節税など他の方法で利益を上げる方が得策ではないかと個人的には考えております。

 

近江商人の言葉に、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という三方良しの言葉がありますが、この言葉の意味は商売において売り手と買い手が満足するのは当然のことであるが、それだけに留まらず、社会に貢献できてこそよい商売といえるのだという考え方を示したものです。

 

この三方の中に、銀行さんも加えてあげても良いのではないでしょうか。

 

融資を申し込む際に、銀行同士を競わせて金利の引き下げを狙うという方法は一般的に行われており、それは正しい方法だと思いますが、いったん融資を受けてからはその条件で約束を守ってあげるのが、銀行との良い付き合い方なのではないかと思います。

 

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石井 彰男

ぱる出版

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