今回は、経営者が認識を改めるべき、銀行交渉における昔の常識や慣習について見ていきます。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

銀行に見せるのは、損益計算書と貸借対照表で十分

経営者の方から銀行とのやりとりをお聞きしていると、いまだに「それは違いますよ」ということがあります。

 

①決算資料は、内訳明細まで提出しています!

 

「うちは毎年、P/LとB/Sだけでなく、決算書の内訳明細まで、銀行に提出しています。借入が少しでもあれば、提出しないとダメなのでしょうか?」

 

という質問を、ある経営者から最近いただきました。で、次のように返答しました。

 

「P/L(損益計算書)とB/S(貸借対照表)だけで、十分ですよ。 だって、自分の会社の自己資本比率、ご存知でしょ?」

「ええ、60%を超えています。 でも、毎年提出しているから、そんなものかと・・・。 直近の試算表から、直近の受注一覧まで、提出しています」

 

その会社は建設業なのです。

 

「そんな! そこまで提出するのは、格付けランクが破たん懸念先とか、 銀行管理に陥るかもしれないくらいのレベルですよ!」

 

しかも、借入額といっても、残金はごくわずかなのです。むしろ、さっさと全額返せばいい、というレベルなのです。

 

「銀行はなんて言ってくるのですか?」と聞くと、「例年通りの資料の、提出をお願いします」と言ってきます。

 

結局、かつて、業績が芳しくなかった時代に、提出していた資料を今も同じように提出しているのです。

 

銀行員にしたら、そのほうがありがたいのです。新たに細かな資料をもらえるようにお願いするより、「いつも通りに」と言う方が、ラクなのです。

 

銀行が既存の融資先に決算書を要求するのは、現状の格付け(スコアリング)に異状がないか、確認するためです。それは、P/LとB/Sだけがあれば、できるのです。しかも、銀行員がするのではなく、審査部での数値入力による、機械判定です。判定に異状があれば、

 

「明細をください」

「最近の受注状況を教えてください」

 

となるのです。

 

貸したお金を返済する能力が衰えていないか、確認が必要となるからです。

 

なので、銀行員も、本当はどのような資料が必要なのか、わかっていない人物がいるのです。これまで提出してもらっていたから、必要なのだろう、というレベルなのです。

 

自己資本比率30%超で、返済も順調ならば、明細など要るわけがありません。そのような財務状況で内訳明細などを求めてくる銀行担当なら、

 

「内訳明細なんて、何に使うんですか? 格付けの確認だけなら、P/LとB/Sだけで十分でしょ!」

 

と、突っぱねてほしいのです。

この会社は口うるさい、という印象を、与えてほしいのです。

いまの支店長に長期資金融資の権限はない

②自分には、それだけのお金を借りられる信用がある!

 

「ええっ!? 今時そんな経営者いますか!」と思われるかもしれませんが、いらっしゃるのです。特に、バブル期以前から銀行での資金調達をされている方に多いです。

 

つまり、お金が不足していた時代に、他社よりも優先して貸してもらえてよかった、他社よりも多く貸してもらえて助かった、厳しい資金状況を、助けてもらえた・・・等という体験をお持ちの方々です。

 

その頃は、今でいう銀行格付け(スコアリング)などありませんでした。審査基準はあったものの、支店長のさじ加減ひとつで、どうとでもなったのです。だから、支店長に近づき、接待を重ね、融資をものにしたのです。

 

それらのことが、「自分には信用があるから、今も他社よりも優遇的に借りられる」という、カン違いにつながるのです。

 

しかし、今や銀行を取り巻く環境は、全く異なります。カネ余りなのです。それに、今の支店長には長期資金融資の権限などありません。社長への信用など、融資には何の関係もないのです。そんな会社ほど、担保も個人保証もバッチリ押さえられているのです。

 

信用して貸すなら、個人保証など要らないはずです。そのことに、気づかないのです。銀行にすれば、今時こんなにおいしいお客さんはいません。

 

「社長と当行とは、長年のおつきあいをさせていただておりますから」

「この地域での長年のご活躍ぶりは、お聞きしております」

「私たちは地域でのつながりを、大切にしております」

 

などと、ヨイショされ、「これまでと同じ条件で融資させていただきます」と言われると、あっさり了承してしまうのです。

 

これまでの条件でOKなら、銀行にとっては、願ったり叶ったり、なのです。銀行にすれば、そんな経営者が担当してくれるほうが、ありがたいのです。担当が後継者に変わって、厳しく交渉されるのは、イヤなのです。

 

一方、銀行が有利な時代に銀行交渉にあたっていた経営者が、今も銀行交渉を担当するのは、危険です。条件が改善されないケースが、多いのです。銀行交渉は後継世代に譲り、今の切り口で、交渉にあたってほしいのです。

「赤字=悪」と考える銀行員は、決算書の理解不足

➂どの利益であろうと、赤字にしたくない!

 

銀行が評価するのは、営業利益と経常利益です。営業利益と経常利益が黒字なら、税引き前利益や当期純利益は赤字でも良いのです、と言い続けております。そうはいっても、

 

「そんなことを言っても、赤字は印象が良くないでしょ」

「世話になっている銀行に申し訳ない」

 

とおっしゃる方が、いまだにおられるのです。

 

とにかく「どの利益だろうが、赤字にしたくない!」との思いをお持ちなのです。

 

とくにメーカーや卸売業など、設備投資や回収の面から銀行借入が恒常的に必要になる、
という業種の経営者に、このような方がおられます。やはり、過去に融資を思うように受けることができず、資金繰りでご苦労をされた、という経験をお持ちの方々です。

 

このような経営者の場合、含み損のある土地を売却して多額の特別損失を計上する、といったことへの取り組みをする際にも、戸惑われます。税引き前利益や当期純利益で、大きな赤字を出すからです。

 

で、銀行支店長に確認します。

 

「実はこのようなことを検討しておりまして、含み損を吐き出しますので、最終利益で大きな赤字になります」

 

おそるおそる、伝えます。すると、

 

「そうですか。それは結構なことですね」とあっさり言われ、「えっ!?」となり、拍子抜けするのです。

 

そのような会社は、純利益で大きな赤字を計上しても、剰余金への影響がうすく、25%以上程度の高い自己資本比率を維持している会社です。要は、単年度の純利益で大赤字になろうとも、財務基盤は健全性を維持できる、ということを、銀行もわかっているのです。

 

それに、本業の収益性である、営業利益や経常利益が維持されているならなおのこと、銀行にとっては申し分ないのです。

 

税引き前利益が赤字になれば、法人税はなくなり、より多くの現金が残ります。つまり、返済能力は高まるのです。「結構なことですね」という支店長は、そのことをわかっているのです。

 

まれに、「赤字は困りますねぇ」と言う銀行員がいます。


はっきりって、そのような方は、かなりレベルの低い支店長であり、銀行員です。決算書の仕組みを、まったく理解していないのです。このような方は、銀行員の理解度も低い、と思っておいてほしいのです。

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    本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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