今回は、経営者にアパマン経営や持ち株会社設立を持ち賭ける銀行の思惑を探ります。※本連載では、現場での実務経験豊富な経営コンサルタントである著者が、銀行交渉の成功事例、融資を受けるために知っておきたい銀行の内部事情などを紹介します。

販売業者が30年間家賃保証する、安心なアパマン経営!?

数年前、あちこちの経営者から、次のような相談がいくつかありました。

 

「銀行からお金を借りてアパートを建てようかと思うんですけど、どうですかね?」

 

というものです。

 

「えっ、そんな場所に建てて空室だらけだったらどうするんですか?」

「ところが、販売業者が30年間、家賃保証してくれるんですよ」

 

「それは絶対に何らかの条件が付いていますよ! そんなの受けたらエライ目にあいますよ!」

「そうですかねぇ。業者は絶対安心です、て言うんですけど・・・」

 

というやりとりを、何人かの方としたのを覚えています。

 

そもそも、勧める側が「安心です」というのは当然です。そんなことにさえ疑いを持たないくらい、容易に儲かる話しがあると、気持ちがそちらへ流れてしまいます。ゼニ儲けの話しは、ときに人の判断力を鈍らせてしまいます。自分の都合のいいように、考えてしまうのです。

 

そのような方々は、今問題になっている、静岡県のシェアハウス問題を、どのように見ておられるでしょう。販売業者と銀行が手を組んで、甘い言葉でそこそこの小金持ちを誘い、億単位の借金を抱えさせました。

 

「家賃が保証されているので、じゅうぶんに返済可能ですよ」

 

ノルマ達成しか頭にない銀行員の言葉に、700人もの方が、甘い夢を見てしまいました。

 

「銀行のそんな言葉にだまされた!」

 

シェアハウスは入居者が集まらずに破綻、投資した個人に残ったのは、借金の返済だけなのです。融資契約を締結している以上、借金は消えません。

 

おそらく銀行は今回の融資でも、それぞれに連帯保証人をおさえているはずです。融資を受けた本人だけでなく、その負債返済の被害が、連帯保証人へと及んでゆくのは、まだまだこれからなのです。

 

同じようなことは、他の地銀でもここ数年、行われてきたのです。どこにでもあった話しです。同様の案件を勧めていた銀行担当者は、ビクビクしているはずです。

 

「おたくでもシェアハウスと同じようなこと、勧めていましたよね」

「金融庁がきたら、大変ですよね」

 

と、ビビらせてほしいのです。

銀行の「持ち株会社設立」の勧誘が下火になった理由

同じく数年前、あちこちの経営者から、次のような相談が頻繁にありました。

 

「銀行から、持株会社設立の提案書をもらったんですが、見てもらっていいですか?」

 

というものです。要は、“持ち株会社に株式を移して、相続税の対策を行いませんか?”という提案です。で、“持ち株会社で株式を買い取る資金は、私たちにお任せください!”というパターンです。

 

つまり、お金を貸したいのです。

 

それらの提案書は、どの銀行のものを見ても、ほとんど同じような内容でした。いずれも、その銀行の提携する税理士事務所などが、パートナーとして名前を連ねていました。それはまるで、共通のマニュアルを握らされた多数の営業マンが、全国各地で販売活動をしているような感じでした。

 

それがここしばらく、様子が変わってきました。

 

「ちょっと前まで持ち株会社設立を勧めていたのに、この最近、そのことを全く話さなくなりました」

 

というのです。

 

当然です。彼らが全国一斉キャンペーンのごとく、持ち株会社設立スキームを拡大しすぎたせいで、国税からそのスキームに、「待った」がかかったのです。「節税以外の目的が考えられない」と、否認される事案が出てきたのです。そのスキームには、持株会社を設立することの大義がなかったのです。

 

こうして、「持株会社設立」という獲物の乱獲が、おさまったのです。

 

そもそも、私たちがみても、不可思議な面が多々ありました。

 

「持株会社はどうやって融資のお金を返済するのか?」

「とんでもない高額の手数料を要求している!」

「持株会社を作らなくても、高額退職金を支給すれば解決するじゃないか!」

 

といったことなどです。

 

事業承継は、各社固有の問題を抱えています。銀行は、そんなことはおかまいなしに、
「持株会社設立」という商品を、売りまくったのです。すべては、銀行がお金を貸すため、であり、銀行員自らの人事評価の成績向上のため、だったのです。

 

もし今も、「持株会社設立」を勧める銀行員がいれば、

 

「そのスキームは、国税から否認される例が出てきているけど、どう考えているんですか?」

 

と、問いただしてほしいのです。

 

同時に、すでに銀行の勧めで設立してしまった、という方も、

 

「おたくの勧めで持株会社を設立したけれど、 まさか何の対策も考えていない、ということはないでしょうね?」

 

と、詰め寄ってほしいのです。

本連載は、株式会社アイ・シー・オーコンサルティングの代表取締役・古山喜章氏のブログ『ICO 経営道場』から抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://icoconsul.cocolog-nifty.com/blog/

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