突然の相続発生でも「特例事業継承税制」のメリットを得る方法

前回は、特例事業承継税制における贈与税の「納税猶予」の手続きと計算例を紹介しました。今回は、突然相続が発生した場合においても「特例事業継承税制」のメリットを最大限得る方法を見ていきます。

提出期間内なら、後から提出することが可能

相続によって株式を移転するパターン②です。

 

以前も述べましたが、相続はいつ起きるか分かりません。特例措置が適用できる10年の間に、突然相続が発生した場合、特例を受けたくても特例承継計画を出していないと特例措置は使えず、一般措置になってしまいます。ですから、突然の相続に備えて計画は提出期間である平成30年4月1日から平成35年(2023年)3月31日までの5年の間に提出していただきたいのです。

 

前回のモデルケースで、贈与を経ずにいきなり相続になった場合を考えてみます。

 

①被相続人:父(A社の代表取締役)

②相続人:長男、長女

③父の相続財産と遺産分割:A社株式3億円→長男

その他財産4.5億円→長男1.5億円、長女3億円

相続時の株価:3億円

債務5000万円→長男が承継

④長男は株式についての相続税の納税猶予の適用を受けるものとする

 

相続税の負担額は長男1億4000万円、長女1億500万円となります。長男の相続税のうち、株の相続にかかる9855万円は特例でゼロ円になりますので、実際の長男の納税額は4145万円となります。

 

いきなり相続が起きた場合は、まだ特例承継計画を確認申請していなくても、その相続開始が、平成35年3月31日より前、すなわち特例承継計画の提出期間内であれば後から提出することができます。

 

【相続税の計算】

 

 STEP1 

相続税の計算をします(単位万円)

 

長男相続財産(1億5000+3億−5000)+長女相続財産3億=課税価格の合計額7億

課税価格の合計額7億−基礎控除4200=課税遺産総額6億5800

課税遺産総額6億5800×長男長女の法定相続分1/2=法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額3億2900

3億2900×速算表による税率50−控除額4200=1億2250(一人当たりの相続税)

1億2250×2名=相続税の総額2億4500

相続税の総額24500×長男の課税価格4億÷課税価格の合計額7億=長男の税額1億4000(万円)

相続税の総額2億4500×長女の課税価格3億÷課税価格の合計額7億=長女の税額1億500(万円)

 

 STEP2 

長男(後継者)が納税猶予の適用株式のみを取得したものと仮定して、長男の相続税額を計算します(単位万円)

 

長男が相続する株式3億+長女相続財産3億−基礎控除額4200=課税遺産総額5億
5800

課税遺産総額5億5800×長男長女の法定相続分1/2=法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額2億7900

2億7900×速算表による税率45% −控除額2700=9855(一人当たりの相続税)

9855×2名=相続税の総額1億9710

相続税の総額1億9710×長男の課税価格3億÷課税価格の合計額6億=長男の税額9855(万円)【納税猶予額】

 

 STEP3 

納税猶予額を差し引き長男の納税額を計算します。

 

長男の相続税額1億4000−納税猶予額9855=長男の納税額4145(万円)

長女の相続税額1億500(万円)

株の贈与は代表者、もしくはかつての代表者から行う

特例を使う際の注意点①

株の贈与も相続も「代表者」から行わねばならない

 

特例事業承継税制は今後10年間、事業承継対策のトレンドになっていくことは間違いありません。

 

ただ、何の事前準備もしないで安易に承継してしまうと、そのメリットを取り逃すことがあるので注意が必要です。最大限のメリットを享受するために、承継する前にやっておきたい対策をいくつか紹介しておきます。

 

まず、株の贈与は、「代表者」か、かつて代表者であった者から、行わなければなりません。今回の特例では複数の株主から後継者への贈与が可能になりました。

 

例えば家族経営の会社で、父が経営者で70%の株を保有し、母は経営にノータッチだが30%だけ株を持っているとします。後継者は父からも母からもゼロ円で贈与を受けられますが、このとき必ず最初に父から贈与を受けなくてはなりません。

 

中には後継者の子に株を全部渡してしまうのは心配だし、父はまだ辞める気はないからと、母の30%だけを先に渡すことも考えられますが、その30%は特例が使えません。あくまでこの特例は「代表権の承継」が目的なので、代表者である父から後継者の子への贈与が一番初めでなくてはなりません。

 

[図表]相続税の納税猶予についての手続き

 

相続の場合も同じです。

 

代表者である父が亡くなった場合、後継者が相続すれば特例は使うことができます。

 

しかし、次のようなケースは注意が必要です。相続では配偶者控除という大きな特例があって、父が死んだとき配偶者である母が株を相続すれば少ない税額で相続することができます。そのため、一時避難のつもりで実際には経営していない母が父の株を全株相続することがあるのですが、その後、特例事業承継税制を使って母から後継者の子に株を贈与しようとしても、それは適用の対象とはなりません。

 

実質的な経営者でない母からの贈与は、代表者からの贈与とは見なされないからです。

 

形式的に書類上で母親を代表者にしておいて、1年ほど経ってから後継者の子に贈与するというのもダメです。また、共同代表のように代表に制限があるような場合もダメです。母親が経営をしたという実績がないと、代表者とは認めてもらえません。

山田知広税理士事務所 代表
株式会社八事財産コンサルティング 代表
株式会社経営情報センター 代表
株式会社中日本エム・アンド・エー・センター 代表
名古屋税理士会所属、愛知県行政書士会所属、
TKC全国会所属
日本M&A協会理事会員、青年経営者研修塾所属 税理士・行政書士
経済産業省 認定経営革新等支援機関
M&Aシニアエキスパート
家族信託専門士

1971年生まれ、愛知県名古屋市出身。2002年税理士登録。これまで150件以上の相続申告を経験。個人・法人の事業承継対策や相続税対策を行い“モメない相続対策”コンサルティングを行なう。中小企業のM&Aサポートや、若手経営者の勉強会「ATMビジネスラボ」を主宰し後継者教育にも力を入れる。2018年で事務所創立60周年。

著者紹介

連載オーナー社長のスゴい引退術…期間限定!「特例事業承継税制」の活用法

 

オーナー社長のスゴい引退術

オーナー社長のスゴい引退術

山田 知広

幻冬舎

引退の先延ばしは様々な問題を引き起こす。事業の競争力が低下し、結果として休廃業を選択する企業が多い。また事業承継を行う場合、その多くは計画的に準備がされていないため、トラブルや失敗を招きがちだ。後ろ向きに捉えが…

 

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