前回は、特例事業承継税制の利用について、贈与の側面から説明しました。今回は特例の適用に際し注意すべきポイントについて見ていきます。

第三者が所有する株は、贈与より「買い取り」がお勧め

前回に引き続き、特例事業承継税制における最大限のメリットを享受するために、承継前にやっておきたい対策を紹介していきます。

 

特例を使う際の注意点②

第三者の株主からは適正価格で買い取る

 

2つめは、下記に挙げる図表のように、株主の中に第三者がいる場合の注意です。

 

第三者から贈与された株については、原則評価という評価法で株価を算定します。原則評価は株価が高く出ますので、贈与税が高くなります。

 

特例を使えば、贈与税は猶予されますので、株を受け取った後継者には特段の影響はありません。問題は、第三者の遺族です。

 

第三者が亡くなって相続が起こったとします。すると、第三者の遺族は相続税を計算することになりますが、このとき、贈与した株を相続財産に組み込んで計算しなければなりません。そのときの価格は原則評価です。

 

つまり、第三者はその会社には関係のない自分の遺族に贈与しておけば、配当還元方式という安い価格で贈与ができたのです。それなのに、よその子(後継者)に贈与をしてしまったがために、原則評価という高い価格で相続税を計算しなくてはなりません。第三者には自社株の他にも相続財産があるはずです。相続税の計算は、自宅等の相続財産に加え後継者に贈与した高額な自社株が上乗せされて計算されるので、全体の相続税率が大きくなってしまいます。自社株分は控除するとはいえ、第三者の遺族にしてみれば、大きな痛手です。

 

[図表]贈与者は先代経営者に限定せず、複数でも可能

※代表権を有しているものに限る  ※複数人で承継する場合、議決権割合の10%以上を有し、かつ、議決権保有割合上位3位までの同族関係者に限る。  出典:中小企業庁「平成30年度中小企業・小規模事業者関係税制改正について
※代表権を有しているものに限る。
※複数人で承継する場合、議決権割合の10%以上を有し、かつ、議決権保有割合上位3位までの同族関係者に限る。
出典:中小企業庁「平成30年度中小企業・小規模事業者関係税制改正について

 

自社株が分散している会社では、後継者に集中させようとして同族以外からも株の贈与を受けるケースが出てくるかもしれません。しかし、そうすることによって、第三者の遺族に負担をかけてしまう可能性があることを心に留めておかねばならないでしょう。

 

第三者から株の贈与を受ける場合は、贈与でなく買い取りにしたほうが、後のち問題が起こりにくいのでお勧めです。

 

第三者から株を買い取るときは、適正価格を支払うことがポイントです。

 

第三者とはいえ家族経営の会社では、株主が親戚のおじさんだったりすることがよくあります。すると、おじさんが後継者の子に対して、「君のお父さんにはお世話になったし、500万円のところ、100万円で譲るよ」と言って、割引で株のやりとりが成立することも珍しくありません。

 

ただ、この特例を使うときには「低額譲り受けに該当する場合には、この贈与税については特例の適用外」となっています。また、後継者が得をした400万円分に対して贈与税がかかってきてしまうのです。それなら、適正価格の500万円でお父さんがおじさんから買い取って、特例の適用を受けたほうがメリットの取り逃しがありません。

複数の後継者がいる場合、全員代表者になる必要がある

特例を使う際の注意点③

後継者は贈与時(相続時から5カ月以内)に代表者になる

 

この特例では、後継者の要件の1つに「贈与時(相続時から5カ月が経過する日)に代表者であること」というのがあります。後継者が複数いる場合には、後継者全員が代表者になる必要があります。

 

贈与を少しずつ行うことはNGです。一定数以上の自社株を一括して贈与する必要があります。また、相続のときに、誰が相続するかが決まっておらず、家族で揉めて決着しないまま申告期限が過ぎてしまうと、特例は受けられません。相続税の納税猶予は相続開始から5カ月を過ぎた日から8カ月を経過する日までに、認定書類に誰が相続するかを書いて、提出しなければならないのです。ですから、揉めないと分かっていても、万が一のために遺言書に「株の相続は後継者にさせる」と指定をしておくとよいと思います。

 

他にも細かい要件がたくさんあります。たとえば、「贈与時に後継者が20歳以上で、なおかつ3年以上にわたって継続して役員であること」とあります。

 

たとえば、社会勉強のために後継者候補の子を他社で働かせているケースがありますが、贈与直前に自分の会社に呼び戻して役員にしても、「3年以上」という規定から外れてしまうので、特例は受けられません。

 

それを防ぐためには、他社で働いている間も、自社の役員を兼業する形にしておくなどの工夫が必要です。他社が兼業NGの場合は困ってしまいます。「相続直前に役員であること」という要件もあります。(被相続人が60歳以上の場合)相続が起きてから急遽、長男を呼び戻し、後継者に据えるといったことはできません。

 

事が起きてから付け焼刃で後継者を用意するのではなく、計画的に承継していくことが大事ということです。

申告期限にイレギュラーなルールあり、税理士に確認を

特例を使う際の注意点④

確認申請を期限内に忘れずに行う

 

通常、贈与税の申告は毎年3月15日ですが、後継者への株の贈与について特例を受ける場合は「贈与を受けた年の10月15日以降、翌年の1月15日まで」に認定申請書を提出しなければならないという、イレギュラーなルールが加わります。

 

相続の場合は、通常は相続開始日から10カ月以内に相続税の申告をしますが、この特例を使いたい場合には、「相続開始日から5カ月を経過する日以降、8カ月を経過する日まで」に認定申請を行うことが加えて必要になります。

 

通常の贈与・相続と申告期限よりも前に申請期限が到来しますので、うっかりすると申請をし損ねて特例が受けられなくなってしまう危険があります。さらに言えば、承継後も5年間は毎年、その後は3年ごとに計画通りに経営が行われているかの報告書「継続届出書」を税務署に提出する義務があります。

 

申請書を作成したり、手続きを進めたりといった実務は税理士など「認定支援機関」の主導で行うことになりますが、「顧問税理士に任せておけば大丈夫。勝手にやってくれるだろう」と任せきりにしないほうがよいです。

 

今回の特例はスタートして日が浅く、税理士たちも勉強しながらで実務に慣れていません。おまけに一度に多くの案件を抱えていたりすると、一件一件の期限まで完璧に覚えきれず、場合によっては失念してしまう可能性があるからです。

 

こちらから顧問税理士に「そろそろ申告期限が来ますが大丈夫ですよね?」「今年も報告書の提出お願いしますね」と念を押すくらいが無難だと思います。

 

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