今回は、買い手企業がM&Aを進める際の準備や心構えについて見ていきます。※本連載では、一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 代表理事・会長の大原達朗氏、専務理事・事務局長の松原良太氏、理事の早嶋聡史氏が「M&Aアドバイザー」との付き合い方について解説します。

対象事業の「ペルソナ」作成で、案件をフィルタリング

今回は、買い手企業がM&Aを進める際の準備や心構えについて見ていきます。

 

M&Aは手段です。したがって、先に企業の戦略があり、それを実現するための手段としてM&Aを想定していることが重要です。成長戦略を掲げる企業は、現状と将来において何らかのギャップが生じます。そのギャップを自力で埋めることができないか、あるいは計画よりも時間がかかる場合は、経済性を考慮してM&Aを検討します。そのため、M&Aの目的は、ノウハウや時間を取得することが大きな目的になります。

 

[図表1]戦略策定の流れ
[図表1]戦略策定の流れ

 

M&Aを選択した場合、次に対象事業のペルソナを作成します。対象事業のペルソナとは、M&Aの候補をリストアップする際に参考となる具体的なイメージです。

 

・買い手企業がギャップを埋めるためには、どのような事業を取得したいのか?

・規模や売上はどの程度か?

・進出したい地域はどこか?

・自社に不足している機能はどのようなものか?

・不足する技術やノウハウは何か?

・欲しい製品やサービスは何か?

・どのような人材要件を確保したいのか?

 

など、具体的に対象事業のイメージを整理しておきます。

 

[図表2]対象事業のペルソナ(例)
[図表2]対象事業のペルソナ(例)

 

対象事業のペルソナをもとに、作成できる範囲で実際の企業名をリストアップします。ニッチな事業や目的が明確であれば、リストアップできる企業は限られるでしょう。また、リストアップが難しい場合でも、対象事業のペルソナをもとに、案件ソーシングの依頼がスムーズに行えます。さらに、金融機関や外部機関から案件紹介を受ける際も、すべての案件を詳細に調べる必要がなくなり、ペルソナを活用することで案件のフィルタリングをすることができます。

 

M&Aに慣れていない企業は、紹介案件ごとに、すべてを詳細に調べる傾向があります。しかし、こうした企業のM&A担当者には明確な判断基準がないことが多く、案件が良いか否かの判断も難しく、時間ばかりが過ぎていってしまい、一向に買収ができないというケースも多く見られます。

 

きちんとした戦略があり、手段としてのM&Aを検討することができていれば、予算感も把握できます。さまざまなバリュエーション手法を使って、案件を評価することも大切ですが、過大投資をしないためにも予算感をある程度把握しておくことは大切です。

 

対象事業のペルソナがイメージできたら、複数のM&Aアドバイザーとコンタクトを取りソーシングを依頼します。M&Aアドバイザーによって得手不得手がありますし、希望案件をタイミングよくグリップしてこともまれです。そのため、M&A担当者は、M&AアドバイザーやM&Aにかかわる専門家との交流を定期的に行い、常に自社の希望する案件情報を共有してプッシュしておきましょう。M&Aアドバイザーは複数社から案件依頼を受けているので、貴社の要望が後回しにされている場合もあるのです。

案件打診があった際の「意思決定ルール」も重要に

M&A案件のソーシングの種まきをしたら、次は刈り取る準備です。買収資金の目途をつけておくことはもちろんですが、案件の打診があった際の意思決定ルールも重要です。社長主導でM&Aを行う場合は、着手の意思決定は社長が行うでしょう。

 

しかし、情報が担当者経由で入った場合、部長、役員、社長の順に確認といった通常の意思決定の流れをしたとします。皆が戦略の理解があり、M&Aの重要性や概念を理解していれば時間がかかることはないのですが、担当者以外は案外見識がありません。階層のどこかで勝手に判断してしまい、情報がストップすることも考えられます。これでは、せっかくの可能性を逃すことになります。

 

また、外部からの情報が社員や代表電話などから寄せられる場合も十分に考えられます。M&Aを実行する場合、すべての情報がM&Aの担当部署につながるように、情報の流れの確認や社員に対しての認識をそろえておくことが大切です。通常、M&Aアドバイザーは複数の買い手企業に打診を行います。そのため、案件情報の共有をして、社長の意思決定ができるように日頃から準備しておきましょう。

 

最後に、買収後の統合作業についてです。対象事業のペルソナを整備したら、買収した際に、その企業をマネジメントする責任者とともにシミュレーションを行います。実際にギャップが埋められるかを確認、M&Aが社内に与えるインパクトを予測などです。事前に統合後のシミュレーションを統合マネジメントチームと行っておけば、案件化が進み、基本合意契約を締結したタイミングで、統合作業をスタートさせることが可能です。買い手にとっては、M&Aはゴールではなくスタートなのです。

 

今回は、買い手が行う準備のポイントについて整理しました。戦略をもとに、事業ペルソナを準備しましょう。アドバイザーや専門家のネットワークは随時探し、案件ソーシングの際は定期的にコンタクトをする。M&Aに対しての意思決定は通常と異なる仕組みを考え、外部からの連絡を担当部署に吸い上げる仕組みを整えておく。統合後の作業を実際の統合マネジメントチームとシミュレーションしておき、基本合意契約を締結するタイミングでPMI(買収後の統合・運営作業)に取り掛かれるようにしておくことがポイントです。

 

 

早嶋 聡史

一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役 

 

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