「無借金経営だから借りられない」なんてあり得ない
前回に引き続き、銀行に対する認識を誤っている税理士について見ていきましょう。
【誤り③】月商の3ヵ月分の現預金を持ちなさい!
ある税理士の著書に、『月商の3ヵ月分の現預金を持ちなさい!』という記述がありました。しかも、
『銀行から借りてでも、そうしておきなさい!』
『借入金がないと、借りたいときに借りれない!』
『お金のことで悩まないために、借りなさい!』
と続きます。
「この人物は実は銀行員じゃないのか?」と思ってしまうような、借入推奨発言がバンバンでてきます。
活字の力はこわいです。このような書籍に触れると、「そうか! もっと借りればよかったんだ!」と、必要もないのに銀行借入を増やす経営者が現れるのです。
このような発想は、
「欠品をださないためには、在庫が多いほうがいい!」
「仕入れに余裕があれば、悩まなくてよい!」
という、資金繰りを考えない社員の発想と同じです。私たちの考えとは真逆の、ミスリード本です。
私たちは、
「現預金は月商の半分で回しなさい!」
「いつでも借りられる、強い財務体質・決算書にしなさい!」
「お金のことで悩まないために、不要な借入をするな!」
と、言い続けております。つまり、「銀行がいつでも貸したい会社にしておきなさい!」と言いたいのです。
「無借金だったので、借りれませんでした!」
そんな話は、私たちの顧問先では聞いたことがありません。
むしろ、
「無借金なので、支店長と顔を合わすたびに、借りてください! と言われます」
「無借金だったので、すぐに借りれました!」
という発言ばかりなのです。
借りれない、というパターンは、「借入が多すぎて、これ以上は貸せないといわれました!」というケースのみです。
それさえ、「どうしてこの悪い財務状況で銀行はさらに貸すのだろう?」と首をひねってしまうような融資を、最近は見かけるくらいです。
つまり、「借りていないとすぐに借りれない」などということは、ありえないのです。
銀行が注目するのは、返済能力です。返済能力さえ確認できていれば、いつでも貸したいのです。しかし、銀行が決算書のどこをみるか、ということについても、この書籍では、
驚くべきことが書かれてあったのです。
「当期純利益」は銀行の格付評価に無関係
【誤り④】銀行員はまず、当期純利益を見る
その書籍は、銀行員が決算書のどこをまずみるか、ということに触れています。
「既存取引銀行では、銀行員はまず、損益計算書の当期純利益を見ます」とあります。そして、「利益が出ているかどうか、チェックします」と続きます。
違います。
銀行員はまず、営業利益を見ます。当期純利益を見るなら、そのあとです。
むしろ、見ないといってもよいくらいです。
既存融資先なら、返済能力が落ちていないかどうか、が気になるのです。そこを判断したいのです。返済能力を判断するとは、格付評価(スコアリング)が落ちていないかどうかを確認したいのです。
銀行の格付評価(スコアリング)に関わるのは、営業利益です。格付評価の計算式のなかに、当期純利益という言葉は、一切出てきません。
つまり、当期純利益は、格付評価に無関係なのです。
そのような当期純利益を、銀行員が真っ先に見るなど、ありえないのです。
いるとしたら、自行の格付評価のことさえ知らない、無知な銀行員なのです。
さらに書籍ではこう続きます。
「当期純利益が赤字だと、銀行員は『大丈夫か?』と不安になります」
私たちの顧問先では、そんな話しは聞いたことがありません。むしろ聞くのは、
「営業利益と経常利益が黒字で、当期純利益が赤字ですか! いいですねえ!手元にキャッシュが残りますね!」
と、銀行員から感心される言葉を受けた、という話ばかりです。
最近はビジネス誌でも、「借金経営のススメ」などという、ミスリードを誘うタイトル記事が出ています。
借金は、必要に応じてするものです。「借金経営」などと、ひとくくりにして勧めるものではありません。
借金は、返さないといけません。「借入金を増やせばお金の心配は無くなる」などというウソに、惑わされないようにしてほしいのです。