銀行を取り巻く今の環境を知らない税理士
税理士が書いている書籍や、顧問先での税理士によるアドバイスを聞いていると、「その税理士は、銀行に対する認識を誤っている!」ということが、よくあります。
【誤り①】無借金にしないほうがよい
貸借対照表を拝見すると、左側に現預金がたっぷりあるのに、右側にほんのわずかな借入金が残っている場合があります。そんなときは、
「これだけ現金があるんだから、借入金なんて残さずに、全部返済したらいいじゃないですか!」
と言います。借りる必要がないのに、借りているのです。
すると、経営者がこういうのです。
「税理士から、無借金にしたら次に借りたいときに借りれない、だから、無借金にしないほうがよい、と言われました。」
「え!?それっていったい、いつの時代の話しをしているんですか!」
と叫んでしまうのです。
銀行を取り巻く今の環境を、税理士がいかに知らないか、ということを思い知らされる瞬間です。
銀行は相手先が無借金なら、なおのこと貸したいのです。無借金ということは、強い返済能力を維持しているのです。銀行にとっては、不良債権化するリスクがほぼ、ないのです。
リスクが低いほど、銀行は、貸倒引当金を積む額が小さくなります。銀行は、貸倒引当金をできるだけ積まなくてもよい会社に、貸したいのです。
というのは、
銀行は、不良債権のリスク低減で積み立てる貸倒引当金を、費用計上する必要があります(但し、損金にはなりません)。その貸倒引当金が大きくなるほど、銀行は自らの利益を圧迫するのです。
(銀行の損益計算書には、営業利益はなく、「経常収益-経常費用=経常利益」となります)
低金利で利息を稼げず、業績悪化に苦しむ銀行は今、大規模なリストラや規模縮小、統合・合併、などに追われています。それほどの経営難なのです。銀行こそいまや、格付けすれば、破たん懸念先、なのです。融資先の格付けをしている場合ではない、くらいの状態なのです。
銀行がそのような状況なのに、
「無借金にしないほうがよい!無借金だと借りれない!」
などという税理士は、世間知らずにも程があるのです。大ウソです。
税理士が言うウソに流されないためにも、経営者自らが、銀行交渉に関する知識を、身につけてほしいのです。
しかし、税理士が無借金を勧めない理由は、
もうひとつあるのです。
損益計算書しか見ない、貸借対照表を理解していない
加えて、税理士が無借金を勧めない理由が、もうひとつあります。
【誤り②】損益計算書しか見ていない、貸借対照表のことをよく理解していない
無借金であれば、元金返済がありません。借入金があれば、元金返済が発生します。もちろん、支払利息も発生します。
無借金であるのと、借入金があるのと、どちらが資金繰りはラクなのか、といえば、無借金のほうがラクであるのに決まっています。
そのことが、無借金を勧めない税理士には、わからないのです。
それに、余計な借入金があると、そのぶん、貸借対照表の総資産は膨らみます。総資産経常利益(ROA)は下がり、自己資本比率も下がります。銀行格付(スコアリング)の指標にとっては、マイナスの影響ばかりです。
そのことの、何が良いのでしょうか?銀行格付(スコアリング)のことなど、まったくご存じない証拠です。
無借金を勧めない税理士は、損益計算書重視で、貸借対照表には関心がないのです。
税引前利益がいくらで、法人税がいくらか、が最大の関心事なのです。
そんなことを続けていたら、貸借対照表への理解が薄れてゆくのは当然です。
もし、自社の顧問税理士が、無借金を勧めないのなら、問題のある税理士だ、とご理解ください。そのような税理士に決算処理をお願いしていたら、稼いだ利益がどんどん流出することになってしまうのです。