今回は、特例事業承継税制の活用に際して都道府県に届け出る「承継計画」の内容を見ていきます。※会社の競争力の衰えや、後継者不在を理由に休廃業を選択する中小企業経営者は少なくありません。本連載では、そのような経営者が充実したセカンドライフを送るための「引退術」として、期間限定でメリットの大きい「特例事業承継税制」を活用する方法を解説します。

後継先が決定・かつ株価が高い会社なら、特例の活用を

すでに後継先が決まっている会社で、株価がかなり高い会社は、今回の特例を使うのが得策だと思います。今すぐに準備に取りかかることをお勧めします。納税猶予による節税額と今後の手続きの手間やコストを考えて、比較してみて下さい。

 

5年という期間は長いように思うかもしれませんが、実際に計画書を作ろうとすると、おそらく足りないくらいに短いはずです。なぜなら、まず現経営者と後継者とが意思統一をして、事業承継というゴールに向かって一緒に取り組まなければならないからです。後継者が社内にいても、なかなか自社株式の承継の話や、自分の引退の話をする機会がなかったかもしれません。しかし、特例には期限があり、承継の問題は避けて通ることはできません。せっかくの機会ですので、ここは一度腰を据えて考えてみませんか? このことは他の誰でもない、社長のあなたしか決めることのできないことなのですから。

都道府県に提出する「承継計画」の記入項目は5つ

都道府県に提出する承継計画は、A4の用紙3~4枚分の簡単なものです。(次回で詳しく解説します)

 

記入する項目は、全部で5つです。

 

①会社について

●主たる事業内容

●資本金額または出資の総額

●常時使用する従業員の数

 

この3つについては現状を書き込むだけですので、すぐにでも記入できると思います。

 

②特例代表者について

●特例代表者の氏名

●代表権の有無(無しの場合は退任日)

 

特例代表者というのは、特例を使って事業承継しようとする代表者、つまり経営者であるあなたの名前が入ります。代表権がまだあなたにある場合は代表権「有」にチェックを入れます。すでに贈与・相続で株を移転し、後継者に代表権が移っている場合は、代表権「無」にチェックを入れ、退任した日付を記入します。

 

この項目についても、迷うことはないでしょう。

 

③特例後継者について

●特例後継者の氏名①

●特例後継者の氏名②

●特例後継者の氏名③

 

後継者を誰にするかを計画の時点で、決めておかなければなりません。この項目が一番迷うところになるのではないかと思います。

 

今回の特例では後継者3名までの贈与・相続が猶予および免除の対象になりました。そのため、後継者の氏名欄が3つあります。

 

株を長男・次男・三男に分けて贈与・相続させること自体は可能ですが、原則としては後継者は一人に絞って、その子に株を集中させます。代表者を複数にすると、議決権を巡って意見が分かれ、決裁ができないなどの余計なトラブルを起こすリスクが高まるからです。

 

後継者の決定については、親の想いだけで勝手に書いてよいというものではありません。後継者の子にも覚悟がいりますし、周囲との調整などもありますので、事前に親子でしっかりと話し合う必要があるでしょう。

 

④特例代表者が有する株式等を特例後継者が取得するまでの期間における経営の計画について

●株式を承継する時期(予定)

●当該時期までの経営上の課題

●当該課題への対応

 

ここでは「いつまでに事業承継を完了するのか」について、具体的な予定と計画を書き込みます。

 

承継予定日については、特例の最終期限である平成39(2027)年12 月31日までの、いずれかの日を記入することになります。

 

承継にあたって障害となることがあれば、それをどのようにしてクリアしていくのかも
考えて、実行可能な具体策を提示します。

 

⑤特例後継者が株式等を承継した後5年間の経営計画

●1年目の具体的な実施内容

●2年目の具体的な実施内容

●3年目の具体的な実施内容

●4年目の具体的な実施内容

●5年目の具体的な実施内容

 

特例事業承継税制で事業者に多くのメリットを担保しているのは、事業承継後も会社を存続させて欲しいからです。そのため、最低でも承継後5年間は経営を維持しなくてはなりません。仮に5年以内に会社を売却したり、廃業したりした場合は、納税猶予の適用が取り消しになります。

 

承継後5年間、どのようにして会社を維持していくのか、その具体的な経営計画を今のうちから立てておき、それに従って経営を行っていくことになります。書き方のポイントとして、「なぜその取組みを行うのか」「その取組みの結果、どのような効果が期待されるのか」を記載します。この5年間の取組みは、必ずしもすべて新しい取組みである必要はありませんが、各年においての取組みがすべて記載されている必要があります。次回に掲載する記載例を参考にして、なるべく具体的に書きましょう。

 

 

山田 知広

山田知広税理士事務所 代表
株式会社八事財産コンサルティング 代表
株式会社経営情報センター 代表
株式会社中日本エム・アンド・エー・センター 代表
名古屋税理士会所属、愛知県行政書士会所属、
TKC全国会所属
日本M&A協会理事会員、青年経営者研修塾所属 税理士・行政書士
経済産業省 認定経営革新等支援機関
M&Aシニアエキスパート
家族信託専門士

 

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