物件を吟味せずに不動産投資する恐ろしさ
今は不動産会社の社長として、投資家の方々にアドバイスをする立場にいる私ですが、実は不動産投資で手痛い失敗をしています。
経済系の大学に在籍していたので、学生時代は漠然と金融機関への就職を志望していました。しかしその時期、日本興業銀行、第一勧銀、富士銀の統合、大和銀の公的資金注入、長銀の破綻などが相次いだのです。就職「超氷河期」だったこともあり、金融機関志望をやめ、安定した業界に方向転換しプロパンガス会社へ就職しました。
新卒で入社したその会社では、アパートオーナーや不動産会社に向け、インセンティブにより新規供給を提案する営業を担当していました。プロパンガスを商材として「顧客が不動産賃貸経営において利益を確保するにはどうしたらよいのか」の提案を考える中で、不動産を何棟も買い増ししていくオーナーに漠然とした憧れを抱いていったのです。
取引先が不動産会社やアパートオーナーだったため、営業担当として働くうち、漠然とですが不動産投資の全体像が見えていました。また初任地の仙台では利回りが15%~20%の物件が市場に多く出回っていました。そんな中、オーナーの知人や不動産会社社長の薦めもあり、中古の区分テナント、住居3LDKを任意売買、競売で落札し、運用をはじめたのです。当初の目的は、将来への不安をなくすことでした。インフラ系のサラリーマンとして、給与は安定していたものの、大きくアップすることはありません。
そんな思いではじめた不動産投資ですが、自己流ながらうまくいっていました。やがて、東京都心で不動産を持ちたいとも思いはじめました。
リーマンショック以降、収益不動産の金額は低下しはじめ、23区でも利回り10%のアパートが出回っていました。常にポータルサイトを見ていた私は、「安く買うチャンスだ」と感じ、杉並区上井草にある8世帯のアパートを購入しました。土地が整形地で40坪あるということと、築年数が20年以内ということがセールスポイントでした。
しかし、購入後思わぬ事態が発生しました。
8世帯中4世帯が購入後4カ月で退去してしまったのです。また、仲介会社は教えてくれず、私も確認をしていなかったのですが、前所有者はサブリース契約で賃貸経営をしており、不動産会社は空室期間が発生することによる家賃保証リスクを防ぐため、室内リフォームをせずにハウスクリーニングのみを実施して入居させていました。その結果として、部屋の内装はおろか、床にはへこみがあり、設備は建築当初のままでした。
そんな部屋でしたので、入居者の退去立ち会い時には「契約時に前の管理会社から0円で入退居できると言われているので、クリーニング代、リフォーム代の支払いはないはずです」と言われ、原状回復費用の入居者負担金を請求できず、その結果どんどんリフォーム代がかさんでいき、管理会社からの4室の見積もりを合計すると200万円を超えるほどになっていました。
当時の私は属性が悪く、諸経費が足りずに仲介会社の薦めでS銀行の年利10%の諸経費カードローンで250万円程度を借りていました。手持ち資金がなくなり焦った私は、日本政策金融公庫へ飛び込み、リフォーム代300万円を借り、なんとか急場をしのぎました。
今はそれらの不動産も無事、出口を迎えています。しかし当時は、物件を吟味せずに不動産投資をすることの恐ろしさを思い知り、頭を殴られたような気がしたものです。
投資の成否は「どんな不動産を買うか」で8割決まる!?
私は不動産の選定に失敗し、利益をあげようとしてはじめた不動産投資によって資金がショートしかけましたが、そこから自分の収益物件を収益性のあるものに変えることができたポイントがありました。それは「DIY(クロス、クッションフロア以外はセルフリフォーム)により長く住んでいただけるお部屋づくりをしたこと、自ら足を運んで客付け、周知活動を行って満室にしたこと」です。
私が物件を収益性のあるものに戻すことができた理由を考えてみると、資金不足に陥った際、その都度判断を管理会社任せ、リフォーム会社任せにせず、1円でもコストを抑えられるようあらゆる手段で調べまわり、問題に立ち向かって、余分な出費を抑えてきた点が生還ポイントだったのだ、という結論に至ります。
ただ、私はたまたま自分の仕事と不動産賃貸業の相性が良かったため、自己運用できたのです。大多数の投資家には本業があり、頻繁に現地に行くこと、自分で修繕をしてコストを下げること、賃貸仲介会社へ営業する時間を確保することはとうてい不可能です。
さらにもうひとつ大切なことは、「物件選定を間違えないこと」です。不動産投資ではどんな不動産を買うか(入り口)が成否の8割を占めるほど重要なポイントとなります。もちろん、「失敗してもいい」と考えて投資をはじめる方はいませんので、どんな物件を買うかは誰でも悩みます。それでも結果的に失敗してしまう例が多いのは、「オーナーになりたい」という夢が次第に大きくなり、本来の目的だったはずの「不動産を運用して運用益を得る」という目標を見失ってしまうからです。
そして、入り口の先には出口があります。
建物を100年維持するヨーロッパ、アメリカなどと異なり、耐用年数が短い日本の不動産は出口を見定めての運用が必要です。
空き家問題が深刻化してきている日本において、たとえ好立地であったとしても築70年の鉄筋コンクリートのマンションに入居してもらうには、相当な修繕費用、そして入居経費が必要になります。今後はよりいっそう修繕や売却を見据えて物件を購入しなければならず、今まで以上に出口戦略が重要になってくるでしょう。
不動産投資の目的は「売却益」から「家賃収入」へ
いまだかつてないほど、不動産投資ブームが熱を帯びています。
私は西東京や神奈川エリアで収益不動産の買取再生販売をしていますが、地元の中小不動産会社の営業担当は皆、「投資用不動産は勢いがありますね。毎日都内から中古買取の営業に来ます」と言います。
投資用不動産の取り扱いは、20年ほど前は三井不動産リアルティ、東急リバブルなどといった大手仲介会社が大半を占めていました。インターネットが発達していなかった当時の日本では、大手企業でなければ不動産は購入できないという事情に加え、融資を引くことができるのが一部の高所得者層に限られていたからです。
しかし、インターネットの発達により情報発信が盛んになり、インターネットで物件を探せるようになりました。同時に不動産の購入ノウハウ、運営ノウハウも情報発信されるようになり、2004年前後からある一定の所得がある人を対象に全国のRCマンションに三井住友銀行(SMBC)がフルローンを出し、一般のサラリーマンが不動産事業に参入してきました。
それまで不動産は「売って儲けるもの」という価値観が主流でしたが、90年代のバブル崩壊などをきっかけに地価上昇神話は崩れていた上、経済不安を払拭する目的での不動産投資が流行しました。
そしていつしかその目的は、売却益を得る「キャピタルゲイン」狙いではなく、毎月の家賃による収益「インカムゲイン」を狙ったものへと移り変わっていきました。
SMBCのRCマンションフルローン融資が終わって10年ほど経ちますが、今なお地銀、信金を中心に収益バブルが続いています。しかし、インターネットが発達し、手軽に情報が得られるため、机上の論理だけで自分の手足を使わずに不動産を購入する方が非常に多いのが実情です。そして「インターネット上の情報がすべて」と錯覚し、実際に運用を開始したところ、当初気が付かなかったコストの発生により運用損をしてしまっているのです。
実際、不動産投資はインターネットの登場によって格段に便利になりました。しかし、不動産は、それぞれの物件により、また地域により異なります。ひとつとして同じ商品はないのです。そのため、実際に「足」と「目」と「耳」で物件を確かめ、業者や入居者と直接コミュニケーションをとって進めていくべきです。
菅谷 太一
ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者