融資先がなく、困り果てた銀行が繰り出した「小ワザ」
銀行は融資先がなくて困っています。地方になるほど、その現状は深刻です。加えて、地方であろうと銀行にもライバルが存在し、他行よりも金利を下げなければ、融資を獲得できない時代です。それでも、あの手この手でなんとかして、うま味を得ようとするのも銀行なのです。
ある経営者が「銀行からの提案書に、わけのわからない手数料が入っています」といって書類を見せてくれました。そこには、融資の金利とは別に「融資取扱い手数料」という項目がありました。
初回のみですが、結局その分を加味して計算すると、金利は0.1%上がる計算です。そうです。体のいい、金利のかさ上げです。金利は金利で何%なのかを明記し、その下の空欄に、「融資取扱い手数料」を書いてあるのです。
パッと見て他の銀行の提案と金利だけを見比べていると、その取扱い手数料のことは忘れがちです。銀行も、そのことをわかって書いてきているのです。金利を上げづらいので、意味不明の手数料を上乗せしているのです。
「これは金利と同じなんだから、取扱い手数料という名目は無しにして、金利としてきっちりと書いてもらってください」
と、経営者にお願いし、銀行に申し入れをしてもらいました。
すると、銀行からは、ピッタリ0.1%上がった金利で提示されてきました。おそらく、多くの銀行で同様のパターンの手数料記載が増えてきていると思われます。
これまでにも、同じような手口で、若干の金利上乗せ行為はありました。しかしここ最近は、その上乗せ額がじわじわと増えてきています。見せかけの金利を下げる分だけ、逆に意味不明の手数料を増やしているのです。それだけ、銀行も金利の消耗戦に入ってきているということです。
もし、同様の銀行の提案書に見かけたら、「わけのわからない手数料はなしにして、きっちり金利の数字で勝負してください」と言ってほしいのです。
引き下げに応じない銀行に「他行から借りて返す」と…
また別の経営者の話です。
ある会社の社長が、銀行金利を下げる交渉をしていました。既存の取引銀行は4行です。4行の平均金利は、1.6%でした。「いまどき1.6%は高すぎますよ!」という、筆者の会社の指摘を受け、動き始めたのです。
最も交渉が停滞したのは、都道府県の名前がついた第一地銀でした。他の3行は交渉の結果、0.7%まで下がりました。私にすれば、それでも高いと感じるのですが、まずは半分以下には下がったのです。しかし問題の第一地銀だけは、「うちでは1%以下の金利は出せないです」と言い張られていました。
筆者は、「じゃあ、他の銀行から借りておたくの借入は返します、と言ってみてください」と社長に伝えました。
数日後、「0.7%に下がりました!」との連絡を受けました。結局、1%以下にはできないなど、ウソだったのです。
社長は「あまりにも簡単に態度を変えるのでびっくりしました!」と驚いていました。
しかし、「おたくには返します」と社長が第一地銀の担当者に伝えたのは、9月上旬だったのです。9月末は、銀行の中間決算があります。8月下旬以降は、融資担当者が借入のお願いに回る季節です。そんな時に、「返します」と言われて、担当者は青ざめてしまったのだと思われます。それでなくとも、融資額のノルマを確保することに追われるのに、返済された分までカバーすることは、いくら第一地銀とはいえ、地方では至難の技なのです。
銀行交渉を仕掛けるときには、相手がどのようなタイミングなのかを知ることも大事な要素です。日銀が毎月公表している平均金利を見ると、7月末は0.73%です。ですから、0.7%だと、まだまだ平均レベルの金利です。
今回取り上げた会社が、本当に強い銀行交渉の腕を修得するのは、まだまだこれからなのです。
いまや銀行支店長を「社長室」に招いて油断させる時代
お金を貸す側の銀行が圧倒的に強かった時代、借りる側の中小企業は、必死でした。その当時を知る社長と話していると、「どうしてあんなことで喜んでいたのか…」と振り返る方が多いのです。
時折、「はじめて支店長室に通されたときにはそれは嬉しかったですよ」とおっしゃる社長に出会います。共通するのは、ようやく銀行からの厚い信頼を得ることができた、という満足感です。
「それまで窓口対応だったのが、“支店長室へどうぞ”と言われて、行員のみなさんが元気よく”いらっしゃいませ!”と挨拶される中を歩いて支店長室へ入るとき、何とも言えないステイタスを感じたんですよね」
あるいは、
「ようやくここまで来た。認められた。という感じになりました」
などと、おっしゃるのです。
「しかしそれじゃあ、銀行と条件交渉なんて、ないでしょう?」
とおたずねすると、
「そりゃもう、支店長室で対応を受けるという、特別扱いで舞い上がっていますから、こちらからの要望なんて、まったくなかったです。もう、言われるままの条件で借りていました」
と、当時を振り返られるのです。貸してくれるだけでもありがたかったのに、支店長室に招かれて商談をするなど、実にありがたく感じていた、などとおっしゃるのです。
しかしその一方で、反省もされます。
「今になって考えてみたら、財務状況が良かったから対応が変わったんだな、とわかります。別に、信頼が厚くなった、とかじゃなかったんですよね」
そうです。要は、この会社にはたくさん貸して、金利を高めに設定しても大丈夫そうだな、と財務諸表をもとに、判断されただけです。しかも相手はお金を貸すプロです。借りる側が、どのような対応を受ければ喜ぶのか、十分に心得ているのです。中小企業の社長は、特別扱いに弱いのです。
見事なのは、銀行の交渉術です。誰もが入ることはできないと思われていた、銀行支店長室に中小企業の社長を通すことで、社長たちに有無を言わせず、高金利の条件を獲得していたのです。その作戦や、あっぱれなのです。
しかし、時代は変わり、貸す側の銀行は圧倒的に弱い立場になりました。
それなのに、今でもかつての時代を引きずり、「あそこの銀行はいつも支店長室に案内してくれる」などと大きな勘違いをしている社長もおられるのです。
そのような方々には、
「それは向こうのペースに囲い込まれているだけですよ! 今は逆に、支店長を社長室に呼んで、相手を油断させる時代ですよ!」
と言ってあげたいのです。